穂村弘(歌人) ・〔ほむほむのふむふむ〕
「短歌のガチャポン」というタイトルの短歌の本を昨年末出版しました。 「ガチャポン」「の様に何が出てくるかわからない、どんな短歌が出てくるか分からないように、逆に順番をバラバラにしています。 メリンダ・パイノさんというオーストラリア人の方がイラストを描いています。 今日はここからの紹介です。
*「おふとんでママとしていたしりとりに夜が入って来て眠くなる」 松田和子 7歳の女の子の作品で、夜がしりとりに入って来て、眠くなちゃったという、面白いですね。
*初めから夕方みたいな日のおわり近づきたくてココアを入れる」 本田瑞穂 心理的に何にもできないような日があると思います。 「近づきたくて」 何に近づきたいのか書かれていない。 大切な、人、もの、思い出とか。 なんか優しい諦めみたいな感じと深い絶望も感じられる。
*「ポオリイのはじめてのてがみは夏のころ今日はあついわと書き出されあり」 石川信夫 これは戦前の作品です。 いきなり「今日はあついわ」と書き出してくるポオリイは素敵な人で、二人とも若いと思う。 この時代では話口調は珍しかった。
*「口づけをしてくるるものあらば待つ二宮冬鳥七十七歳」 二宮冬鳥 「口づけをしてくるるものあらば待つ」という短歌の古風な言い方が逆に生きている、まるで侍が言っているみたい。 二宮冬鳥は医師でした。 他に同様の作品を作っているのか調べたら、若い医師になりたての頃の作品にありました。
*「顕微鏡の光の中にゾウリムシの熱き接吻を我は見ており」 二宮冬鳥 これも面白いです。
*「冷たいと思わないと思われている鮮魚は氷の上に乗って」 鈴木春香 鮮魚を自分と重ねているような、 死んでいる鮮魚も実は冷たいと感じているんだという、そこにドキッとするものがあります。
*「氷上葬があるなら私はそれがいいどこまでもどこまでも滑って行きたい」佐藤光正 日本では火葬、土葬(昔) 火葬も改めて考えると、えっと思うような感じはする。 この人は氷上葬を急に頭に浮かんだと思います。 永遠という感じがします。
*「幾たびもあなたの頬をぬぐってた泣いているのは私なのにね」 鈴木美津子 心のなかで一体化してしまっているような。
*「何をしに僕は生きているのかと或る夜更けに一本のマッチと会話をする」 立原道造 詩人ですが、有名な詩人を含めて若い時には短歌から入って行った時代です。 24歳で亡くなる。
100首を選びましたが、100首あれば100首の凄い瞬間に立ち会っているような、そんな気持ちになります。
リスナーの作品 *「どの数もゼロを掛けるとゼロになるあの夏のゼロのような出来事」 しまたく 「あの夏のゼロのような出来事」何かがあったのかはわからないが。
*「この曲を聞いてたいから音量を上げたまんまで自宅を過ぎる」 三谷もあいぞう 曲に入り込んでいたい。
*「ル-ビックキューブに吐き気がした後に空は何色でも美しい」 多治見千恵子 もう嫌だと思ってみると空は美しい。
*印は漢字、かな等、又名前が違っている可能性があります。