穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】
他に季節に比べて冬は地域差があると思います。 特に雪に関しては。
「チョコレートのぎんがみありき雪山で死にたる友の遺品の中に」 小島ゆかり
北大のワンダーホーゲルにいた時に先輩からパックを用意して、そこに非常用としてチョコレートと紙と鉛筆を入れるように言われました。(非常用食料と遺書を書くため)
「逃げてゆく君の背中に雪つぶて冷たいかけらわたしだからね」 田中槐(えんじゅ)
自分の心をぶつけたというような、ぶつけた方が痛い、そんな歌だと思います。
*「東京という名のホテルは東京に存在しない福島は雪」 ちか
ラブホテルという題で募集した時の短歌で、凄く印象に残りました。 福島に「東京」というホテルがあった。 一種の憧れのようなもの。 一層東京との距離を感じてしまう。
*「あの冬はガールフレンドだったから紺のダッフルコートで立った」 藤本玲未
ガールフレンドだったという言い方が面白い。 彼女の象徴がダッフルコート(カジュアルな普段着)だった。
*「雪と雪出会わないまま落ちてゆき書かれることのなかった手紙」 鈴木春香
一粒の雪と雪の関係性を考えた時に、一緒に空から降って来てもほとんどの雪同志は出会わない。 人間同士を思わせる。
「六面のうち三面を吾にみせバスは過ぎたり粉雪のなか」 光森祐樹
バスは六面体だというんです。 そのうち三面を自分に見せている。 不思議な絵画的な遠近法が意識されるような、日常の目に見えている世界とは違う世界がこの言葉の組み立てによって立ち上がってくるような感じです。
「ヒマラヤに足跡を追ひ迫るとき未知の雪男よどこまでも逃げよ」 中城 ふみ子
大正11年生まれ 北海道出身。 どこかで恋愛の感情がオーバーラップしているんですかね。 憧れ、運命みたいな人 捕まってくれるなというところがいい。 寺山修司に影響を与えている。 女性が自立的に主体的に生きる、そういうことを言語化した出発点と言える。
*「えっという癖は今でも治らないどんな雪でもあなたは怖い」 東直子
潜在的には次の一瞬には自分は倒れてしまうかもしれない、穏やかにコーヒーを飲んでいても、本当ははすべて世界は怖いとも言えると思う。 どんなに柔らかい雪でも怖い。
「人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ」 寺山修司
どこかで我々は人生の究極の答え求めて行けるようなイメージが何となくあるが、人生は最初から大きな大きなたった一問の質問なんだ、という寺山っぽいですね。 彼にとってはジャンルは問題にならなかった。
*「猫はなぜ巣をつくらないこんなにも凍りついてる道をとことこ」 穂村弘
寒いのになぜ巣をつくらないのか不思議に思いました。
*「いろいろなところに亀が詰まっているような感じの冬の夜なり」 穂村弘
冬はいろんなものが滞っているような感じがしました。
リスナーの作品
*「居たいとも帰りたいとも言わない母が見たいと言った赤城の夕映え」 緒方千佳子?
*「親知らず怪獣みたくわめきだす餅か餅なのか正月なのに」 未練?
*「初空にホバリングするヘリのあり箱根駅伝遊行寺あたり」 関本章太郎? (は行でまとめている。)
*印は漢字、かななど記載が違っている可能性があります。