田丸雅智(ショートショート作家) ・理系の道から創作の道へ ~ショートショート作家のこれまでと、これから~
田丸さんは1987年生まれ、愛媛県松山市出身。 2011年に作家デビュー、2012年には出版社主催のショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞を受賞しました。 「海酒」は又吉直樹さん主演で短編映画化され、カンヌ映画祭などで上映されました。 又田丸さんは全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、ショートショートの普及活動にも努めています。 「理系の道から創作の道へ ~ショートショート作家のこれまでと、これから~」です。
高校までは松山市で過ごしていました。 松山東高校をでて、東京大学工学部、大学院へいって、理系の道を来ています。 今はショートショート作家として活動しています。 ショートショートとは何かという事ですが、短くて不思議なお話だと思ってもらえばいいと思います。
「発電生物」
電気うなぎの原理を発展させて自分で発電できる電気タコが開発された。 よく電源コードが沢山差し込まれていることをタコ足配線と呼ぶが、この電気タコの場合は本当のタコの足を使った配線で、8本足から電気が取れる。 但し一度にたくさんの電気を使うと熱くなりゆでダコになってしまう。 といったような内容です。
小学生のころは国語、作文は本当に苦手で、本が読めなかった。 せっかちで本を開いても早く次が知りたい、という事で眺め読み、飛ばし読みをしてしまって、筋もよくわからず面白くないなあと思いました。 その前は母、祖母が沢山の絵本を読み聞かせをしていました。 小学校高学年の頃に母がこれなら読めるだろうという事で、ショートショートの本を渡してくれました。 めちゃめちゃ面白くて衝撃を受けて、中学、高校と読書に目覚めていきました。 そのうち書くことも得意になって行きました。 初めてショートショートの小説を書いたのは、高校2年生の時でした。 友人に見せたら面白いと言ってくれました。 ショートショートの小説自分で書いてもいいんだという事に初めて気が付きました。 大学で趣味としてやっていた中で、やがては本格的になってゆくわけですが、後ほど話します。
「海酒」という一作があります。 海に落ちているすりガラスのかけらを漬け込んでお酒を造るという、そのお酒がある不思議な力があって、その海酒を飲むと、海の記憶が閉じ込められていて、海の記憶が頭のなかによみがえってくる、流れ込んでくるというそんな不思議なお酒です。 それを出してくれるバーと海の町出身の主人公がたまたま出会って、という一作になっています。 三津浜があり自分の町を閉じ込めたかったという思いの一作です。
「大根侍」というのがありまして、大根でものが本当に切れてまうという、架空の話ですが、大根の刀を扱う侍がいて、もめごとになって、大根でポストを切ってしまって、中から手紙などが出てきてしまって、本当に切れたというギャグみたいな展開ですが。
「桜蝶」 中学校1年生の教科書に載せてもらっています。 600文字ぐらい。(発電生物の2倍ぐらい) 桜の開花に先立って南から北に桜の形をした蝶々がどんどん北上してゆき、桜が咲き始める。
ショートショートの普及活動をしています。 執筆活動は6,7割で、残りの時間を普及活動を行っています。 ショートショートの書き方講座をやっています。 90分のなかで、アイディア発想してもらって作品を完成させて発表までやってしまうというスタイルです。 小学1年生ぐらいから大学生とかの学生系、一般系、老人ホームなどでもやらせてもらってきました。 少年院、企業でもやりました。 2万人以上が参加しています。
ステップ1:まず不思議な言葉を作る。 まず名詞を4つぐらい書く。 そのなから1つを選んで思いつくことを考える。 例えば「太陽」 発電に使える、ポカポカする、皆既日食、とか連想する。 頭とおしりに2種類の言葉を持ってきます。 頭には太陽から思いついた言葉、おしりに持ってくるのは、最初に出した太陽以外の名詞、タコ、傘、ソファー、 発電に使えるタコ、ポカポカする傘、皆既日食ソファーとかを作ります。
ステップ2:それはどんなものなのかを考える。 発電に使えるタコならば、電気ウナギは聞いたことがあるという事で、電気ウナギを発展させて作ったのがこのタコではないかと考える。 メリットは何かないかを考える。 水槽で飼っていれば電気を取り放題になるのではないかとか、8本のたこ足配線になるのではとかを考える。 デメリットも考える。 無茶苦茶な使い方をすると熱くなってゆでダコになって死ぬんじゃなか、といったことを考える。 想像を広げる。
ステップ3:今出た要素を纏めてお話を作る。 「発電生物」は実際にこの方法で作った作品です。
ショートショートの講座で大事にしているのは、楽しむという事です。 想像力はネガティブな反応に触れると委縮してしまいます。 ショートショートのすそ野を広げたいと思って普及活動をしています。 趣味としての創作活動をもっと定着させたいと思っています。 僕は俳句に影響を受けていると思います。(松山市出身) ショートショートをやることによって文章力、発想力、論理的思考力を磨くことにもつながる。 発想力を養う事は、企業では新しい商品、サービスとかにもつながります。 講座を受けた方は、書くことをしたり、読むことに興味を持って本を読む方が増えたりしています。
少年院では書くことが苦手な人が多いんですが、日記を書いてもらっていて、発散に繋がる、心の状態を言葉にするという事を日頃からやっていますが、そこに僕のお話を考えてみましょうというという事で、気持ち、考えを言葉にする、ストレスの発散することに繋がって居たりします。 文章を完成することで新たな方面への挑戦への糸口になるのではないかと思います。 更生に役立てればという思いでやっています。
祖父が大工、他に造船業の人もいて、物つくりの中で育って、理系の道に進みました。 高校では440人ぐらいの中で100番ぐらいでした。 悔しくて一生懸命勉強しました。 自分で足りないものは何かという事を考えました。 いろいろ考えてやったら150番に落ちました。 でもこれしきないと思って続けて居たら徐々に上がりだして、東京大学に行くことが出来ました。 大学時代は環境エネルギー系の研究をしました。 空想の世界なら自由だという事で、ショートショートは自分に一番合っていると思いました。 プロの小説家になるためには、どうしたらいいかという事を、高校の勉強と同様のことをしました。 自分に足りないものは何かを考え、それを実行して結果を見ながらサイクルとしてもう一回何が足りないのか、という事を意識的にやりました。 海外旅行、美術館、本、料理とかいろいろ意識的にやりました。 人生生きてゆく基礎は勉強からも学べるのではないかなあと僕は凄く思っています。
ショートショートは売れないと出版業者からは言われて居ました。 最初は絶望しましたが、やり続けることが出来て、ある作家さんから出版社を紹介していただき、一冊目の本を出して、今日に至るようになりました。 「情熱と実行」という事を大事にしています。 それを続けていることで幸運も舞い込むかもしれません。 執筆を基本としながら、ショートショートのすそ野を広げていきたいと思います。 書き方講座を海外でもやっていきたいです。 もっともっと空想で世界を彩ることにしてゆきたいです。