植本一子(写真家) ・【私のアート交遊録】レンズの向こうに見る家族
1984年広島県生まれ、2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞、写真家としてのキャリアをスタートさせ幅ひろく活躍しています。 2013年からは下北沢に自然光を使った写真館「天然スタジオ」を立ち上げ一般家庭の記念撮影をライフワークとしています。 写真家としてキャリアをスタートさせた後、亡くなった夫や二人の娘との生活を「かなわない」「家族最後の日」「降伏の記録」の三部作を通して、家族の在り方を問うてきました。 一方で植本さんはフェルメールの現存する35作品すべてを収める旅に出ています。 作品を正確に切り取るという従来の写真集とは違って、アートがどのような空間の中で受け入れられているかを写し出しています。 町の写真館として普通の家族の記念写真を撮りつつ家族の在り方や、人生の生き方を見つめる写真家植本さんに伺いました。
2018年に出版された『フェルメール』、そのフェルメール展が今年行われるはずだったが延期されました。 修復後の『窓辺で手紙を読む女』 私が唯一観ていないのがそれで、修復中でした。 撮影するために世界7か国を回りました。 感想を日記のように書きました。 2回に分けて最初は1週間ヨーロッパ、2回目は2週間かけてヨーロッパとアメリカにきました。 本を出そうという企画の時には夫はがんで入院していました。 行く計画の日の2か月前に夫が亡くなりましたが、行くことに決めました。 気分が変わることが出来ました。 フェルメールはうまく光を取り込み、「光の魔術師」と言われる。 私も写真を撮る時、光を撮るのが上手と言われて、「杉並の光の魔術師」とギャグで自分で言っていた時期がありました。
一番最初に回った美術館がオランダの王立博物館で、『真珠の耳飾りの少女』がおいてあって、最初から主役級で何気なく全部撮った後に、移動の電車のなかでポストカードのようなグッズを見ていたら、アッ本当に耳飾りがあるという事にその時に気づいて、自分は何を見ていたんだろうと吃驚しました。 観るとは何なんだろうと思いました。 フィルムで勉強しなさいと言うような時期に始めたので、今回もフィルムで撮りました。 ある時期からデジタルも取り入れ、仕事はデジタル、自分の作品はフィルムと分けました。 フェルメールは仕事であるが、失敗できないという事があり、自分の作品という思いでやってみようと思いました。 プレッシャーはありましたがやってよかったです。 観る状況は日本とは全然違って人も少ないし、自然光で見られるような感じでした。
下北沢で写真館を開いていて、「天然スタジオ」という写真館です。 天然光を使って皆さんの写真を撮っています。 フェルメールは向かって左側から光が入りますが、たまたま同様になっています。 6畳の狭い部屋で朝は9時、10時で、冬は13時、夏は14時ぐらいまでの日中しか動きません。 それなりに人数によって型は決まってきます。デジタルなので500,600枚は撮りその中から選びます。 8,9年やっていますが、籍は入れてないカップル、シングルのお母さんなどもいて、家族写真というのはやめようと思っています。 ほぐれた笑顔の写真を上手く撮れたときは楽しいです。
小さいころから集団行動が苦手で、進路を考えた時に絵が好きだったので絵の道に行こうかとは思いましたが、写真の手軽さに飛びついて、中学3年生からはずーっとやってきました。 高校では写真を撮ったり遊ぶのが面白くて、1年生の時には440人中下から3番目になってしまいました。 そのころ撮った写真をまとめたものが高校卒業後すぐに「写真新世紀」という新人賞を荒木経惟氏より受賞しました。
執筆活動もしていて、「かなわない」「家族最後の日」「降伏の記録」などを出版しています。 上の娘が生まれた時に写真記録だけでは間に合わないと思って、育児ブログを始めてそこからです。 写真にはない細かな表現が出来ます。 コロナで世の中が混乱して、そういったタイミングこそ日記が凄く残す媒体としてぴったりだと思いつきました。自分の日記を自費出版しようと思いました。 福富太郎さんのコレクション展覧会があって甲斐庄 楠音(かいのしょう ただおと)の「横櫛」という絵で撮影が不可でした。 その絵がめちゃクシャ怖くて、妖艶というか人を寄せ付けない異様な気が漂っていました。 私のお勧めの一点は甲斐庄 楠音の絵をお勧めします。