2024年6月25日火曜日

松原伸生(人間国宝)           ・白と藍の染めの美、長板中形を受け継いで

松原伸生(重要無形文化財「長板中形」保持者・人間国宝)・白と藍の染めの美、長板中形を受け継いで 

「長板中形」は江戸時代から伝わる技法で、型紙を使い藍で染めます。 白と藍の対比が美しく清涼感を生み出すために芸術的な感覚や優れた技術が求められます。 松原さんは昭和40年東京江戸川区の生まれです。 松原さんの祖父も「長板中形」の人間国宝で、その技はその息子たち4人に受け継がれました。 その一人が松原さんの父です。 松原さんは都内の高校を卒業後、千葉県君津市に家族で引っ越しました。 作品を一貫して作るには太陽の光や風など自然の力が欠かせないと言います。 自然に恵まれた工房で厳しい父の指導を受けながら技術を磨きました。 伝統的な「長板中形」の技法を体得し、作品を作り続けた松原さんは2021年に紫綬褒章を受章しています。 技の継承にかける松原さんの思いを伺いました。

「長板中形」の特徴は藍と白のコントラストが一番の見どころかと思います。 藍染は日本中にありますし、日本人が好きな色かなと思います。 「長板中形」の素材は木綿が主体になっています。 伊勢型紙を用いますが、点々がいっぱい詰まったような細かい模様、それを小紋と言う呼び方をして、「江戸小紋」とかがあり、大紋、大柄は袢纏(はんてん)、暖簾とかの大きな形紙があり、その中間にあたるのが「中形」と言う様な模様のサイズから来ています。  白生地の上に伊勢型紙を使って、表面と裏面と両面から防染?糊を置く、それから藍で染める。 それを洗って糊を落とすという事になります。 

去年重要無形文化財保持者に認定されましたが、自分には程遠いものだと思っていました。 祖父が昭和30年の第一回の文化財保持者として認定を受けましたが、僕が生まれた時には他界してしまっていました。 人間国宝になってプレッシャーを感じます。 祖父は相当な頑固者だという事を父から聞いています。 それまでは分業であったものを祖父は変えました。 自分で全ての作業をすればどこが悪くて、どうすればいいのか端的に判るわけです。戸籍上は12人子供がいたそうです。 小さいうちに亡くなったり、、戦争で亡くなったりして、父の仕事を手伝い始めたのが4人の子供です。 そのうちの2番目が父になります。 江戸川区に住んでいました。 父の兄弟とその子供たちで住んでいて、一番多い時には17人ぐらいいました。  私には妹が2人います。 

都立工芸高等学校デザイン科を卒業後、長板中形や藍形染めの技術を父から学び始めた。 日本工芸会に入りましたが、先輩たちには人間国宝が何人かいらっしゃいます。  日本工芸会は発足が70年以上前になります。 人間国宝の作品の発表、啓蒙活動などをしていて、年に一回日本伝統工芸展を行っています。 7つの分野に別れています。 

学び始めた時には段々手狭になったことと、自分のアイデンティティーを保つことが出来るのか気になって父に相談したら、環境のいい千葉県の君津市に移ることになりました。  住まいと工房の建屋の建築から始めましました。  父は藍染だけではなく、日本工芸会の常任理事、染色部会の会長も務めていたので、他の物つくりの人たちのプロに接する機会を与えてくれて、作品を観る機会もあり非常に勉強になりました。  自分で常にいいものを見る、人の言っていることの本質に耳を傾ける、やり始めたらやり通しなさい、という事は父から言われました。  

防染に使う糊の材料はもち米から作る粉(餅粉)に石灰を加えて茹でて練り上げた「きのり」と言うものと、ぬかに石灰を加えて作る「小紋ぬか」(さらに細かい)それらを併せて防染糊として使います。 水を加えて柔らかさを調整します。  糊を乾かすのには天日で行います。 「ごいれ」と言って、大豆を一晩水にふやかして、大豆で作った呉汁を使いますが、反物に刷毛で汁を浸み込ませる作業も太陽のもとで行います。 風が吹いてくれるとなお都合よく乾いてくれる。  自然環境を上手く利用させてもらっています。 一反染めるのに10日ぐらいは掛かります。 

「長板中形」は夏の衣装なので、模様を楽しむ。 脈々と繋がってきているものにはそれなりの強さがあります。 「長板中形」は一旦途絶えて、再認定されています。 祖父が昭和30年に亡くなり、68年経ってここで改めて認定されました。  一番うれしいのは、身にまとって、気持ちが豊かになっているのが見て取れると、自分の遣り甲斐がそこで完結するというか、作てよかったという思いになります。 

周りのいろんな方に可愛がってもらったことは、非常に恵まれていると思いました。   この仕事を続けて行って、「長板中形」を広く皆さんに知っていただくことと、後継者を育ててゆく、とかいろいろあります。 2年前から長女が始めました。 父の大変さが少しわかった感じがします。 美術大学に行って講義をしたり,個展の場所でも話す機会を持っています。