対馬千賀子(料理家) ・「師に学んだ日々の食事は、命の源」
対馬さんは1972年生まれ北海道東北部の江差町出身。 高校卒業後料理家への道を進み、高い技術が求められるフレンチのシェフとして5年ほど修行の日々を送ります。 その後対馬さんは次に学びたいと選んだのは家庭料理でした。 手塩にかけた家庭料理の数々やスープの魅力を伝えていた、料理家の辰巳芳子さんとの出会いが大きな転機となったといいます。 対馬さんは30歳の時に辰巳さんの内弟子になり、17年間生活を共にしながら、日々の料理と向き合い続けました。 辰巳さんの思いを受け継ぎ、料理の真髄を伝え続ける対馬さんの人生を伺いました。
スープ教室に習いに来る方は、中高年の女性の方が多いです。少ないですが、若い男性の方も来ます。 辰巳さんのスープは、命のスープと呼ばれ、嚥下障害を持つ方や終末期の患者に食の喜びを伝えたいと言う思いで考案してます。 生きる力を引き出すとして各地の緩和ケア病棟でも採用されています。 辰巳先生の味は基本的に優しい味がします。 素材の味を生かしたスープなので、なるべく新鮮な良い状態のものを使って作ると言う事はまず第一です。
私の生まれは、北海道の江差町で牛の数の方が住んでいる人間よりもはるかに多いところです。 4人兄弟の末子です。 小学校の時に担任の先生が家に呼んでくれて1泊すると言うことがありました。 そこで米を研いだ記憶があって、それからです。 家に帰っても米を研ぐことをずっとしてました。 中学を高校の頃は、ケーキをよく作って親に食べさせたりしました。
高校卒業後、料理の専門学校へ進みながら、ホテルの調理のアルバイトをしました。 高校卒業後、就職を希望したのが、札幌の有名なフレンチ店でした。 世界の料理コンクールで金賞受賞したカリスマシェフがいました。 そこを希望しましたが、ダメでした。 札幌のホテルに就職しました。 この一皿を1番良い状態でお客さんに出したいと言う事を考えて料理してるので、本当に気が抜けませんでした。 基本のことを何でもない日常のものが美味しく作れる人になりたいと言う希望だったんですが、仕事が忙しすぎて、そういったことができませんでした。5年で路線変更をしました。
辰巳先生との出会いはありましたが、その時先生は77歳でした。 辰巳先生の本にも衝撃を受けました。 基本がしっかりしているところだと思います。 先生の「白和え」は、白和えのもとを作って、馬毛のこしで2回こします。 最後は絹目のこしでこします。 出来上がりはクリームのようにとろとろです。
先生の紹介で、最初の2年間は大分の旅館で勉強しました。 月に1回辰巳先生の鎌倉の教室があって、そこに大分から通いました。 辰巳先生が79歳私が30歳の頃に内弟子となりました。 内弟子としての日々について、2025年に「あるべきように辰巳芳子の長寿の食卓」と言う本を出版しました。 辰巳先生の食べた一年間の記録と季節ごとの旬の食財を使ったレシピ、自分の17年間学んだこと、心に残った言葉などが書かれています。 普段の辰巳先生とはこういう人ですという事を書いておきたいなと思って書いた、はじめての本です。 私から見た辰巳先生というのをこの本に書いておきたいなと思いました。
先生は本当によく人のことを観察する人でした。 心理学を学んでいた時に観察、記録し、分析する。 人だけではなくて、食材にも向かいました。 向こうがおいしいよって言ってるのを目で見ると、それがわかると言っていました。 その人のために怒れると言うのは、逆に言うとすごいことだと私は思います。 先生は常々愛すると言う事は、その対象に対してより良くことを願うこと、と言うふうに話してます。 料理に言えば、食材についても同じことで、そのものはより良くなるように手をかけよ、と言うことと一緒だと思います。
人の言葉や行動は、その人そのものをまとっている。 私も好きな言葉です。 気づきのある人になれると、生きていきやすい、人が生きる上でいろんなことがありますけれども、それを乗り越えるたびに気づきのある人と言う事は、常々先生が言われてる言葉です。 料理をしていると考える力が育つと思います。 色々段取りを考えないといけない。 違う事でも想像できる。 辰巳先生は、料理を通して皆さんに伝え続けていたんではないかと思います。
特に出汁は先生は大切にしてました。 日本料理の中の基本中の基本だと思います。 手間ひまをかけると言うことを考えると大変になってしまいます。 手間ひまをかけると言うよりは、そうしなければいけない。 そうしたら美味しくできると言うふうに自分の考え方を変えた方がいいじゃないかと思います。 そうすると体に良いしおいしいものができます。 そう思ってやることが大切だと思います。 段取りを自分の中に作ってしまうと、実は出汁ってそんなに大変ではないです。
辰巳先生の弟子なって25年になります。 自分自身を支えるのは食べることと言う意識が根底から変えられました。 今、教室をいろんなところで行っているので、先生のスープは病気の方から小さなお子さんまで飲むことができる貴重なスープなので、それを絶やすことなく、私が習ったままの形で皆さんに伝えていくと言うことを続けていきたいと思ってます。 辰巳先生は、私にとっては、偉大な尊敬する方で、今後も長く私たちを見守ってほしいと思っています