2023年6月13日火曜日

太田土男(俳人 元・農水省農業科学研究所)・虫送りの頃 ~田んぼの季語を科学で耕す~

太田土男(俳人 元・農水省農業科学研究所研究部長)・虫送りの頃 ~田んぼの季語を科学で耕す~

全国各地でこれからの季節、稲を病虫害から守ってくれるように祈る「虫送り」と言われる行事が行われます。  稲作に関わる様々な作業や行事は古くから俳句の題材になって来ました。 長年俳人として活躍してきた太田土男さんは85歳。  かつて農水省の試験場で研究職一筋だった経験を活かし、去年「田んぼの科学」という本をだしました。  太田土男さんは田んぼにまつわる俳句と季語を科学の視点で読み解き、田んぼの持つ機能や里山の生物多様性の大切さを訴えています。  

米を作ることは2000年来日本人がやってきたことです。  稲作文化というものが生まれて、その一つとして歳時記がある。  歳時記を紐解くと稲作に関わる季語が沢山あります。 ここ数十年の間に農法が大きく変わりました。   耕す、稲刈り、田植えを機械化しました。  季語の意味が従来と大分変ってきた。   いつ頃どう変わってきたのか、科学の目を交えて、語ってみたいという事が一つあります。  里山は生物多様性の宝庫なんです。   人間が稲を作るという営みをしてきたために、それに合わせて動植物が生きてきました。  農法が大きく変わったことによって、困っていることが沢山あります。 そういうところにも光を当てたいと思いました。  お米を作ることは日本の風土に適している。(雨が多い、温暖型)  稲は光合成が光の弱い段階で飽和(それ以上伸びなくなってしまう)してしまう。   普通の状態では稲は雑草に負けてしまう。  稲は水の中でも大丈夫だが、雑草は生きていけない。  水が多い日本では適している。  養分が水を通して流れてくる。  水の悪い部分もあるが、稲作技術でカバーして、水をコントロールしている。  

*「れんげ田に泣く弟を姉が抱く」      太田

何故田んぼにれんげを蒔くかというと、花が咲き終わったころひっくり返してすき込むわけです。  緑肥と言って有機質肥料になるわけです。  根に根粒菌があり窒素を固定して窒素を作ってくれるわけです。   れんげを蒔いても1割ぐらいは芽が出てこない、そういった野生の性質を持っている。   蒔いた時期の天気が良くないと根だやしになってしまう。  安全弁として出ない種を温存しておく。  

種付け花、その花が咲いたらそろそろ稲もみを水に漬けて、田植えのながしろの準備をしなさいよという事でそういわれています。(生物季節 合理性がある)    「こぶし」のことを「田打ち桜」といます。  こぶしが咲くと、田起こしの準備をしなさい、という事です。

川崎出身で東京教育大学(今の筑波大学)を卒業、農林省の研究者になる。  文学の道に進みたかったが、家が農業なのでこちらに進みました。  俳句は学生のころからやっていました。  大野林火先生に師事しました。   盛岡の東北農業試験場に行きました。  畜産部の餌、白クローバー(牧草)の育生をやりました。  江戸時代の後期に入ってきています。(帰化植物)   窒素、タンパク質が多いです。    イネ科の牧草は炭水化物が多いです。  放牧地は両方蒔きます。  

「田水張る」「田水沸く」という季語があります。  れんげが微生物によって分解され、一部は窒素ガスになり、田んぼからぽこぽこ泡が出てくる。(窒素ガスとメタンガス)  田水が沸いたら水を落として、「中干し」という作業をして窒素、酸素を与える。    「田水張る」はまだ田植えをしていない状態、田植えをすると「植え田」、苗が伸びると「青田」(このころが「田水沸く」の時期になる。)   

「田一枚植えて立ち去る柳かな」  芭蕉の句

この句を詠んだのは新暦の6月6日です。  今そこではゴールデンウイークに田植えをしています。  温暖化だけの問題ではなく、台風に遭わないように早く田植えをしたいという事があり、稲の品種、苗の作り方、その後の管理といった技術が揃わないと田植えを早くできない。  麦が入らなくなる。(裏作)  2000年の間6月に田植えをしてきた。トウキョウサンショウウオ、赤蛙などは2月に孵化して6月の前に陸に上がってしまうから影響はなかった。  トノサマガエル、ミズカマキリなどは田植えが終わってから産卵して 種族を増やしていた。  時期が変わることで繁殖がうまくいかなくなる。       機械化と関連して乾田にするため、メダカなどが生きられなくなってしまった。     コンクリートの水路を作るとトノサマガエルは歩けなくなる。

6月下中から7月にかけて「虫送り」という行事が残っている。   虫は害虫で、ウンカ、ヨコバエ、イナゴ、などがいる。  場所によっては「実盛送り」と言われる。   斎藤実盛が木曽義仲の追討に出かけた時に、稲の株に躓いて不覚をとり討ち死にする。    それでウンカになったという話があります。  「虫送り」は特徴にある夏の行事になっています。  秋には稲の花が咲きます。  晴天の10時から11時の間に咲きます。  雄しべがでて,自分の雌しべに受粉してすぐ閉じてしまいます。  

「落とし水」 水を落として地面を乾かす。 

*「落とし水なまずもおちてゆきにけり」     太田

*「もみがら焼き母に呼ばれて日暮れなり」    太田

*「魔法瓶ちょっとかしげる草紅葉」       太田

一仕事終えてお茶を飲んで農村のホッとした景色

*「青空の高々とある冬田かな」         太田

田んぼは多様な動植物をはぐくんできたが、悲鳴を上げていることを認識してほしい。  

*印の句は、漢字、かなが違っている可能性があります。