水野克己(日本母乳バンク協会 代表理事) ・〔みんなの子育て☆深夜便 ことばの贈りもの〕 母乳で小さな命を守りたい
母乳バンクは、小さく生まれた赤ちゃんに母親が母乳を与えられない場合、ドナーから提供された母乳を無償で提供する仕組みです。 母乳には低体重で生まれた赤ちゃんの感染症や病気のリスクを減らす効果が期待できるとされています。 およそ10年前、国内で初めての母乳バンクを設立したのが日本母乳バンク協会の代表理事を務める水野克己さんです。 水野さんは小児科医でもあり、NICU(新生児集中治療管理室)で小さく生まれた赤ちゃんの診察もしています。
昭和大学の病院に国内では初めての母乳バンクを設立して10年目になります。(2013年の夏) 母乳を提供してくださるドナー(お母さん)と中々母乳が出ないという母親の赤ちゃん、その間を繋ぐ架け橋が母乳バンクです。 ドナーの方には献血と同じような基準を設けていて、血液検査(HIV、HTLVー1、C型肝炎など)で全て陰性であるかた、自分のお子さんを母乳だけで育てている方にドナーになっていただいています。 一部の薬を飲んでいる方、煙草、アルコールとか、いろいろ制約がありますが、クリアーされた方がドナーになっていただいています。 冷凍して母乳バンクに送っていただく。 受け取った母乳を清潔に冷凍して保管する。 あるところで62,5℃30分低温殺菌します。(世界的標準) すべてのウイルスの感染性がなくなります。 NICUにドナーミルクを提供しています。
未熟な状態で生まれた赤ちゃんは腸の粘膜が未熟です。 粉ミルクをあげる場合は色々負担になります。 一番は壊死性腸炎(腸が腐る)になってしまいます。 そうなると半分ぐらいは亡くなってしまう。 助かってもいろいろ後遺症がある。 1000g以下の赤ちゃんには粉ミルクをあげないようにしています。 コロナに罹ってあげられなかった事例もあります。 母乳には腸粘膜を成熟させてくれる作用もあります。 私が新生児医療を始めたのが1988年、抵抗なくほかのお母さんの母乳を小さな赤ちゃんに与えていました。(低温殺菌せず) 自分の経験としては問題はないんですが、問題が起きたという報告はありました。 サイトメガロウイルス感染は小さな赤ちゃんは避けなければいけない。 ESBL産生大腸菌は中々薬が効きにくい菌です。 他のお母さんからの母乳で広がってしまった。 亡くなってしまった赤ちゃんもいてこれは大きな問題になりました。 他のお母さんの母乳をそのままあげることは禁じられました。
ほとんどなかった壊死性腸炎が、その後壊死性腸炎になる赤ちゃんが8%ぐらいになりました。 母乳バンクのドナーミルクを使うというオプションの選択肢は用意しておかないといけないと思いました。 母乳で育てるという事は将来に渡って元気にすくすくと育っていただくという事は確固たるエビデンス(「証拠」「根拠」)はあります。 対象が1500g未満には世界的な標準になっています。 全部で70施設以上のNICUと契約しています。
2005年1月から4月までオーストラリアの大学に留学していました。 母乳の成分を測っていたりしていました。 当時オーストラリアには母乳バンクはなかったです。 私のボスが母乳バンクを立ち上げようといろいろ動いている時期でした。 日本で立ち上げるには人、物、お金などいろいろ必要で立ち上げは出来ませんでした。 きっかけは2011年ぐらいに或る医療機器の会社がドイツ製の低温殺菌機を持ってきました。 データを取って話をする中で、この機器が売れるかどうか聞かれたので、売れないと思いますと答えました。 私たちもそう思いますと言われてその機器を貰う事になりました。 その後もデータを取って倫理委員会に提出しました。 2013年に実験室レベルの母乳バンクが出来ました。
2014年からの3年間に、ドナーになった方が28人、ドナーミルクを使った赤ちゃんが25人でした。 低温殺菌処理したのが47L、提供したドナーミルクは32Lでした。去年1年で提供したドナーミルクは1500Lでした。 コロナの関係でドナーミルクが出来なくなった時期がありました。 その後2020年に育児用メーカーの中に母乳バンクが出来て、育児用メーカーのお陰で救われた命はたくさんあると思います。
或るお母さんが妊娠17週ぐらいでガンが見つかり、妊娠24週で帝王切開で取り出した赤ちゃんは528gでした。 6日目に母親は亡くなりました。 赤ちゃんは1歳半ぐらいになり元気なお嬢さんになりました。 ドナーミルクという選択肢があることを伝えたいと思います。 母乳バンクを知っていただいて、募金をしてもらって、小さな赤ちゃんご家族に恩返しする、という取り組みをやっています。(インターネット)
コロナによって赤ちゃんに面会できないようなこともありました。 或るお母さんは生まれて2日目で赤ちゃんが亡くなってしまいました。 自分の子供にあげられなかったお乳をほかの赤ちゃんに使ってほしいという事で、ドナー登録をしてくださいました。
来年愛知県の或る病院に母乳バンクの施設が開業することになりました。 現在は中央区日本橋に二つですから、ここに何かあったら送れなくなってしまうので、避けなければいけない。 ドナーミルクに関わる人たちの教育もやって行かなければいけない。 沢山のご支援の下に動いているだけなんです。 母乳バンクがこれだけ広がってきているのは奇跡の連続だと思います。 私の後に誰かやってくれる人を育てていかなければいけないと思います。 経営上、どうやって安定的にお金を集めてゆくか、今後の課題としてはこの二つかなと思います。 日本でドナーミルクを使った赤ちゃんがどのように育ってゆくのか、しっかりしたデータを出してゆくことが、より安心して使っていただけることになるかなと思います。 今度の東京マラソンに、「母乳でつなぐ命のたすき」と母乳バンクのTシャツを着て走ります。