池田譲(琉球大学教授) ・したたかなタコの脳を探る
イカやタコの研究を始めて30年になります。 中でも大きな脳と優れた目を持つタコは学習能力や記憶能力を持っているという事が飼育実験で分かってきたといいます。 海の賢者、海底の賢者ともいわれ、知的な行動をするタコとはどんな生き物なのか、池田さんに伺いました。
日本人はイカ、タコをよく食べる民族といっていいのではないかと思います。 西洋ではデビルフィッシュ(悪魔の魚)とも言われていますが、見た感じがにょろにょろしていてちょっと気持ち悪いというよなところからそういった名前が付いたと思いますが、日本では好んで食べられています。 日本ではコミカルな感じでとらえられています。 タコの種類は250種類ぐらいあります。 日本ではマダコ、イイダコなど数としては多いです。 タコは8本、イカは10本あり、生物学的には腕と言います。
丸い頭というような部分は実は胴体です。 その下についているのが頭です。 目が二つありますが、そこが頭の部分になります。 そこから8本の腕が伸びています。 軟体動物頭足類 イカ、オウムガイ、アンモナイトが含まれている。 祖先はカンブリア紀あたりからいたのではないかと言われています。 見方を広げると貝の仲間です。アンモナイトは絶滅してしまいましたが、オウムガイよりもアンモナイトに近いです。
タコを解剖してみると、身体の割には脳が大きいです。 脳重量:体の重さに対して脳の重さがどの程度か、を比較すると、脊椎動物の中では哺乳類、鳥類は体の割に脳が大きい。 魚類、爬虫類は体の割に脳が小さい。 タコはその中間ぐらいで、やや哺乳類に近くて魚類などよりは大きい。
目は2種類あって、私たちのようなレンズのはまった単眼と昆虫の目のような複眼がありますが、イカ、タコはレンズのはまった単眼で人の目とよく似ています。 目もよく発達しています。 軟体動物で脳が大きくて、目が発達していてユニークなグループと言っていいと思います。 イカやタコは1年ぐらいしか生きられない。(中には2年ぐらいいきれるものもあるが。) 呼吸はえらがあってえら呼吸をしています。 口は足の付け根に鳥のくちばしのようなものがあります。
ヨーロッパでは1950年代、60年代にタコについて盛んに研究されました。 図形の〇,△、□、×を見分けるとか、迷路を解かせるとか、ラットがやるようなことは普通にタコもできてしまう。 もっと高度な観察学習、やっていることを見てまねてしまう、そういったこともできる。 マダコで報告されています。 タコに赤いボールと白いボールを見せて、赤いボールに攻撃させなさいという事を学習させる。(できると餌をあげる) そのタコと学習していないマダコをガラスを隔てて入れておく。 タコに赤いボールを入れ攻撃するところを、学習していないタコにそれを見せて、一旦赤いボールを取り上げて、しばらくしてから学習していないタコに赤いボールを与えると攻撃するわけです。 隣人がやっていることを見て同じようにやる。 白いボールでも同様に行います。 見まね学習と言いいますが、チンパンジーでも難しいといわれる学習能力です。
映っている自分の像、鏡に関心を示す場合と無い場合と両方あります。 鏡像自己認知実験と言いますが、鏡に触ったり動かしたりする個体もありましたが、関心を示さない個体もあります。 タコにふっと見られてる時もあり、好奇心のある動物なのかなと思います。
子供のころはあまり関心がなかったが、テレビとかで海洋番組が放映されていて、面白いと思っていましたが、特にタコなどへの関心はなかったです。 北海道大学の水産学部水産増殖学科、大学院は水産学部付属北洋水産研究施設海洋生態学部にゆく。 最初はイカの研究から始まりました。 スルメイカの生殖、産卵などの研究をしていました。 恩師から飼育の方法など教えていただき、後々飼育して観察するというベースになりました。
理化学研究所にいた時に脳に関わる部署にいたので、イカの脳の研究をしようという事になりました。 社会を維持してゆくときに必要な能力、イカは群れをつくるのでイカの脳に関する研究を始めました。 イカの脳が大きいのは群れを成してうまくやってゆくには賢くなくてはいけない、社会脳仮説をイカに当てはめて考えました。 タコでも同様に社会性に関して研究を始めました。 沖縄にはいろんな種類のタコが居て同種類で緊密にふるまうものがいて、ソデフリダコなどはそうです。 タコの社会性という事で関心を持っています。 程度の差はありますが、同種のタコ観に関する関心は少なからずあると思います。
タコの分類、どこにいるのか、生態状況などは日本では先行して研究されていた。(明治時代以降) タコの社会性をもっと掘り下げてみてゆきたい。 それに関わる能力、社会認知能力はどうなのか、それに関わる脳はどう働いていているのか、基礎的な研究と、自分の研究を社会的なことに具体的に還元したいという思いがあります。 タコの保全、養殖などに貢献出来たらいいなあと考えています。