島村菜津(ノンフィクション作家) ・エシカルを鍵に~イタリア・シチリアの挑戦~(仮)
エシカル消費という言葉を耳にするようになりました。 倫理的道徳的な消費という意味です。 何かを買う時に価格や品質を基準に選ぶ人も多いと思いますが、エシカル消費というのはもう一つのおおきな基準になりうるものです。 例えば食品や衣服を購入するときに環境や人に配慮して作られたものやサービスを消費するとか、あるいは購入する事が被災地の復興や社会的に弱い立場の支援に結びつくような商品を選ぶといった 倫理的道徳的面を重んじた消費行動のことです。 エシカル消費はイタリアのシチリアで確実に成果を上げています。 風光明媚のシチリアはいっぽうでは映画「ゴットファーザー」でも描かれたマフィアの島としても知られています。 エシカル消費と有機栽培を鍵にして新しいシチリアに生まれ変わろうとしています。 食と食を取り巻く緩い環境を目指すスローフードの運動を日本に紹介しました。 島村さんは十数年に渡ってシチリアの取り組みを取材してきました。 鍵はエシカル、イタリアのシチリアの挑戦、まずはイタリアとマフィアの関係から伺いました。
イタリアは長靴のような形をしていますが、蹴り出した先に三角形の大きな島があります。 それがシチリアです。 ローマ、ミラノから見るとはしっこと見られてきましたが、地中海のど真ん中にあって、1000年、2000年の歴史で見ればこちらが主役であるというわけです。 自然も豊かで、人が車で入れない階段とか、森を守る地域が76地域もあります。 シチリアと言えばマフィアみたいに言われてきましたが、実はそんなに歴史の古いものではなくて、イタリア統一は1861年で、その時を起源にしている。 古い封建制度が壊れて北から自由主義経済が流れ込みます。 経済がどんどん動き出したことでマフィアが育ったのではないかと言う考え方が主流になってきています。 当時、火薬の材料だった硫黄などの鉱山がシチリアにあちこちにありました。 柑橘類、レモンは古代からあってオレンジなどは中世に栽培法が発達して、そういうものがイギリス、アメリカでヘルシーフードとして国際市場に出て、そのことで土地の争奪戦が起こったり、流通に護衛が必要になったことです。 労働運動を押さえつける必要があり、そういったところから育ったといわれています。
519人の方が殺されています。 労働運動とか、みかじめ料(飲食店や小売店などが出店する地域の反社会的勢力に支払う場所代、用心棒代)を払わないとかで、殺される。 一番有名な事件はマフィア大裁判、今まで法の裁きを逃れてきた人たちを一気に捕まえようという事で7000枚ぐらいの調書を書いて、その二人の検事が若い護衛の警察官と共に爆殺されました。 高速道路の側溝に500kgの爆薬を仕掛けて道路毎爆殺された。(30年ほど前)
1992年にその出来事があって、一般の市民ももうまっぴらだと言って声を上げ始めた。 彼らを見殺しにした政府に怒りをぶつけた。 灰色の政治家とマフィアが繋がっていて、戦後選挙票と共にマフィアが育ってきて、彼らに罪を問う事が出来なかったという現状があった。 1990年代の終わりごろになって、カトリックの神父さんに母親が23歳で亡くなった警察官の息子のことを話したことで、シチリアのために命を落とした人たちのための日を決めるという事でした。 マフィアが不正に取り上げた土地がありますが、それを国が押収できる法律は出来ていたが、それを地域のために使えるんだったら市民活動で活用していいですよという法律を作る署名を始めて100万人の署名が集まりました。
かつてボスの所有していた土地を有機農業にしました。 他の地域に広がって行って、オーガニックワイン、オリーブオイルとか穀物を作っていきました。 2000年を越えてからさらにどんどん増えていきました。 社会的協同組合と言いますが、イタリアでは1990年代から発達してきて、地域のためになる事のための組合を作ろうという目的と、雇用が少ないから、新しい仕事を作る、起業できるためのシステムでもあるわけです。 あらゆる世代の人も地域のために何かする、という関わりの場所を作ろうという、3つが特徴です。
2005年ごろに、若い子が新しく仕事をしようと思った時に、みかじめ料という事を知り、愕然として、障壁があることを知るわけです。 自分たちでステッカーを作って、みかじめ料を払う市民は尊厳を忘れた市民だ、と書いたんです。 夜中にたくさん貼って、それがメディアに取り上げられて、回数を重ねてゆくなかで、表立って出来るようになってメディアと共に広げてゆくわけです。
彼らがステッカー運動の次に始めたのが、みかじめ料を払わない店から私たちは買います、という宣言した市民の3000人ぐらいのリストを作って、新聞には3000人の名前が並んでいます。 そうすると店もみかじめ料を払わないような動きをするわけで、それを少しづつ増やしてゆく。 倫理的な消費から広げて行こうという事です。
みかじめ料を払わないようにしたら、店にお客がこなかたっという話を聞いたが、嫌がらせをしていたようでした。 学生たちが週末に多いとこには250人とかで行くと、一日の売り上げが1か月分だという事で涙ぐんでいたそうです。 買い物の意識を変えることでいろんなことが出来るんだと思いました。 マフィアと無関係のいい経済を育てるための消費を増やそうというのが彼女たちの挙げたことなんですが、出来るだけ次の世代が喜ぶような環境を広げてゆくという事にもつながってゆく。
エシカル運動の最初はベトナム戦争の反省から、あの納得のいかない戦争で武器を作っている企業からは買いたくないねという若者たちの動きが最初でした。 90年代にヨーロッパの若者は「買い物は投票だ」と言う事で運動しています。 メディアも情報を伝えるという事は大事です。 批判することは簡単ですが変えてゆくことは大変です。 シチリアの反マフィア運動はシチリアの民主主義と一緒に育ってきた、と言っていましたが印象に残った言葉です。 市民がネットワーク、連帯をし始めたことが動き出した一つの力だと思います。 次の世代に残そうという、年配の方の意欲は凄いです。
今あるものを大事にしながら、ちっちゃなことでもいいからできる事から始めることが大事だと思います。 ちっちゃな積み重ねが大きいんです。 社会を変えることに繋がる。