2021年7月15日木曜日

今野敏(小説家)            ・独自の美学を貫いて

 今野敏(小説家)            ・独自の美学を貫いて

今は5,6本の連載のペースでやっています。   専業作家になって40年になり年間5冊平均で本を出してきている。   同じことを淡々と繰り返している感じです。 

1955年生まれ、北海道三笠市出身。  物心ついたころから絵を描いていました。  漫画家になりたかった。  横山光輝さん(伊賀の影丸、鉄人28号)、桑田次郎さん(エイトマン)、石ノ森章太郎さん(親戚でして、サイボーグ009)など夢中になって読んでいました。   絵を描きながらいろいろ物語を作ったり妄想をしていました。   スポーツは得意ではなくインドア派でした。   球技もへたくそでした。  

小説に目覚めたのは中学1年生の時で、「幽霊」という北杜夫さんの単行本を友達から誕生日のプレゼントという事でもらいました。   読んでみるうちにのめりこんで、中学校3年間は北杜夫さんのかため読みでした。    北杜夫さんのようになりたいという思いが芽生えました。   高校時代も本をよく読みました。  日本のSF界がすごく元気だった時代で、眉村 卓さん筒井 康隆さん、 小松左京さん、平井和正さんなどがどんどん出てきました。

大学在学中の1978年に『怪物が街にやってくる』で第4回問題小説新人賞を受賞しデビュー。   ジャズが好きで、山下洋輔トリオの最も好きだったドラマーの森山威男さんが辞めるという事でショックを受けて、すばらしさを何とか伝えたいと思って、森山さんを主人公にした小説を書いてしまいました。   友達から応募したほうがいいといわれて、筒井 康隆さんが選考委員をやっているところに応募しました。   電話で受賞したことを聞きました。   この賞をもらって小説家になっている人はいませんと言われて、大学を出て普通に就職し東芝EMIに入社ました。  3時まで仕事をして家に帰って朝7時ごろまで書いて9時に会社に出勤というようなこともありました。  3年間はやろうという事で3年やって辞めました。  

1981年専業作家になる。  バブル期で書けば本にしてくれるような状況で夢中で書きました。   2,3か月に一冊のペースで続けていました。   親戚の石ノ森章太郎さんから「作品の質というものは量を書かないと上がらないんだ。」と言われて、いまだに座右の銘です。   ジャンルはバラエティーに富んでいるかもしれませんが主人公のタイプはそんなに変わっていないんです。   

2005年 「隠蔽捜査」で2006年に吉川英治文学賞新人賞を受賞、デビュー28年目。 賞には縁がなかったので本当にうれしかったです。  編集者の方から官僚のことを書きましょうといわれて、警察官僚のことを書くことにしました。  2008年「果断 隠蔽捜査2」で第21回山本周五郎賞受賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。  世の中みんなフラストレーションを持っていて、それを突破してくれるのが、主人公の竜崎 伸也という思いがあるのでは。   正論を貫き通す、判断は現場のエキスパートに任せる、責任は自分がとる、主人公竜崎 伸也は組織の一つの理想論だと思います。  警察にはいたことがないので何を類推して書いているかというとサラリーマン時代ですね。   上司と部下の関係はどのような組織でもそんなに違わないと思います。

警察を描くという事はどういう事か考えたことがありますが、武力、強制力を持った公務員、という事は結局武士の話を書いているんだと思います。  正義は立場によっていろいろ変わると思いますが、任侠シリーズに関していうと、反社会的組織の人たちが、正義のわけはないだろうと思いがちですが、彼らも正しいことを言えるんです。   任侠の方に正論を言われると妙に響くだろうと、そういう狙いもあるんです。  

今野敏という作家の役割は ハッピーエンドを書いて、読者が読み終わって元気になったりいい気持ちに成ったりする、というのが役割だと思っています。  或る理想を語ってあげないとそこを目指せないという事もあると思います。   臆面もなく理想を書こうと思っています。

倉島警部補シリーズ、刑事から見た公安は大体悪役なんですね、  何をやっているかわからない。   公安から見た刑事、これは新しい視点で、海外のスパイ行為、諜報戦、警察官というより諜報員と思って読んでいただければいいと思います。  どんな世界でも慣れがあり、慣れてきたころが一番怖いんですね。  そういう時期の倉島も書いて見たかった。  どう立ち直るのか、どう変化してゆくのか読んでいただきたい。   海外の諜報部員たちと公安はどう戦っているのか、これも読んでいただきたいと思っています。

小学校から中学の頃に空手に憧れましたが、道場とかなくて、大学に入って空手愛好会に入って、始めました。  空手は沖縄が発祥なので、沖縄の空手をやりたいと思って、それまでの団体とは別れて独立して、1999年空手道今野塾を主宰、ロシアにも支部が出来ました。  毎年ロシアに行き、小説の中ではロシアとの関連性も出てきています。

自分は職人だと思って行って、こつこつやってきましたが、年齢とともに体力が衰えてきて根気がなくなりました。  前は一日20枚ぐらい書いていましたが、今は10枚ぐらいです。   アイデアはニュース、出来事などを当てはめて、考えています。  大まかな流れだけは考えますが、細かいところは考えないです。   警察小説は侍の物語を書いていると思ってます。   警察小説は家族の問題、事件、上司と部下の関係とかいろんなものが入れられるので、非常に使い勝手のいい器だと思います。