持田叙子(近代文学研究者) ・「荷風は女性の味方です」
持田さんは、1959年東京都生まれ。 1995年から発刊が始まった折口信夫全集の編集解説を担当、荷風研究では、2009年「荷風へようこそ」でサントリー学芸賞を受賞しました。 荷風の他折口信夫や泉鏡花についての著書もあります。最新の著書は去年出版された「ことばで愛し、ことばでたたかう日本文学の宝石箱」です。 また去年創設された永井荷風新人賞の選考委員をされています。
6月は荷風の季節と言っていいと思います。 梅雨を取材にした「雨、少々」と言う小説も若い時に書いています。 男の方の荷風論と言うのは、非常に尊敬するし、調査も行き届いていますが、遊びの世界、荷風は粋だ、男としては憧れるというのが多いです。 評論家の川本三郎先生が荷風の評論の先人を切ってますが、川本先生自身がエッセイで早く女性の研究家が出て、こういう見方を変えてちょうだいと言うふうに呼びかけていましたので、違った口調で発掘してみたいと思いました。
平和こそ一番尊いものなんだと言っています。 荷風は甘いものが好きで、「砂糖」と言うエッセイで、日々のおやつこそ平和の証だ。 そういうものはゆとりがないとおやつなどできないと言ってました。 日々のおやつを大事にして平和のシンボルにしましょうと、「砂糖」と言うエッセイで呼びかけていました。 全集も35巻あります。 20歳前から亡くなる直前まで書き続けました。
私の経歴は、大学、大学院では、民族学者、国文学者、歌人でもあった折口信夫の研究をしました。 荷風も折口信夫もずっと独身でした。 結婚するとかなり自由が束縛されるので独身を通しています。 荷風は若い頃2度結婚していますが、その後は独身、平和を愛したということで2人に共通点があります。 乙女、少女を平和のシンボルとして詩や小説で主題にしていると言うところがこれが大きく結構重なっていると思います。
私は40代の時に体調を崩し折口信夫を研究することは厳しいと思っていた矢先に、荷風の作品との出会いがありました。 荷風は柔らかくて優しくて助けてもらったらという感じがしました。 来青花と言う花のエッセイに引き込まれれました。(38歳の時の作品) 荷風は庭が大好きでした。 荷風といえば、散歩の達人。 荷風は男子たるもの裁縫はできねばならぬ、料理もできねばならぬと言っていました。 真の人間の独立は家事ができなければ話にならいと言う主義でした。
荷風は24歳でアメリカに留学して、その後銀行員になってフランスも行ってます。 荷風には「アメリカ物語」と言う短編小説集がありますが、アメリカの乙女の自由な姿に感激しています。 荷風は、アメリカやフランスに行く前から、ほとんど乙女が基本です。 結婚などに関する乙女たちの恨み、怒りを初期から荷風は小説にしています。 荷風は最初の結婚が父親の言うなりのお見合いでした。2人目の奥様が芸者さんです。 離婚した後付き合ったのは玄人の女性です。 日本でも自由な女性が出ればいいと思ってたんですが、絶望したんではないでしょうか。 自分は絶対に素人の女性を騙したり遊んだりはしない、それは自分の誇りだと書いています。
荷風は、子供の頃から芸者さんと言うものに非常にピュアに馴染んでいました。 父親の家にしょっちゅう芸者さんが来てました。 家庭の宴会のお手伝いなどもしました。 乳母のような存在とエッセイで書いています。 荷風の時代には60歳になると隠居、荷風の視点からすると、社会とも競争しなくても良い。社会の外の世界に生きられると言う思いがありました。 組織から抜けた人の尊い眼差しと言うことを荷風は大切にしています。 素敵なおじいさんをたくさん小説に登場させています。 荷風は平和を徹底的に守った文学者と言う面を見ないというのは非常に私たちの損ではないかと思います。 荷風は戦争に迎合するようなことを一切書かなかった。 私が荷風から影響受けたのはすごくありますけれども、あんまり頑張らない、頑張って自分の野心を達成しようとすると、かえって人の迷惑になったり、人を傷つけたり、自分も傷つく。 文体も断言しないと言う風に、柔らかく、素直な文章を書いていきたいと言うふうに意識が変わりました。
私は本が好きで、少女漫画、児童文学、純文学の境目が私にはないんです。 日本画を描くのが好きでした。 手を悪くてしまったので描くことが出来なくなり、見るのも好きです。 荷風と日本の古い伝説は、まだ焦点が当てられていないと思いますので、古い日本の古い良き物に出会おうした柳田邦夫と永井荷風をテーマに書いてみたいなと思っています。 去年創設した永井荷風新人賞の選考委員になりました。
永井荷風は79歳で亡くなりました。 荷風から学ぶシニアの生き方、生活は、その知恵は荷風のエッセイにいっぱい出て来ます。 孤高を保て、孤独を恐れるなとか、なかなか難しいところはあります。 荷風から教えてもらったものの、1つに毎日夜の空を見なさい、月とか星のことを見てメモすることによって、ちょっと心がロマンチックになります。