2023年3月6日月曜日

穂村弘(歌人)             ・〔ほむほむのふむふむ〕鈴木晴香

 穂村弘(歌人)             ・〔ほむほむのふむふむ〕鈴木晴香

「海の家」でオセロ篇を取り上げます。  15年ぐらい短歌投稿フォーラムをやっていて、選んで溜まると本にする。 「海の家」でオセロ篇は5冊目になります。

鈴木さんは1982年東京都台東区生まれ、2012年雑誌の連載「短歌ください」への投稿をきっかけに作歌を始める。   これまでに歌集『夜にあやまってくれ』『心がめあて』 2冊を発表しています。  現在」短歌会編集委員、現代歌人集会理事、「西瓜」同人です。  又短歌教室も開催しています。

鈴木:俵 万智さんの「あなたと読む恋の百首」本がありまして、その中に穂村さんの歌が入っていて特別に素晴らしいなあと思って、シンジケートの歌集を手に取ったのがきっかけです。

その歌が
「体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」と騒ぐ雪のことかよ」  穂村弘               体温計をくわえているので「雪だ」といえなくて「ゆひら」となってしまっている。      「雪のことかよ」と突き放している様でありながら、本当は抱きしめたいぐらい可愛いと思っているところがあって、素敵な歌だと思います。

春雷 「自分脱ぐ」とふりかぶるシャツ内なる腕の十字」  穂村弘       

シンジケートのなかで一番好きな歌です。  脱がせてあげる場面で、恋人は自分で体操着を脱ぐように溌剌とした感じで脱いたんですね。  両手で脱ぐと手が重なり、一瞬十字になるが、十字架だから神聖さみたいなもの、ゆるぎなさみたいなものを感じます。    その一瞬が「春雷」なんですね。  受動的ではない女性の描かれ方が、恋だけではなくて、生き方、仕事などなんにでも言えると思います。 前向きに、背中を押してくれるような歌だと思います。

「だしぬけに葡萄の種を吐き出せば葡萄の種の影が遅れる」   木下龍也           木下龍也さんは「短歌ください」の常連の一人です。  この世の中は隙間がなくて、ちゃんと出来上がっている。  でもどこかに神様の不手際があるのではないか、と言うような視点で書かれた歌だと思います。  根源的な世界ってこんなものなのかと、具体的に「葡萄の種の影が遅れる」と着目したところがいいと思います。                    

永田和宏さんの主宰していた「塔」短歌会に入会しました。                    「きみ逢う以前ぼくに遭いたくて海へのバス揺られていたり」   永田和宏    とっても美しい青春の歌だと思います。   君に逢ってすっかり自分は変わってしまった。  恋を知る前の自分を思い出せないぐらいなんですね。  自分の変化が歌われていて大好きな歌です。  恋って自分が変わってしまう危機的な状況、だから喜びもある。  でも戻れないという怖さがある。

「塔」ではいろいろな人との出会いがあり、大森静佳さんは人間の恐ろしさみたいなものを描くのが得意な方だと思います。

「夜の道にビニールハウスの群れ光るここはこころの外だというのに」  大森静佳   人間の恐ろしさというより、人間と人間でないものとの境界線が揺らぐような感じがして、とても大好きな歌です。 「ここはこころの外だというのに」というのにびっくりします。  

第一歌集『夜にあやまってくれ』を出版、 監修が江戸雪さん。

*「よそゆきという布切れの服を着て岬に立てばさよならのおと」   江戸雪
よそゆきはよそへ行く感じ、岬に立つその先は、追い詰められた感覚が伝わってくる歌だと思います。  

短歌ブームと言われているが、平安時代に比べるとなんてことないのでもっと頑張らなければと思います。   今SNSで発信したものがすぐ読める、直ぐ返信できる、相互的なやり取りが生まれて来ていると思います。

*「雪は人を訪れる人が川沿いの美術館を訪れるのに似て」   服部真里子              言葉と言葉、イメージとイメージのスパークみたいなところがあって、私の手の届かない次元にあって、憧れているている存在です。   「雪は人を訪れる」だけで特別な世界で、でもそれが作者の心なんでしょうね。

*「またここに二人で来ようという時のここというのは時間のこと」   鈴木晴香       ここというのは場所ですが、時間のことと言われた時には凄く驚きます。   

*「目にゴミが入っただけの夕暮れに君はどこの交差点を渡る」    鈴木晴香     君は今どこで何をしているのか判らない。  今この瞬間もみんなどこかで何かをしている、不思議さ。     

「助手席に座る人にも役割がほしくてすべての窓を開いた」      鈴木晴香    「すべての窓を開いた」は別に貢献しているわけではない。   その虚しさに胸を打たれる。   自分の力不足、存在の儚さみたいなものを感じるから、この歌になったのかなと思います。    今世の中に流れている情報は何が有効かという情報で、短歌の面白さは無力感が作品になるという事。  虚しさに胸を打たれる。

*「ひとの家の犬を撫でるといいことがあるのだろうかあなたは撫でる」   鈴木春香    これは恋の感じが少し流れている。

「この手紙燃やしてほしいと思ったりしないもともと燃えているから」  鈴木晴香    短歌が燃えているからこそ『心がめあて』の一番最後にこれをいれています。  

短歌って自分を知る手段でもあると思うので、ずっと続けて自分自身を見続けていきたいと思います。  

*印は 漢字、かな等違っている可能性があります。