2023年3月1日水曜日

川崎景介(花文化研究者)        ・〔心に花を咲かせて〕 人と花との付き合いを探求

川崎景介(花文化研究者・フラワーデザイン学校校長)・〔心に花を咲かせて〕  人と花との付き合いを探求 

人は花を愛でるようになったのはいつ頃なのでしょう。  自然界の花を身近に飾ろうと思い始めたのは、いつごろで、何かきっかけがあったんでしょうか。 花を愛でるという営みは生け花やフラワーデザインへと発展していますが、そうした花との付き合い方は人に何か影響を与えているんでしょうか。  人と花との関係や歴史を研究している花文化研究家でフラワーデザインスクールの校長でもある川崎景介さんに伺いました。

花を身近に飾ろうと思い始めたのはいつごろかは難しくて、絵画や記録などで調べてゆくしかない。  壁画に花が描かれているのは古くからあります。  暮らしの中で花が飾られるようになったのは、明確に判るのは古代エジプトの時代(約3500年前)と言われている。 お墓の壁画に沢山その記録を残しています。   記録されていないものではもっと古いものがあるかもしれません。   大切なものに花を手向けると言う意味においてはエジプトも日本も似ているかもしれません。  儀礼、宗教的に大切なものにお花を手向けて、それを暮らしに飾るといったことは世界のいろんなところで行われています。     インドではどの家にも祭壇があり、ご先祖の写真、崇拝する神様の像などが置かれていて、それにお花を手向けたり、花びらを散らして飾り立てたりという事が行われています。  花は思いを伝ることに役に立ってくれる存在だと思います。  

部屋に花を飾るよぅになったのは、ヨーロッパではルネッサンスの時代以降、17世紀ぐらいからと言われています。   オランダの画家にヤン・ステーンさんという人がいますが、庶民の絵を描いていますが、棚の上にお花が飾られている絵があります。  窓枠にも飾られていました。   日本の場合は平屋の家が多く、室町時代からは書院つくりと言って障子を使って中が明るくなるように工夫され、外国の建物と違って、外の風景を垣間見ることが出来る。  茶室のお花などはシンプルに活けられている。  地中海からの球根類の花が広がって行ったようで、ヨーロッパでは沢山飾られることが多いです。   日本は草花のほか、花木が重視される。  立花には花木が中心に飾られて、力強い印象があります。  ヨーロッパでは群生した「色」、日本では色だけではなくて枝の風味などにも愛着を感じたと思います。  19,20世紀になると文化交流によって、枝をアレンジメントするようになって来ます。  生け花は20世紀になるとヨーロッパ、アメリカなどに大変大きな影響を与えたと言われています。   

なぜ人は花を愛でるのか、未だに明確な答えは出ません。  視覚的に人間が美しいと感じる。  多くの花から香りのよさを感じる。  季節感を感じることができる。(特に日本人)  生命感がある。(命の芽生えと衰え行く姿)   視覚的なドライフラワーが発達したのが、開拓時代のアメリカです。  過酷な開拓時代なので薬として乾燥して保存したといわれている。  生活に余裕が出てくるとそれが美的なものとして部屋に飾られるようになったと考えています。  ドライフラワーは商業的に発達していった。

フラワーデザインは、母がアメリカで勉強して日本に広めました。  勉強していたころはフラワーデザインとは呼ばれていなくて、フローラルアート、フラワーアレンジメントと呼ばれていました。   アメリカでは花を贈り合う事が習慣化されていました。     日本に帰って来てアメリカのお花のテクニックを教える教室を開きました。  働く女性 OLが社会進出してゆくというような時代背景もありました。 

私は歴史が好きで将来歴史に携わる仕事をしたいと思っていました。   母や兄に一緒に仕事をしないかと言われて、先生になりたかったので、この世界に飛び込みました。   母も初期は花の文化史を調べていましたが、その後教える仕事が忙しくてできなくなりました。  或る時母に呼ばれて「人とは違いことをしなさい。」と言われました。  母の思いは、フラワーデザインを通じて自分を発見してもらいたい、という事でした。  月刊誌に文を書くことになり、花のいろいろな文化のことを調べるようになりました。   人類誕生以来、何らかの形で花を取り込んできた。  それは薬草、儀礼のための花、美のための花、こういったものが積み重なってフラワーデザインになっているのではないかと思いました。   花は自然の一部なので、自然の一部を切り取って来て、人間の想像力をそれに加えて、自分なりの形にする。   

生け花は型があり幾つか習得して、それを基礎にやって行きますが、フラワーデザインの場合は型というよりは、いろんな傾向を持つ作品があって、それを一つ一つ習得していって、幅広いテクニックを覚えていただき、最終的には自分で一から作り上げる。  フラワーデザインをやってどう変わったか質問しましたが、身の回りの植物などに対する感性が豊かになる、視野が広がるというようなことを言われました。  そうするともっと深く知りたくなる。   作品の幅が広がったり、自分の人生経験が豊かになったりします。     自分らしいデザインを通して、自分を見つめる機会になる。   

日本のフラワーデザインが海外へ影響を及ぼしている部分もあります。   突き詰めてゆくと本人の美意識、自分のありようがかなり投影されて行く。  それが自分への気付きにもなるのではないでしょうか。  人は花の生命力に元気を貰い、癒され、限りない(限りある?)命を大切に扱おうという戒めを貰うという側面もあるのではないかと思います。  自分を知るために活けているのかもしれません。