2023年8月11日金曜日

ユリヤ・ボンダレンコ(ウクライナ人芸術家)・〔戦争・平和インタビュー〕 "虹色"の故郷に思いをはせて

 ユリヤ・ボンダレンコ(ウクライナ人芸術家)・〔戦争・平和インタビュー〕  "虹色"の故郷に思いをはせて

ロシアによる軍事侵攻が始まってから1年半近く経つウクライナ、激しい戦闘で民間人の犠牲者も増え続けて居ます。  こうした中、首都キーウと姉妹都市の京都市は、民間と協力して避難民の受け入れを進めてきました。  現在キーウなどからおよそ80人の避難民を受け入れています。  その芸術家の一人、ユリヤ・ボンダレンコさん(31歳)は軍事侵攻で生活や創作活動が出来なくなり、心身の限界から断腸の思いで、去年の8月京都に避難してきました。来日しておよそ1年、避難生活のなかで創作意欲を取り戻し、芸術活動を通して祖国の平和を訴えようとするユリヤさんにお話を伺います。

日本語は8年前から勉強して、ウクライナでは日本語の講師も務めています。  東日本大震災で被災した方の話を聞いたことがあり、家を失い愛する人を失った人がゼロから人生をやり直すことになった、そんな心の力を持っている日本人の母国語を習いたくなりました。 独学でした。  出身はウクライナ北部のチェルニヒウ市、歴史的な街で広大な教会で有名です。  自然が凄く美しいです。  両親と妹と4人で暮らしていました。  貧乏だったので楽しいことは絵を描くことだけでした。  プロのアーティストになりたいと思いまいた。   美術学校を卒業したあと、イラストレーターとして教科書のイラスト、グラフィックアート、水彩画など製作して郵便で送りました。  

戦争が始まり、赤い空、赤い雪になりました。   実家から10分程度のところで爆発があり火事になりました。  雷の100倍ぐらいの音がしました。  スーパーで並んでいた方が13人撃たれました。  居合わせた両親は奇跡的に無事でした。  ミサイルなどで昼と夜がわからないぐらいになっていました。  実家の近くの穴倉で時間を過ごしました。(4人がやっとは入れる広さ)  なかなか寝られませんでした。  湿気などがあり熱を出して3日間立ちあがることが出来ませんでした。  

チェルニヒウ市では凄い戦いがあり、ずっといることは危なくなりました。  私は避難を決意しましたが、母は拒否しました。  母はもう二度と会う事がないかも知れないと抱きしめて「さようなら」と言いました。   ハンガリーを経てドイツへ4日かけて車で避難しました。  空には戦闘機が飛んでいて撃たれる可能性がありました。  母からもらった十字架を握って祈っていました。  3か月後に日本に避難した時に、寝られるようになりました。  

京都は私の故郷と同じような雰囲気で実家みたいに感じています。   住む準備の時間、京都御苑の近くのホテルに泊まりました。  古木があり力強い根が見えました。    古木を抱きしめて、古木の力が心に流れる気持ちを感じました。  そのもとで日記を書いて心が落ち着きました。  私の言葉がお母さんの気持ちを明るくするプレゼントになりました。  私の一番親しい友達は古木です。  古木をモチーフにアクリル絵の具で絵画を描きました。   「古木の力」という1m四方の作品です。   京都に来てようやくアートの作品を作る意欲が出てきました。  

自分が体験した戦争のことを2枚の絵にしました。(それぞれ40×50cm)     1枚は「故郷の窓」という作品、ウクライナの国旗と同じ青と黄色の窓枠、クレヨンなどで鮮やかに描かれている。  その周りには、鉛筆、墨液の黒で瓦礫のようなものが描かれている。   窓だけを描いていますが、もう本当の家はないという事です。  ウクライナ人の人生のイメージはちいさなかけらに壊れてしまいました。  壊れた窓と小さなかけらを描きました。  黄色と青はウクライナ人の独立のための戦い、気持ちを表しています。 

もう一枚は「避難の道」という作品。  日本までの道のり描いたもの。 左から3つのシーンを表現している。  左が故郷のチェルニヒウ市、中央が最初の避難地ドイツ、右が日本で日の丸を思わせる赤い太陽が描かれている。 太陽に向かって青い鳥、黄色い鳥が向かっている。  その中に私もいます。  ドイツまでは雨が降っていて、苦しい時期で涙を表しています。  描くことはつらかったけど、アーティストは正直な気持ちを伝えなければいけない。   今ウクライナで起こっている戦争はウクライナ人だけではなく世界中の皆さんの問題だと思います。  

銃撃などで破壊された故郷の日用品を取り寄せて、修復する現代アート展。  祖国から届いたのはおよそ20点。   戦争の恐ろしさを伝えるものです。  軍の施設だけではなく幼稚園、学校、病院などが破壊されてしまいました。  届いたこれらは一般市民のものです。  日本の伝統技法「金継ぎ」で修復しています。  「金継ぎ」はものの価値を高めます。  同じように人間の心もです。   どの作品にもアクリル絵の具で虹色が描かれています。  「虹継ぎ」と名前を付けました。  ウクライナでは虹は希望を表しています。  戦争という雨が止まって、ウクライナ人の空に希望の虹が現れます。  ウクライナ人の心は回復し、ウクライナは平和な素晴らしい国になるという希望です。     希望をウクライナ人に届けたい。   

お互いに国境、文化、言葉を尊重してくださいと世界の人々に感じてもらいたいです。  戦争の原因はプライドだと思います。  お互いを尊重するとか、感謝することは平和に対して凄く大事なことになります。  私の一番好きな俳句は小林一茶の俳句で「かたつむりそろそろ昇れ富士の山」  毎日一歩一歩進んだら或る日富士山の上にのぼる可能性があります。  毎日平和のためにちいさな努力をそれぞれの人がすると、今のウクライナの状況、世界の状況は変わるほどだと思います。  私の作品のメッセージは自然の価値を伝えたり、それぞれの人の価値は凄く大きいという事を伝えています。   私の作品をお客さ様がみて、自分自身の平和のために、平和を守るために何かが出来ると聞いたら、私は本当に幸せです。   ウクライナで起きている戦争が早く終わらせるのが、ウクライナ人の夢です。