食野雅子(翻訳家) ・"ターシャ・テューダー"に学ぶ生き方と言葉
ターシャ・テューダーと言えばガーデニングの世界では大変知られた方ですが、1915年アメリカボストンで生まれて、絵本作家、挿絵画家、園芸家、そして2008年に亡くなりました。 19世紀の農家に憧れて夫婦で自給自足の生活しながら4人子供を育て、農業に飽きた夫が出て行ってからは絵の仕事で家計を支え、子供の自立を機に56歳からはバーモント州に移り住みました。 翻訳家の食野さんは出版社勤務を経てフリーの翻訳家となり「ターシャ・テューダーの手作りの世界、暖炉の火のそばで」の翻訳をきっかけにターシャ・テューダーとの交流を重ねてきました。 食野さんはブックデザイナーの出原速夫さんと共同で山梨県北杜市でターシャ・テューダーミュージアムジャパンを運営し、食野さんは「ターシャ・テューダー人生の楽しみ方」という本を出版しました。 食野さんにターシャ・テューダーの思い出や本に込めた思いを伺います。
出版社に勤めていて編集長兼社長の秘書をしていまして、翻訳物の出版が多かったので編集部から相談を受けて、子供が生まれて会社を辞める時に編集長から翻訳をやらないかと言われました。 「ターシャ・テューダーの手作りの世界、暖炉の火のそばで」という翻訳を頼まれました。 生き方、考え方に共鳴して、夫が亡くなって4人の子供を育てていたし境遇が似ていたこと、私も手作りが好きでしたので、すっかり気に入ってしまいました。
ターシャ・テューダーは7歳のときには着せ替え人形を手作りでやったり、いろいろ手作りすることが楽しみでした。 19世紀の農村の暮らしが素敵だと思って仰がれました。ボストンの名家に生まれて、社交界で成功して周りからは望まれたが、ターシャさんはそれに反抗して農業をやりたくて、そういう生活に入りました。 母親は肖像画家でした。 好奇心の強い人で興味があるとやってみてしまう人でした。
翻訳家が著者とやり取りをすることはなかなかないんですが、ターシャさんに魅せられてしまって、ある時に手紙を書きました。 伺いたいという事を書いたら是非いらっしゃいと返事があり、本を作ってきた仲間を誘って伺いました。 堅苦しいという事が全然ない人でした。 そのときには85歳でした。 庭は自分が楽しむための庭なんですね。 職業としては絵本作家、挿絵画家という事になっています。
庭はいつ行っても綺麗です。 季節ごとに雰囲気が違う。 色合いが違う。 次のことを考えて仕組まれているという事が判りました。 いまだに植物の勉強のためにたくさんの本があります。 1992年写真家のリチャード・W・ブラウンの写真集が世界的に注目を浴びた。 暮らしぶりにびっくりして10年余りにわたって写真を撮ったりして3冊本を出しました。 暮らしの本と、庭の本と、手作りの世界の本です。
ターシャさんのところへは仲間と毎年行っています。 朝から夕方ぐらいまで1週間ぐらい行っていました。 読者からもいろいろ聞いてほしいという事がありそれに励まされていろいろやっています。 読者からできれば人生をやり直したいという話があり、それを言ってみたら、「人生は誰でもやり直せません。 私もいろいろ失敗したけれど、人生やり直したいとは思いません。 やり直したとしても今より良くなる保証は何もないんですもの。」とおっしゃいました。
ターシャさんの名言を生活に生かして行ければ人生が明るくなるのではないかと思って、ターシャさんの言葉集を考えました。 暗い気持ちに成ったり、落ち込んだときには、急いで考える事はやめて、振り払って口角を上げてみるとか、好きなものを思いうかべたりすると、いいという事を言っていました。 読者から、ターシャさんの生き方から、今までの人生を区切るよりも、それはそれとして先のことを楽しんで、というメッセージに勇気づけられたという手紙などをたくさんいただきました。 ターシャさんは人生を楽しむ名人だと思います。 「歳を取ってできなくなることは当たり前で、今できる事を楽しんだら」って、プラスアルファのことを言っていただくと確かになあと思います。
ターシャさんは本当に努力家で10冊ぐらいスケッチブックをあちこちに置いておいて、子供の仕草、動物の仕草などを見てサッとスケッチすることをしていたそうです。 実物をよく見なさい、スケッチをたくさんしなさいという事を母親から教わった。 85歳の時もやっているといっていました。
気に入っている言葉の一つに、「見慣れた空の星でも年に一度しか見られないと思えば、感動するでしょ。」という言葉です。 ブックデザイナーの出原速夫さんと共同で2013年に山梨県北杜市でターシャ・テューダーミュージアムジャパンを立ち上げました。 そこでは虹の向こうに民家などが透けて見えて、それに感動して年に一度しか見られない光景だと思って、ターシャさんの言葉の続きがあって、「なんでもそう思って見てはどうでしょう。」というものです。 なんでもたまたま一回しか見れなかったら得した気分になると思います。 花、鳥とかだけではなく人間関係もそうではないかなと思いました。 ターシャさんの絵も紹介できてうれしいです。
ミュージアでのボランティア活動の中で皆さんのターシャさんからの反応に勇気付けられています。 「ターシャさんは独居老人の鏡だ」と言ってくださった老人男性がいましたが、一人になって残りの人生をどう生きるかのお手本がターシャさんだといっています。