2023年7月26日水曜日

吉田正人(筑波大学教授)        ・〔心に花を咲かせて〕 絵に描くとわかる自然界の不思議

 吉田正人(筑波大学教授 日本自然保護協会監事)  ・〔心に花を咲かせて〕  絵に描くとわかる自然界の不思議

自然を見るのにスケッチが大事だと言いますが、描いてみるといろいろ見えてきます。    目で見える情報は8割がたですが、実際に描いてみると、描いている中で気付いてくることが一杯あります。   描き終わった段階で、隣の人と見せ合ってみると自分が気が付かないことに、周りが気付いていたとか、同じものに気づきていたとか、学びあう事が沢山あります。  見せあう事で発見が2倍、3倍にも広がる。  フィールドノート(ポケットに入るような大きさ)をもって、学生時代から生物学を勉強していました。  

じっくりと描き始めたのは最近のことなんです。  コロナ禍で自宅で過ごす事が多くなって、早起きをして1時間ぐらい房総半島の里山を歩く事を始めました。  最初は写真を撮ってフィールドノートに名前を書いたりしていただけでしたが、或る時からスケッチを始めました。(3年ぐらい)   女郎蜘蛛などが目に入り、女郎蜘蛛と似たような蜘蛛で背中の模様も目のような模様がありました。 家に帰って調べて観ると「スズミグモ」でした。  もともとは南方系の蜘蛛でした。  温暖化のせいかもしれません。

個体ごとに模様が少し違います。  自宅のハマユウの葉っぱについていたハマオモトヨトウの名の幼虫が描かれています。   頭の部分とシッポの部分がオレンジ色で凄く目立ちます。   どっちが頭なのかわからないという事で鳥の攻撃がかけられないかもしれない、というような説はよく言われます。  頭の模様をもっと良く観るとテントウムシの模様に似ているんです。   テントウムシは鳥にとって毒素みたいなものを持っていて、食べたらまずいよという事をアピールするためにああいう色をしていると言う説もあります。 ハマオモトヨトウの幼虫もハマユウを食べて毒素を貯めて、まずいよという事をアピールする意味があるのかなあと思っています。(どこにも書いていなくて私の説かも)

鳥はコジュッケという鳥を描きました。  逃げ方が最初歩いて逃げるんです。     近づくとパッと飛び立ちます。   そういった様子をメモ書きしています。      鳥はすぐ飛び立ってしまうので記憶に残る範囲で簡単に描きます。  トンボとか見たものは何でも描いています。  トキは飼育されているトキを描きました。  山並み、里山、田んぼの風景も描きました。   益々旅の思い出がよみがえってくるような絵になります。   

描くことによって、写真と違って自分が一番印象に残ったところをもう一度見直してみるという事になります。  また細かいところまで気が付いて描くことがある。  自分で描くので記憶に定着します。   写真ではすごい短い時間しか自然と触れ合っていない。 

隠岐の島では乳房杉(ちちすぎ)という有名な杉があります。  杉と落ちている枝とシダの3つをスケッチしました。  枝が横に伸びないで真っすぐ上を向いています。(フォークを上に向けて刺したような形)   雪が沢山降る地方では同じ杉なんだけれども、枝が上を向かないと枝が折れてしまう。   枝に触っても太平洋側の様にあまりチクチクしない。  五感を使って観察しながら描きます。  

ハエトリグモという蜘蛛がいます。  大きさは1cm前後。  顔の前に大きな目が4つ付いています。  頭の横のあたりに右に2つ、左に2つ小さな目が4つ付いています。  目も8つあります。   スケッチすることによって気が付きました。 ハエトリグモの仲間は日本中の家のそば、山のなかにもにいます。  模様も違います。  スケッチすることによって多様性を感じます。   

カメラがなかった時代は絵の専門の人が描くという事があり、今も伝統としてあります。  このスケッチは気が付いたことをメモしていくという事なので、上手に描こう思わなくても大丈夫です。  先入観を捨てて、自分の目で見て描くという事が大事です。 虹を描くと日本人は7色ですが、アメリカ人は6色で描きます。  自分の国の文化のフィルターにかけて観ています。  

自然の中でいろんな生き物がいて、多様性のすばらしさ、を感じ取ることができる。   沢山の生物によって生態系が成り立っている。   食物連鎖によって成り立っているが、多様性が崩れてしまうと、その生態系は非常に崩れやすくなる。   小笠原諸島などは外来種が入りやすい。  元々の固有の生態系が少ない種類で出来ている網で、そこが壊されてしまうと絶滅しやすい。   沖縄はかつては大陸とつながっていたので、多様性は高い。   いろんな生き物がいるんだという事自体が楽しく思える、という事は環境教育の第一歩だと思います。    

私は千葉県に住んでいたので、子供のころ自然は周りにいっぱいありました。  中学生のころから牧野富太郎などの伝記を読むことによって、自然に興味を持っていきました。  植物生態学を学ぶ事が環境問題の解決になるかなあと思って、この世界に入って来ました。大事だなあと思ってくれる人を育てる意味で、子供向けの自然観察会をしたいなと思いました。   子供に連れられて大人が自然観察に加わるという事もあります。  継続的に描いてゆくことが大事だと思います。  自分のいい人生の記録にもなると思います。    毎日自然のスケッチをすると、心の癒しにもなると言っています。