斎藤美穂(舞台監督) ・〔夜明けのオペラ〕
大坂出身、大阪音楽大学と大学院で声楽を学んだあと、東京に出て舞台監督集団の会社に入り、当時はほとんどいなかった女性舞台監督の道を切り開いてきました。 これまでに新国立劇場では「アンドレア・シェニエ」や「ナブッコ」などのオペラを手掛け、他にはミュージカル、能、文楽とオペラのコラボレーション、和太鼓の公演など幅広い分野で活躍、この春には新国立地劇場で出演者が300人を超えた「アイーダ」を手掛けました。 舞台の幕が上がり、カーテンコールを迎えるまですべての鍵を握る舞台監督の仕事とは、舞台裏のエピソードを含めて、お話を伺いました。
つい先日終わったのが新国立劇場のオペラ研修生たちの公演の舞台監督をやりました。 オペラの業界では「チビタ」で通っています。 18歳の時に裏方のアルバイトに行った時に、おじさんがいきなり「おい チビタ」と呼ぶんです。 それ以来、「チビタ」で通っています。
「アイーダ」は約300人と馬2頭が出演しています。 ジュゼッペ・ヴェルディの舞台の作り方、見せ方、今までに出会ったことのない人でついてゆくのが必死でした。
*「アイーダ」の「凱旋行進曲」
以前「アイーダ」をやった時に、イタリア人のテノール歌手でジュゼッペ・ジャコミーニとう名テノールがいますが、出番の時にぶるぶる震えているんです。 こんな世界的な有名な歌手が震えているのかとびっくりしました。 出ると堂々と歌いました。
小学校3年生から声楽の先生のところにレッスンに通いました。 大阪音楽大学と大学院で声楽を学びました。 或るきっかけで、アルバイトとして舞台監督部に入って行きました。 私は機構で動くものと人間が動かすものがコラボしながら展開されてゆくのが一番大好きで、機械だけだとA地点からB地点までしか行かない。 人間が動かすと人間でしか見えない妙技が出てきてそれが面白かった。 舞台監督は女性の方が向いているかもしれないという人も現れてきました。 他の世界も同じかもしれませんが、男性、女性両方いるからいいものが生まれてくるという事があると思います。
「トスカ」でスカルピア男爵をトスカがナイフで胸を刺そうとする場面で、トスカがナイフを持って襲い掛かろうとした瞬間に、ナイフがくるくると床に落ちてしまった。 さて、どうするのかと思っていたら、人差し指を突き出してスカルピア男爵の胸を刺したんです。そういったこともありました。 そういったハプニングはしょっちゅうあります。 そういったハプニングをお客様に判らないようにみせてゆく能力も必要です。
別の「トスカ」のある場面で、燭台を倒して帰ってきてしまって、本人に聞いたら「なにが」と言っていました。 スカルピア男爵が火事になったらいけないと思って一生懸命倒れた7本の蝋燭を踏んでいました。 よっぽどの事故がある限りでないとオペラは止められない。
*「トスカ」から「歌に生き恋に生き」 歌:マリア・カラス
舞台で一番幸せだなあと思う時は、幕が開く瞬間です。 幕が開く迄が大変なので。 お客さんが、カーテンコールを何回やっても帰ってくれない作品に何本か出会って、あれも幸せでした。 舞台監督の使命は、①作品の命を守る事、②人の命を守る事この二つです。 人が増えるにしたがって危険度は増しますが、上手く出来るのは危険回避能力をあげているんです。 舞台監督は醍醐味を味わったら駄目だと思うんです。 いつも冷静で、的確な指示が投げかけるような、態勢と精神でいないと駄目だと思います。
秋からは和太鼓の稽古があります。 その先もいろいろ詰まっています。
*オペラ「カヴァレリア・ルスティカ-ナ」から「 賛えて歌おう」