穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】小島ゆかり
小島さんは1956年愛知県生まれ、早稲田大学在学中にコスモス短歌会に入会します。 2006年、『憂春』で第40回迢空賞受賞 2015年、『泥と青葉』で第26回斎藤茂吉短歌文学賞受賞 2017年、『馬上』で第67回芸術選奨文部科学大臣賞受賞 紫綬褒章受章。 去年刊行された最新歌集「雪麻呂」は高い評価を受け、詩人の大岡信さんをたたえる大岡信賞の第3回の受賞者にも選ばれています。
短歌と出会ったのは大学3年生の時です。 母が趣味で短歌を作っていて、宮柊二先生のコスモス短歌会の本などがありました。 古本屋巡りをして文語とか、旧かなに魅力を感じました。 卒業して名古屋に戻ったんですが、結婚して又東京に戻ってきました。 35歳ごろに家族でアメリカに行きました。 小島なお(娘)がデビューした時には高校生で角川短歌賞を受賞。 お互いにはあまり言わないです。 短歌を作れば作るほど好きになります。 自然に触れると感動するというか、心がとても動くんですね。 動いた心を大事にして俳句などを詠んだりして、シンプルに作りたい派なので、エッセンスだけ俳句から学んで、一つになって行きます。 俳人では永田 耕衣、橋 閒石(はし かんせき)とか好きです。
「冷えわたる夜の澄みわたるかなたよりもうすぐ天の雪麻呂が来る」 小島ゆかり 雪が降りそうだ、という実にシンプルな歌ですが、素敵な歌になります。 雪に名前を付けて擬人化している。
*「明日また旅行くわれに若猫は気付かぬを古猫は気付きぬ」 小島ゆかり 捨て猫でしたけど両方とも飼っています。 キャリーバックのなかに入ったり、洋服の上に載ってみたりして邪魔をするんです。
*「薔薇園の中通り抜け終活の母の時計を修理に出しぬ」 小島ゆかり 人間も生きている時計のようなものだと思えばそうだから、修理に出せばもう一度元気になるみたいなイメージが浮かんだんですが。 複雑な薔薇の字と時計の裏ブタを外した時の緻密な感じと似てると思って、この歌が浮かんでしました。
*「文字書けずなりたる母が書きたくて書きたくて書く流星の文字」 小島ゆかり 脳梗塞で書くのも不自由になりましたが、書くことの好きな人なので書くんですが、流星みたいに字が飛んでしまう。 書きたいを繰り返すことで本当に書きたいんだという感じが伝わってきます。
「あなたとてもつかれてゐるわ ゐるわゐるわ 蝶が言ふなりわたしのこゑで」 小島ゆかり 幻聴と言うのか、幻の声、蝶々が 仕事に疲れ、生きる事に疲れ、ゐるわ こゑ で幻聴を感じさせる。 自分の内面の声だったと思うんですが、たまたま目の前に蝶々が飛んできて、旧かなのこえでゐるわゐるわと言う感じで聞こえてきたというか。
「あさがほの明日咲く花はどれかしら夜空にひそむ死者たちの指 」 小島ゆかり 指に差された花が咲くみたいなイメージ。 咲くという事は死に近づいてくる、終わりに近づいてくる、明日咲くのは貴方よって、死者が指さすような感じが痛切にしたんです。
*「新しき冷蔵庫古き冷蔵庫擦り違えたり玄関前で」 小島ゆかり 冷蔵庫は愛着が湧く。 古い冷蔵庫を出して新しい冷蔵庫を入れるが、すれ違う時の何とも言えない切なさと言うか。 言葉の組み立てが素晴らしいから短歌になっていると思う。
*「背後より迫る指ありうつつなきつまみ心に蝶つまむとき」 小島ゆかり 蝶々は柔らかくそっとつままなければいけない。 自分をつまもうとしている大きな指が後ろから迫って来る。 漢字を用いずに「つ」という言葉がいくつもあり柔らかい感じがして、表記に面でもいいなあと思います。
*「台風の迫る真昼を深鍋に白雲のごとく沸き立つうどん」 小島ゆかり うどんを作っている自分に台風が迫って来る。 大きなものが自分に迫って来る。 その時に自分はうどんを作ったり、蝶々をつまもうとして居たりする。
*「カバーはずし裸の本を持ち歩く田舎に夏の雲登る今日」 小島ゆかり 本を持ち歩くことと、雲が登ることは関係ないが、何故か関係あるような雰囲気がある。 人間も夏になると薄着になり、裸の本と因果関係が皆無ではない。
全体に無理な感じで作っているわけではなく、ゆったりとしたフォームから、でも投げ込まれた球は凄いみたいな感じです。
リスナーの作品
*「米寿だろ看護師に言う九十と多くさばよむ病室の父」 白井義彦
*「コロナにもウクライナにも無力感岸田総理が遠くに見える」 西山洋一
*印はかな、漢字、氏名等違っている可能性がります。