穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】再構成(初回:2021/4/5)
ゲスト 吉澤嘉代子(シンガーソングライター)
本がその後一冊出ています。 「短歌遠足帖」と言います。 東直子・穂村弘共著 [ゲスト]岡井隆さん・朝吹真理子さん・藤田貴大さん・萩尾望都さん・川島明さんに来ていただいて毎回違うところに、東京タワー、動物園、競馬場とかに行って短歌を作ってみんなで短歌を見ながら話をするという本が出たのと、自費出版した「シンジケート」という歌集があるんですが、その新装版を今作っています。
吉澤さんとは世代が違っていて親子ほどの年齢差です。 歌人からすると音楽はあこがれのジャンルです。 吉澤さんは1990年埼玉県生まれ、16歳から作詞作曲を始めて、2010年、ヤマハ主催のコンテストでグランプリと、オーディエンス賞を受賞。 インディーズ デビューを経て2014年メジャーデビュー、最新作の「赤星青星」を含めて、5枚のアルバムを発表しています。
*「ルシファー」 作詞:穂村弘、吉澤嘉代子
穂村:詩を二人で書くというのは吃驚で、どうして一緒にと思われたんですか。
吉澤:中学生の頃に穂村さんを見つけて、言葉の素敵さを感じて、「赤星青星」は恋人をテーマに作ったアルバムでしたが、ときめきみたいなものから始めたかったので、ぜひこのほど穂村さんと一緒にという事で作詞をしていただきました。
ルシファー:明けの明星を指すラテン語であり、光をもたらす者という意味をもつ悪魔・堕天使の名。
吉澤:タイトルは朝4時ごろにコンビニに行ったら、帰りに東の空にひとつ星が輝いていてSNSに投稿したら、ルシファーみたいですねと返信があり、ときめき始めました。
穂村:詩の共作は連歌のようになるんだと思って、すごく新鮮でした。 吉澤さんは常に頭の中に曲が流れていて、それに言葉がパラレルに存在している、ジャンルの違いをすごく感じました。
吉澤:母音、子音の響きの違いがあって、いろんな方向から糸が絡まっている感じがして難しいです。
穂村:今回初めて曲を意識しましたが、やっぱり歌うと違うんだという事に気が付きました。
吉澤嘉代子さんが選んだ短歌
「したあとの朝日はだるい自転車に撤去予告の赤紙が揺れ」 岡崎裕美子 吉澤:穂村さんが紹介した本のなかで、この歌を16歳ころ読んで、よく判らなかったが、朝帰りの感覚が刷り込まれたというか、大人になって朝帰りをテーマに「残っている」という曲を書きました。 その時にこの歌を思い出して書きました。
「愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人」 俵万智 吉澤:「ゼリーの恋人」という曲を書いている時にこの歌を思い出しました。 何時までも愛の結晶にはならなくて、そのままお別れを選ぶという恋人たちの歌で、答えとしてこの歌が浮かんだというか、誰とも共有できなかった感覚みたいな。
「ダナイード、とわたしは世界に呼びかけて八月きみの汗に触れたり」 大森静 吉澤:ダナイードはギリシャ神話に登場する王様の50人の娘たちをダナイードといっていて、娘たちが結婚させてあげるという事で、夜に夫たちを短剣で殺すという話があるというのを見て、不穏な感じをダナイードという壮大な物語のワードを入れることによって、凄く膨らむというか面白いと思いました。
「液晶に指すべらせてふるさとに雨を降らせる気象予報士」 木下 龍也 吉澤:ユーモアと哀愁みたいなものを感じました。
穂村:特殊能力を持ってるかのように読めますね。
「顔で壊した蜘蛛の巣を食べながら光る渚へ降りて行く朝」 穂村弘 吉澤:映画のワンシーンのような美しい光が浮かんできます。 野性味を感じます。 穂村:蜘蛛の巣を顔で感知知してしまう事があるが、実際は手で取ったりするんだろうけど、蜘蛛の巣をペッペッと汚い感じから、海に降りて行くギャップというんでしょうか。
吉澤:子供のころから本が好きでした。 友達に見まもられながら地元の駅で歌っていたりしました。(19,20歳ごろ) 毎週行っているうちに常連さんが増えてきました。
*「鬼」 作詞:吉澤嘉代子 作曲:吉澤嘉代子 歌:吉澤嘉代子 吉澤:嫉妬という感情は重要なモチーフになると思って、嫉妬を可愛く仕上げられないかなと思って努力した曲です。
穂村:吉澤さんはシリアスな曲がある一方で、コミカルな、キュートな方向性もすごくありますが、そういう要素は本人の中にあるんですか。
吉澤:穂村さんの中にあるおかしみ見たいなものがたまらなく好きで、わからないけど穂村さんで育ちました。 6月20日に東京日比谷音楽堂で野外ライブがあります。