2024年6月22日土曜日

正置友子(絵本学研究家・青山台 文庫主宰) ・人生を支える絵本 ~団地の絵本文庫50年の日々

正置友子(絵本学研究家・青山台 文庫主宰) ・人生を支える絵本 ~団地の絵本文庫50年の日々 

正置友子さんは1973年に団地の一室で文庫を始め、去年で開設から50年になります。  絵本を学問として研究してきた経験や、子供たちを絵本を読む日々で判った絵本の力についてお聞きしました。

千里ニュータウンと言うところですけれども、青山台文庫と言う名前ですが、青山台の入居が始まって、結婚と同時に入居しましたが、最初来た時には誰も知りませんでした。 人と人との関係が出来ていって、時が流れていきました。 絵本学の研究者でもあります。  56歳から6年間イギリスに留学、論文も書きました。 絵本とは何かという事を研究するのが絵本学です。 イギリスでは絵本の歴史を研究しました。 ビクトリア時代のイラストレーターのウォルター・クレイン絵に出会ってはまってしまいました。 

「生きていることはどういう事なんだろう。」と 子供の頃からずーっと思っていて、本の中に答えがあると思って本を読んでいました。 結婚して3人の子供が生まれましたが、それでもずっと思っていました。  「生きているから生きているんだ。」と夫から言われましたが、納得できず、その時手にしたのが児童文学で感動しました。(30代) 生きていることはこんなに素晴らしい事かと思いました。 周りの人に読んでもらいたいと思ったのが文庫の始まりでした。(1973年)  大人に読んで貰いたいと思ったら子供が100人ぐらい来ました。  幼稚園から小学校の子も来ました。  1978年以降は団地の集会所で週一回開催するようになりました。  図書館と比べて文庫は縛りが少ないです。  人と人との関係性の密度が高いです。  

2001年からは「抱っこで絵本の会」を始めて、赤ちゃんとお母さんとの絵本の会です。  ブックスタートはイギリスで1922年に始まり、赤ちゃんが生まれると絵本をプレゼントするというものです。 日本でも2001年から始まります。 0歳とお母さんが来ていただく会です。 1歳になれば辞めるつもりでしたが、1歳になり、2歳になっても別れられなくなりました。  一番多く読んだ本は「いないいないばあ」です。  大人の場合は一遍読むともう知っていると思う。  子供は何度読んでも発見があるみたいです。 「いないいない」の次には「ばあ」を期待するんだという事が判りました。 当たり前みたいですが。 お母さんが顔を隠すという事はいなくなってそのつらい体験があれば、この絵本も身体で感じられるだろうと思います。  顔を隠された悲しみと、出た時の喜びとが表されている。 何度も読んで貰っているのにもういいと言わないのだろうと思うと、人生ってそうだねと、出会いがあって別れがあって、そういう事が「いないいないばあ」じゃないかと思います。  このことの次はどうなるのかなと、想像する、それが出来るということは凄いことだと思います。 

現実世界で、ある行為をしたら、例えば誰かを殴ったら、その人は痛いと思うだろう、厭がるだろう、という事です。 次はどうなるのだろうと予想してめくるわけです。  想像することができるという事は、人間は生まれながらにして持っているとしか、私は思えませんでした。 想像する種は持っているが、その芽が出たり花が咲くのは大人の役割だと思います。  水をやったり栄養をやらないとイマジネーションの種が枯れてしまう。 絵本はドアのようなもので開くと新しい世界があります。 時間の経過があります。 絵本は子供にとって宝物になります。 読んであげた人にとっても宝物になります。 一緒に読んで深くその世界に入った絵本があれば、その子の一生を伴奏することができる、と私は思っています。 絵本は人と人を結ぶことが出来る。 翻訳することで国境を越えることができる。  絵本は世界の平和に役立ってくれると思います。

生きるための絵本: 命生まれるときから命尽きるときまでの絵本127冊」と言う本を出版しました。 それぞれの年代に対してのお薦めの絵本を紹介しています。 大人へのお薦めの絵本17冊が出てきます。 

「おじさんの傘」 雨の日も傘を閉じたおじさんの話。 話を聞いた80代ぐらいの人が「自分も同じです。」と言うんです。 「妻からプレゼントされた傘があり、妻が亡くなり傘をさせないんです。」、という事でした。 

「小さいお家」 田舎の静かな丘の上に立つ小さな家があるが、どんどん開発されてゆき、最後は高いビルに挟まれてしまうという内容です。  「小さいお家」は女性なんです。  環境が変わってゆくところを見続けるんです。  早く早くではなく、ゆっくりと生きて暮らしてゆきたい、この一冊の中で100年以上の長い時間が流れるが、これは女の物語だと思いました。 そこに居続ける事、世の中を見続ける事、動くと見えないことがあるかもしれない。(早く通り過ぎるから。)  

文庫を始めたのが1973年ですが、文庫は何千と有りましたが、どんどん減って行って、来る子供もどんどん減って行って、あるいは皆無になって行って、文庫が閉じているところが多い。  これからの子供たちのことと、読書のことを思います。 こういう時代だから文庫を続けたい。 本を読むという事は一生を支えると思います。 その原点が文庫だと思います。