長尾充徳(京都市動物園職員) ・みんな仲良し、動物園のゴリラファミリー
京都市動物園の人気者4頭の西ゴリラは仲良し家族です。 そんな一家の観察記を元飼育員の長尾さんが児童書「ゴリラのきずな」にまとめました。 一家は父モモタロウ(21歳)、母ゲンキ(35歳)、長男ゲンタロウ(10歳)、次男キンタロウ(3歳)の4頭で仲良し家族が出来るまでには様々なドラマがありました。 それぞれの個性や成長ぶり、家族の役割など人間の家族も参考になるようなエピソードが一杯です。 長尾さんは野生のゴリラの生態を参考にするため、アフリカを訪れたり、動物園生まれの母ゴリラに子育てを教えたりと、情熱を注ぎました。
飼育員の仕事はだいたい34,5年やりました。 最初は熊で人工保育もしましたし、ヨーロッパバイソンも長くやりまして、・・・・の仲間が大好きだったので8年ぐらいやりました。 サッカーと動物が好きでサッカーは途中であきらめて動物を目指すようになりました。 今はゴリラが一番好きです。 最初の印象は良くなかったですが、接すれば接するほど思慮深くて、物事を考えていて、凄くこっちを観察しているなあと判って来ると凄く親しみを持つようになります。 実はオスよりもメスの方が攻撃的です。 特に子供を持っているメスは非常に強くて、それは母性のなせる業ですね。 オスゴリラは仲間を守ろうとする意識が高いです。 親しくなると挨拶もしてくるようになります。 低い声でうん-ーんと言います。 仲間を呼ぶときには細い声で ほっほーーと鳴きます。 いろんな言葉を持っていて、チンパンジーほど音声のコミュニケ―ションは一杯とらないが、必要に応じてコミュニケーションを取る形です。
一家は父モモタロウ(21歳)、上野動物園で生まれた子で、父親を知らずに育ったので非常に戸惑う子でした。 段々親らしくなってきて特に次男が生まれると親らしい振る舞いをするようになりました。 弱点は虫が嫌いで本当に困ります。 カマキリが出入り口にいて食べたくても食べに行けないというような場面もありました。 家族思いのいいお父さんになりました。 母ゲンキ(35歳)は肝っ玉母さん的な母さんで、子供が生まれてからは凄く母性を感じるようになり、片時も子供を離さないです。 1年ぐらいはずーっと抱きます。 子供の身体中をよく舐めます。 父親、母親とも日本で生まれたゴリラで、そのペアリングで出来た日本で初めての子が長男ゲンタロウ(10歳)で、凄く当時は話題になりました。 次男キンタロウ(3歳)は物おじしないやんちゃな子です。
ゴリラには2種類いて、日本で飼われているゴリラはほとんど西ゴリラです。 西ローランドゴリラとクロスリバーゴリラです。 もう一つは東ゴリラで、マウンテンゴリラ、東ローランドゴリラです。 西ゴリラは木が生えているような森にいます。 木の上の食べ物を取るのが得意です。 東ゴリラは草地に住んでいたりして草だとかを食べています。 西ゴリラのオスは地面にベッドを作って寝ます。 メスと子供は木の上にベッドを作ってそこで寝ます。 オスは170~230kgになります。 メスは80~130kgぐらいです。 10歳を過ぎると背中に銀白色の毛に変って成熟した大人の印になり、群れを離れて一人になり群れを作ってゆきます。 群れのリーダ-になるとシルバーバックと呼ばれます。
チンパンジーはよく自分をアピールして声も大きいです。 群れ同士の争いもギャーギャー叫びながらやります。 ゴリラは寡黙で何か大きなことがないと争いごとにも発展しません。 チンパンジーは好奇心が強くいろいろ触ったりします。 ゴリラはすぐには触らない、じーっとまず観察します。 自分が納得するとようやく触ったりします。 チンパンジーは複数のオスがいて複数のメスがいて子供たちがいて群れが成立してますが、ゴリラは成熟したオス1頭で群れをつくります。
10数年前に西アフリカのガボン共和国に10日ぐらい行きました。 京都大学山極 壽一先生に連れて行っていただいて、丁度2,3か月の子供を抱いている母親がいて近づいてしまったら、シルバーバックがコココッと言いながら走ってきて5mの目の前で止まってこっちをジー―ッ睨むんです。 やばいと思いましたが、「逃げちゃだめだ、お尻を見せると向かってくるから」と先生から言われ対峙しました。 何もしないとわかると振り返りもせずにすーっと消えていきました。 基本的にあまり争いはしない、グループ内でけんかが起きた時なども誰かが仲裁に入ったりします。 樹上の生活が多くて見ていた時の7割程度が樹上で過ごしていました。 飼育環境にも違いがあるのではないかと思って、建て替えの機会があった時に、鉄骨で上に登れるような状態にして、餌を求めて天井を渡ってゆくようにしました。
食べ物も果物、パン、牛乳、ヨーグルトなど高カロリー食でしたが、歯が悪くなってきました。 肥満にもなりました。 心臓疾患で亡くなるオスゴリラが3~4割です。 餌の改善も必要だと思い、葉っぱ、牧草、葉物野菜を中心にしていきます。 昔は50数頭いましたが、現在は6つの動物園で19頭しかいません。 高齢化しています。 3歳位のオスメスペアで来るので近親交配を避けるという事があるが、小さいころから一緒にいると交尾をしなくなり、子供が生まれなかった。 オスメスを交換してあげるともう少し繁殖できたのかもしれない。 現地からとか、海外の動物園から連れてくるという事はできなくなっています。
2007年からゴリラ担当しました。 モモタロウの父親のゴンというオスとゲンキとゲンキの母親のヒロミの3頭でした。 ゴンとヒロミが亡くなってしまって、ゲンキとモモタロウをペアリングさせるようにしました。 上野から連れてくる前にまずは仲良くなるように作戦を立てて成功しました。 子育てが心配でしたが、子育てのビデオを見せたり、いろいろ教育しました。 10か月半ほど私がミルクをあげるようなこともありました。 順調に育っていきました。 キンタロウの場合はおっぱいが出ない時期もありましたが、比較的順調でした。 モモタロウはなかなか子供に触ることが出来ませんでしたが、段々慣れて行きました。 お母さんの役割は安全基地になることが重要です。
ゴリラに一番惹かれるのは他者への配慮があるという事です。 物凄く優しい心を持っています。 腕をなくしてしまった子がいましたが、仲間が木に登って食べものを分け与えていて、食べ物を分け与えることが出来る動物って非常に少ないです。 人間と非常に近いところがあります。