朱戸アオ(漫画家) ・【私のアート交遊録】限界に向き合う人間の姿を求めて
4年前に書いたペストによるパンデミックの恐怖を描いた作品「リウーを待ちながら」が今再び注目されれています。 作品は感染症で封鎖された地方都市を舞台に人々が危機を生き抜く物語です。 この作品には緊急事態宣言による都市封鎖やマスクをつけて間隔をあけて並ぶ人々、濃厚接触など今も尚毎日ニュースで取り上げられる日常がちりばめられています。 朱戸アオさんはこれまで感染症をめぐる医療ミステリー「インハンド」や「メネシスの杖」など医療や科学知識とミステリーサスペンス感が見事に融合した作品を発表しています。 コロナ禍を予見した様な作品はいかにして描かれたのか、その経緯や、作品作りにかける気持ち,朱戸アオさんが漫画家になり、医療漫画を描くにいたった経緯や今後の作品世界について伺いました。
「モーニング」で初めて週刊連載を始めています。 「ダーウィンクラブ」というタイトルで連載しています。 朝5時、6時から仕事を始めて、朝食を作って子供たちを保育園に送り出してから仕事を再開し夕方5時までやります。 子供たちに夕ご飯を食べさせたりして一日が終わり、時間が足りないです。
「リウーを待ちながら」が単行本で出た時には全く話題に乗りませんでした。 まさかこんなことになるとは思いませんでした。 この作品には緊急事態宣言による都市封鎖やマスクをつけて間隔をあけるなどが取り込まれています。 感染症に関する法律とか読み込んだり取材などもしました。 中世のペストなどでどのような差別とか、虐殺があったが、原因が判っていなくて、病は王様から農民まで全員がかかるという、病が平等だという話は本で何回も出ていました。 そういった思想をもとに漫画を描きました。 現実ではある程度感染経路も判っているし、どの程度防御すればかからないかという事も判っているし、医療のレベルも国によって違うし、全然平等ではなかったなと自分の想定とは違ったなと思います。 疫病とか災害は人間の善悪とは関係なく動くので、本当は世界ってそうなんだと思います。
「ペスト」を若いころ読んで感動して世界はなんて不条理なんだろうと思って、主人公のリウーが誠実でこういう風に生きて行けばいいんだと思って、医療物を書いてくださいと編集者から言われた時に、ペストをべースにしたパンデミックな話を書きたいなと思いました。「ゴドーを待ちながら」(不条理演劇の代表作として演劇史にその名を残す。)も舞台で見たことがあって、編集者の方が二つを合体させればいいんじゃあないかといわれて「リウーを待ちながら」にしました。
不条理とどう戦うかという事を書きたいと思っていて漫画にしましたが、大きく話題にはなりませんでしたが、コロナ禍が起こってしまって、不条理な世界になってしまった時に多くの方が読んでくださいましたが、追体験をしなくてもいいんじゃないかと思いましたが、俯瞰して見れるという事では安心して見れるのかなあと思いました。
物語で「ペストと闘う唯一の方法は誠実さなんだ」とリウーに言わせているが、誠実さとはこうすれば誠実に生きれるという方法はなくて、場合によってちまちま考えて、駄目だったら違う方法を考えてもごもごするが、その時に一番いい方法を考え行動する。
美大へ行きましたが、友人の医師などから監修を受けています。 ニュートンは万有引力を証明するために微分、積分を道具として思いついたそうですが、それを見て感動しました。 目的とか視野の広さは子供のころ余りもてなかったが、大人になって漫画のためと思いながら勉強して、そうすると知識が増えて行って、漫画のお陰で世界がひろがったなあと思います。 NHKしか見せないような親でしたが、小学校4年生の時に「風の谷のナウシカ」を買ってくれて、面白くて真似をしてストーリーの続きを書いていました。 美大の建築科に入りました。 漫画を書きたいという思いが出てきて、書いて持ち込みなどしました。 大学4年の時に漫画家になりたいと言ったら、何にもやっていないのに何言ってるのと言われ、大学院に進んで読み切りを書きました。 大学院1年生の時にデビューしました。
子どもを持つことは私にとって素晴らしいことですが、仕事の妨げにはなりますが、その中でいろいろ考えることがあり、次の作品に活かせたらいいなあと思います。
2011年に公開された映画『コンテイジョン』がお薦めの一点です。(アメリカのスリラー映画。高い確率で死をもたらす感染症の脅威とパニックを描く。)