2021年9月14日火曜日

山本勉(鎌倉国宝館館長)        ・仏像を知り、人間を知る

 山本勉(鎌倉国宝館館長)        ・仏像を知り、人間を知る

1953年神奈川県生まれ、68歳。  東京芸術大学在学中、奈良で出会った運慶の大日如来像に惹かれ、以来仏像研究に打ち込んでいます。   これまでに仏像の解説書を数々出版していますが、今年5月に出版した「完本 仏像のひみつ」は親子向けの仏像企画展がもとになった書籍で、非常に判りやすくユーモアに溢れています。  人生に仏像研究をささげてきた山本さんに仏像の魅力とその半生を伺います。

「完本 仏像のひみつ」 判り易く、イラストがコミカルなタッチです。  表紙は東京国立博物館にある重要文化財の菩薩立像です。  

子供のころは特に仏像には興味はなかったです。   美術史、美学を大学で勉強してから、漫画家になろうと思いました。   大学に2年生の時に、奈良に研修旅行に行って、運慶が若いころに作った圓成寺の大日如来像にであって感動して、仏像の凄さを知ったのが始まりです。   仏像っていうのは人間の体をしているんだという事が一番大きかったです。  当たり前の事実にショックを受けました。   運慶という作家、仏像についても勉強したいと強く思いました。   実技をやっている学生たちに対して、自分というのはなんてつまらない存在だろうと、凄く劣等感を持っていました。   仏像の勉強を始めて、仏像の形を見てわかる、判ったことを言葉にしてゆく、そこにはテクニックがあって訓練が必要で、訓練というのは実技の人がやっている訓練と近いことだと、そこで初めて実技の学生に対しても対等でいられる希望を持ちました。   

仏像を研究する人は実際にお寺に行って、安置されている仏像を降ろして、詳しく調べるわけです。  調べたことを記録して保存して一部の研究に使ってゆく、そういったことをはじめました。   そういったことを一生続けたいと強く思いました。

まずは形を調べます。(髪形、衣類、詳細な各部の大きさ、構造、材料など)  内部に文字が書かれていたりするので、作った年代、修理した年代、かかわった人の名前がわかる時もあります。   学生時代からやってきたので随分な資料になります。  仏像の構造などを自分で描くと自分と仏像とが深くつながったような気持ちになります。   

有名な仏像もありますが、知られていない仏像を調べてそこに光を当てて、知られるようにする、無名な仏像を有名な仏像にするというのに興味がありました。   

大学院に行って運慶の研究をしようと思いましたが、新たに加えるようなことは何もなく悩みました。   それで鎌倉時代の中、後半の仏像作家、仏師の研究を始めました。  その研究が評価を得て博物館に勤めるという機会がありました。  最初は写真資料を整理する仕事が中心でした。   昭和50年代は写真を広げて仏像の研究が出来る時間帯がありました。    或る女子大学生が来て、自分の地元の仏像を調べてくれないかとの話がありました。  栃木県足利市の大日如来を調べに行きました。  それを見たら運慶作ではないかと思われました。   X線で調べてみたら胴内納入品が確認でき、運慶でほぼ間違いないという事が判りました。  そのことを長い論文にすることによって運慶に近づけました。    「大日如来像」という単行本も出すことになり、表紙には足利の大日如来像を掲げました。  

「大日如来像」という単行本を見た方が、或る「大日如来像」を購入したそうで、X線で調べてみたいという事で、「大日如来像」の写真を送付してきました。   いかにも運慶作らしい感じがして吃驚しました。   東京のお宅に見に行きました。   どうも運慶らしいという事で詳しく調べてみると納得がいきまして、博物館に展示もし、論文も書きました。   文化庁などが交渉して購入しようとしたが、首を縦に振らず、ニューヨークのオークションにかかってしまった。  14億円で落札された様です。  2週間後宗教法人真如苑から私に電話があり、どうしましょうかという相談を頂いて、国立博物館に戻しましょうと話までして、実現して、真如苑では半蔵門ミュージアムという美術館を作ってそこに今安置されています。   無料で拝観できます。  運慶の「大日如来像」とは数奇の運命を感じます。   

退職直前に親子向けの仏像企画展を開きました。   これが今年5月に出版した「完本 仏像のひみつ」の出版のきっかけになっています。   仏像企画展が自分でもびっくりするぐらい好評でそれを展開しました。   専門家がどんなふうに見ているのか、どんなふうに考えているのか、専門用語を使わないで伝えたいと思っています。  東京国立博物館を退職して1年後に出版しました。   「仏像のひみつ」はこれで3冊目で全部で10の秘密を提示して、3冊目で「完本 仏像のひみつ」としました。  

できれば仏様を作りたいという思いが仏師の中にはあるんだと思います。  最初の「仏像のひみつ」の本が出来る直前に、妻が交通事故で亡くなっています。  そのことをあとがきに付け加えましたが、その部分が読者の心に響いたようで、「これは新しい仏様に捧げた、新しい経典である。」という言葉を書いてくださった人もいました。  

20年前から、日本彫刻史資料修正という事で 鎌倉時代の銘文とか納入品とかで判った年代の資料修正をやってきて2/3は完成しましたが、1/3はまだ残っていて完成までは10年以上かかると思いますが、何とか完成したいと思っています。