大野裕(精神科医・国立精神神経医療研究センター顧問) ・「悩みとうまくつき合うヒントとは」
大野さんは1950年生まれ。(76歳) 慶応大学教授、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター所長などを務め、専門の認知行動についての研究と臨床を続けて、長年取り組んできました。 大野さんはこれまで一貫して、人の心と真摯に向き合い続けてきた精神科医です。 そうした歩みの中で、人間にとって悩むことはとても大切な事、実は私自身もずっと悩み続けてきましたと語っています。 今日は大野さんの半生をたどりながら、悩みとどう向き合えばよいのか、そのヒントを伺います。
或る程度悩みと言うのはブレーキだと思います。 悩んでちょっとブレーキをかけて、周りを見ながら進んで行くというのが必要です。 ブレーキをかけすぎると進めなくなってしまうし、ブレーキを掛けないと突き進んでしまう。 「病気」と言う言葉を使う事が良くないと思います。 うつ病に原因がはっきりしているかと言うとわかってはいない。 生まれてからずーっとその人の人生を追跡してゆくという研究がようやく最近発表されました。 1970年代にニュージーランドのダミーデンで1000人余りの人をずーっと追跡していきました。 45歳までに86%の人が精神疾患と言う状態になった。 20歳ぐらいまでの若い人が多い。 医療機関に行った人はそんなに多くなかった。
認知行動療法、悩みを解決するように手助けする事です。 悩みを解決するのは自分です。 ぬかるみから抜け出すためにどんな手立てがあるのかと考えれば、抜け出せる手立てが見えてくる。 やれば先に進める。 落ち込むという事は何か大事なものをなくしたとか、失敗したという時に落ち込むわけです。 これはちょっと立ち止まれと言うメッセージです。 さあどうしようかなという考える時間が必要なんです。 ネガティブは次の行動に繋がるきっかけになってくるわけです。
私は愛媛県の山奥の出身です。 学校に行くのに、松山に出て下宿生活を始めました。 夜になると真っ暗になり涙が出て来て、なんでこういう辛いことをさせるのかと、親にも酷いことを言いました。 勉強もできなくなり、勉強しようとしなくなり、本当に勉強が出来なくりました。(中学) 高校1年の時に落第しました。 二度目なので少し授業がわかるんです。(意外と馬鹿ではないかもしれないと思う。) そうすると勉強するようになってくる。 親がやる気があるのかといってきた時に、「有る。」と言ったんです、そうしたら親が何も言わなくなってきました。 (それまでは何で勉強しないのかとうるさかった。)
優しくするとか、支えるという事は、手を出すという事もあるが、遠くから見守る優しさとかいろいろなものがあるんだなと思います。 父親は歯医者をしていて、不器用だったので医者になろうと思いました。 いろいろな大学を受けましたが、全部落ち続けました。 親は何も言わないので自分でやるしかない。 浪人して、予備校に行って仕送りがなくなったら2,3日食べなかったこともあります。 4回目の挑戦で慶應義塾大学医学部に入りました。
小学校から高等学校までいろいろな人とのつながりの中で生きてきました。 その間周りから助けてもらいました。 人の気持ちを助けることも、人が出来る事なんだと、それが精神医学なんだという事を感じていました。 卒業後5,6年経った時に、コーネル大学の人たちが来て、来ないかと言う話があり行くことにしました。 しかし、言葉が判らない。 いろいろ交流の仕方があるんだという事は学びました。 アーロン・ベックと言う認知行動療法を作った人で、その先生からも学びました。 学会でしゃべっても人気が無く出て行ってしまう人もいて、帰ってから娘の前でも同じようにしゃべって、娘から「お父さん、いい発表ね。」と言われていて、アーロン・ベックさんからはその話を何回も聞かされました。 (繋がり)
アレン・フランシス先生からは、その人に合った治療をした方がいいという事を学びました。精神科鑑別治療学、治療があってその人がいるのではなくて、その人に合わせて治療を考えてゆくという事です。 その為にいろんな治療法を勉強しろという事が、私が習った事です。 非常に臨床的なことを学びました。 受け止める優しさ、自分でやれと言う優しさと、これが必要なんだと思います。 会話で大事なことは共感をして、一緒に現実をみて、それを自分が自分で出来なくさせている、一人の自分がもう一人の自分にどんな声掛けをしているにかと言う事を考える、これを自動思考と言われる認知行動療法の肝心なところで、自分に対する声掛けが極端になってしまうと、辛くなってくる。
悩みに気付いてデジタルの力を借りながら整理してゆく。 疲れている時には自分の力だけでは難しいので、それをサポートするような仕組みがひとつだと思います。 相槌だけ打ってくれるフローを作って見ました。 東京都のホームページのものを解析してみると、4割近くの人が相槌を使っています。 寄り添って、聞いてもらえることが大事なんです。 自動的に出来る部分と人が介在する部分との組み合わせが上手くできればいいなあと思います。 死にたいと思って考えた人は1~2割はいます。 相談相手がいないというような時に、「宛名のない手紙」と言うものを作りました。 好きなものを好きなように投稿する。 辛い、死にたいという事を投稿する。 投稿することで居場所が出来たという感覚を持つ方が結構います。 そういったことでころで孤立を防げればいいんじゃないかと思います。
一方的に吐き出しているというよりは、書いている人の心の中に、これを読んで欲しいという気持ちがあると思います。 そこに双方向の背景があるのではないかと思います。 私は繋がりに支えられて頑張ってきました。 「遠回りだって僕の道」と書いてあったのを眼にしまた。 写真に撮ってスライドにして使っています。