穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】
「ネコは言っている、ここで死ぬ定めではない」 精神科の春日武彦先生とテーマは死についての対談をして、それに漫画家のニコ・ニコルソンさんが漫画にしてつけてくれた対談集ですが、読者の年代によって反応が違いますね。 歌人の岡井隆さんが亡くなられて【ほむほむのふむふむ】でも紹介しました。 その中に面白い短歌があったから笑っちゃったんですが、亡くなったのに笑ってていいのかなと思いましたことを対談に中で話ましたが、それはそれでいいような気がしました。
短歌入門講座という事で進めていきたいと思います。 良いなと思った短歌を紹介してどこがいいのか考えてみようかなと思います。
*「凄い人言ってる私もその一人金曜夜の渋谷になった」 下目黒りんご どこがいいかというと「金曜夜の渋谷になった」というところ、「金曜夜の渋谷に立った」では普通ですね。 自分も渋谷の一部になった。
「指を折り数えて寂しいわたくしはあなたにとって何番目の月」 鈴木美紀子? 「何番目の月」と言いうところが面白い。 普通は「何番目の女」とかになるかとは思いますが、それでは詩にならないというか。
*「空き巣でも入ったのかと思うほど私の部屋はそういう状態」 平岡あみ? 作った時に中学か、高校生だと思います。 普通は「散らかっている」とか書いてしまうが、「そういう状態」というと、一瞬考えて、引っ掻き回されたように汚いんだなと思うわけです。
短歌の価値はそういうふうに言葉のを情報として扱うところではない。 言葉そのものが生きている感じ。 ニュースや新聞の言葉は避けたいから懐疑的にならないように書く。
*「大仏の前で並んで写真撮る私たちってかわいい大きさ」 平岡あみ? 「とてもちいさい」だとすると、当たり前で面白くない。 「かわいい大きさ」というのは大きさが中心なんだけれど、 「かわいい」=「小さい」ではなくていろいろなことを含んでいる。 小さいでは楽しさが出ない。
*「ネズミ捕り四個を置くも一つだにかかっていない賢いネズミ」 中村清女? 80代の方だと思います。 「賢いネズミ」というところが面白いですね。 4個も置いたのに1個もかからない。 むかつく気持ちがあるかもしれないが、「賢いネズミ」というほうが面白いですね。 余裕がある感じ。
*「「すす」「スイス」「スターバックス」「すりガラス」「直ぐむきになる君が好きです」」 安武まり? 二人の人がしりとりをしている。 「す」で攻め合っている、5、7、5、7、7の短歌でありながら、最後に愛の告白になる。 「直ぐむきになる君が好きです」が面白くて「素敵な笑顔の君が好きです」とかではだめなんですね。 君が特別に好きだという意味にはならない。
*「都会にはホームが十五もあるのです ねえお母さんねえお母さん」 みつ? 高校生の方だったと思います。 「ねえお母さんねえお母さん」が面白い。 お母さんは故郷にいるんですね。 新聞記事的に言うと「都会にはホームが十五もあるのです 故郷の駅は無人改札」とか普通の短歌で意味はよくわかるが、伝わらないものがある。
「ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聞きに行く」 石川啄木 多分停車場は上野駅で、下宿で寝転んでいると、ふっと訛りが聞きたくなって、人ごみの中に行ってそれを捜しに行った。 「停車場の人ごみの中にふと聞きしわが故郷の訛りなつかし」これなら普通に判る。 偶然駅で聞くことはある。 アレンジすることによって名作になったと思います。
リスナーの作品
*「手花火の最後の沈黙耐えられずさっさと家に入った私」 さっさと家に引きあげたというところが新鮮です。
*「あと少しあと少しだけ頑張れば風の稜線 稜線は風」 山登りしている様子。 言葉の繰り返しがいい。
*印の作品は漢字、ひらがななどの書き方が違っているかもしれません。