春日いづみ(歌人) ・短歌に託したコロナ禍の介護
新型コロナウイルスの拡大の中、介護される人、介護する家族の不安や生活上の制限など厳しい状況が続いています。 長年続いた介護百人一首は20121年度から新介護百人一首、そして装いも新たにスタートし、一万首を越える応募がありました。 感染拡大で家族すら面会できない切なさや、海外からやってきた介護研修生の熱意や戸惑いなど、11歳から102歳までの幅広い応募があり、このほど入選百首が選ばれました。 今日は選者のおひとり春日いづみさんと一緒に共に作品に込められた思いをお伝えしてゆきます。
短歌というとたった31音の小さな詩形なんですが、1300年以上にわたって日本人の気持ちを受け止めてきた、そういう詩形だと思います。 相手を思う気持ちを表現するのに一番ふさわしい詩形ではないかと思います。 時代も反映してきています。 高齢化により介護する人介護される人、コロナの影響で外出できない寂しい切ない気持ちを紙と鉛筆があれば何とか表現できるので短歌に託したという人も多いのではないかと思います。 海外の研修生が作ってみようという気概が凄いと思います。
*「コロナ禍で妻は家族に会いたいと乱れた文字が絶筆となる」 大野和代(80歳) 乱れた文字、絶筆が作品にインパクトを与えていると思います。
*「コロナ禍の暗き日夜に灯されし介護百人一首の募集」 角川幸恵(98歳) 心がさいなまれていた時に募集のチラシに心がパッと明るくなった。 日夜に灯されしという言葉がいいと思います。 3回連続入選。
*「遺言と延命治療の拒否願い介護?ようやく安らぎを得る」 角川幸恵2019年作品
*「夜半に来てあの年の瀬?に帰る子を眠る振りして後ろ手拝む」 角川幸恵2020年作品
*「ワクチンを済ませた後の面会に夢の人やなと父はいいたり」 翔馬悦子 2年間の面会できない間に認知症になってしまって娘の私も夢の中に出てくる人だなと言う。 「夢の人やな」は臨場感が出ていると思いました。
*「タブレット画面に映る病室の母が薄くて母より母だ」 高橋際限(ペンネーム60歳) 薄いは色が薄いのではなくて厚みがないことを薄いと表現している。 痩せている母がより痩せて見えた。
私(春日いづみ)の母はまもなく96歳になります。 3年前に股関節の手術をして、手押し車、杖を家の中にいれて歩いています。 父は25年前に亡くなりました。 父を介護するのは大変でした。 最近は介護制度が出来て皆さんに支えながらなんとか頑張っています。 体験、感覚、想像力とか総動員して短歌を作ります。 自身との対話、自身とのかけがえのない時間かと思います。
*「紅の非常ボタンが母のへ?(部屋のこと?手?)の三面鏡に三っつ映れり」 春日いづみ 三面鏡に非常ボタンが三っつ映っているのを見ると、不安や不穏を感じ歌にしました。
介護する側の短歌
*「あなたとおしゃべりするために必死で覚えた温かい方言」 作田みく(16歳) 言葉を覚えることは寄り添う事でもあるわけです。
*「あんたん時はおいしかねえ食事介助する手に喜び走る」 パパマワル・ヤムクマリ(ネパール) 声を掛けながらとか工夫しながらやっています、とのこと。
*「介護職極まって母国語に日本のおばあちゃんびっくりします」 ビスタ・アールズ(ネパール)とっさの時にどうしても母国語が出てしまうんでしょうね。
*「介護ロボ寄り添えるのは身体面心に寄り添う介護福祉士」 小久保彩音(16歳) 心に寄り添える介護士になるんだという気概がある。
*「通院に同伴される恥ずかしさ苛立つ我を包み込む母」 岩城正秀(44歳) 麻痺のある身体と付き合って44年と書いてあります。
*「じいちゃんと毎日豚を見に行ったほんとはいないと知ってたけれど」貝瀬明子(48歳)祖父が若いころ養豚業をやっていて、晩年は認知症になっても豚を見に行く言ってときかなかった。 「説得よりも納得」という言葉が私(春日いづみ)の中にずーっとあります。
*「ちいと馬鹿疲れてきたよこの婆も夜半の尿取り6回はねえ」 田中早苗(87歳) 夜中にご主人に6回も起こされる。 老々介護
*「新聞紙広げ真ん中穴を開け介護床屋のさあ開店だ」 千木良正一(80歳) さまざまな現場の知恵を学ばさせてもらう事が出来る。 まるでままごとのような明るさ、夫婦愛を感じます。
*短歌、作者名は漢字、かななど間違っている可能性があります。