佐野末四郎(船大工) ・船大工の魂 木の自転車に込めて
佐野さんが作る自転車はレースに選手が乗って出場した事もある木製の ロードバイクです。 その性能とデザイン性が評価され海外の博物館などでも展示されたことがあります。 佐野さんは2019年に長野県軽井沢町に工房を移して制作に励んでいますが、もともとは材木の町として知られる東京江東区で江戸時代から続く船大工の家に生まれ、父や祖父の背中を見て育ちました。 木の自転車には伝統の技を駆使して制作していると話す佐野さんにどのような技術で作っているのか、なぜ木の自転車を作ることになったのか伺いました。
チェーン、ギア回り以外は全部木です。 車輪のリングを木でつくるというのは非常に珍しいです。 フロントの車輪はフォークが4つしかなくて、リングそのものが真円が出来ていないと作れないです。 それができるというのが珍しいようです。 以前にイギリスのビクトリア博物館から貸し出し依頼がありましたが、リングを作る機械があるのではないかと言っていました。 木はマホガニーという木です。 日本の木は伸縮できるようにできていますのでリングは作れないので、マホガニーを使っています。 強度を出せるという事もあります。 木を薄く削って、ハンドルなどはそれを23枚貼ってあります。 単体の丸棒と薄く削って張り合わせたのでは、強度は3倍ぐらいになります。 木の種類にもよりますが、マホガニーは接着剤が片側から片側に抜けてゆきます。 ですからマホガニーがなくなったら廃業ですね。
一見重そうですが、最新の自転車は8.3kgです。 一般のママチャリは20kgあります。 ロードレース用の鉄合金で出来ているものは10kgあります。 フレームがしなってスピードを出してゆく自転車なのでたまに軋み音が出ます。 引き渡しまで3か月かかります。 2か月半で出来ますが、残りはテスト運転します。 10kmから始めて50kmを何本かやって、200~250kmでテストを終えて、それで全部ばらばらに解体します。 各部品に異常がないかどうか確認します。 そして塗装をもう一回やり直して、タイヤも新しタイヤに変えます。 それで3か月かかります。 買った方はほかの自転車とは全然違うといいます。 身体が楽で疲れない、振動がなく速い。
代々船を作る船大工の家に生まれました。 今はプラスチック、鉄ですが、昔は全部木で作っていました。 薄く削って貼り合わせる船の肋骨部分を作る技術がそのままフレームを作る技術になっています。 舵をとるときにラットという大きなハンドルがありますが、ハンドルの外側に木のリングを巻きますが、その輪っかを作る技術が車輪を作る技術にも使われます。 ヨットを作る技術がそのまんま繋がります。
かんなで木を薄く削る技術も必要です。 かんなは刃も大事ですが、台が大事です。 樫の木を買ってきて台を自分で作ります。 木によって刃を差し込む台の角度が違います。 マホガニーは逆目が多いので台を上手に調整してやらないと7.5/100というのは切れないです。
祖父が職人芸は中学までに身に付けないといけない、そのあと勉強して頭を使わないと船を作るのには駄目だといわれていて、私は中学校の時に初めて船を作りました。 今も軽井沢にありそれまでは乗っていました。 自宅と造船所が一緒だったので、早く祖父、父親のようになりたいと思って居ました。 中学で作りはじめて高校3年の時に進水式でした。 アメリカの雑誌社に写真を送ったら、半年後に本に載ってそれから造船所の運命がガラッと変わりました。 浮かべた時には本当にうれしかったです。 その船で伊豆諸島などにも釣りに行きました。 父から言われて報道関係の女性を乗せて回ってお台場で船の中で料理してという事もやりましたが、それがのちの妻です。 いろんな思い出のある船で人に渡すことはできません。
工学院大学造船科を卒業、海外へ渡ってオランダの王立造船所に就職、ヨットメーカーとしては最高峰の造船所で、腕を磨きました。 道具を見ただけで日本はこんなに程度が低いのかと笑われてしまいました。 むくの木しか扱っていなかったので、貼る技術も覚えて半年後にはそこの職人の一番上の位まで上り詰めました。 基本の技術は日本のほうがはるかに高いが、見た目は追いつかない。 むくでもって綺麗なものが作れるように努力しました。
今も職人として大切にしていることは、「お天道様に恥じないようにものつくりをする」、それしかないです。 見えるところも見えないところも手を抜かない。
2002年にドイツで6.5mでジーゼルエンジンが入って690kgという驚異的に軽いモーターボートが出来て、ドイツに自分の船を飾らしてもらったが、あまりに綺麗で置物ですかと言われてしまった。 この技術で何ができるのかを考えて、車など考えたが車検が必要で、ロードレーサーだったらいいと思って、軽いリミットが7.2kgなのでそれを目指そうと思いました。 船の技術がいかにすごいかを証明するために木の自転車を作ったので売ることは考えていませんでした。 軽井沢のほうに来て新たなお客様が出てきているので乗ってくれると楽しいと思います。