小倉ヒラク(発酵デザイナー) ・〔美味しい仕事人〕 発酵文化を展開する
季節に合わせて味噌や醤油、酒などを仕込む発酵食と共に生きてきた日本の伝統的な食文化、全国各地には実に多様な発酵食品があります。 発酵デザイナーとして活動している小倉ヒラクさん(39歳)は全国の山、海、島をめぐって発酵の現場を記録しています。 見えない発酵菌たちの働きをデザインを通して見えるようにすることを目指して、アニメ制作や麹味噌のワークショップなどを通じて、発酵文化を様々な角度から展開する活動に取り組んでいます。
発酵デザイナーという肩書は、見えない発酵菌の働きをデザインを通して見えるようにする仕事、という風に定義しています。 発酵文化をテーマにしたアニメ「てまえみそのうた」を作っていますが、それを見ると目に見えない麹菌の働きが判る様になっています。 「てまえみそのうた」は山梨県のお味噌屋さんと一緒に作りました。 楽しく学べるプログラムを作りたいという事で作ることになりました。 踊りがお味噌を作る動作になっています。 幼稚園児が実際にやってみたら楽しく踊った後に自分たちで仕込むんです。 山梨県の北杜市の小学校などで最初やったんですが、子供たちが作った味噌で、今までは作っていなかった味噌汁を作るという、習慣が変わっていきました。 「てまえみそのうた」は2014年のグッドデザイン賞を受賞。
2015年に東京から山梨県甲州市に引っ越しました。 麹作りワークショップで、麹菌を培養する方法を教えるプログラムをやっていて、100回近くやっています。 発酵ツーリズムというコンセプトで、2011年からやっています。 全国各地に風光明媚な酒屋さんとかあって、発酵、醸造などの様子を観光として見に行くという事を3年ぐらいやっています。 SNS、ホームページで募集してやっています。 岐阜の長良川などは大人気です。 鮎のなれ寿司、徳川家康に献上していた発酵食品です。 お漬物もいろいろあります。 それをお味噌で研いでご飯に乗せて食べる「味噌煮」というのがあり「味噌煮会」をやっています。 長良川を移動しながら食べ歩いて、最後に鵜飼の船に乗ります。
発酵文化は歴史が長くて、土地土地によりありますが、後継者がいなくて風前の灯火になっているところもあります。 リピーターも多くて長良川は恒例なっています。
2018年から全国の知られざる発酵文化を収集しています。 全国71か所に行って、51点の発酵文化を調査収集しました。 酒蔵は全部の都道府県にありますが、醤油、味噌とか、どこにでもあるものではないものも捜します。 「日本発酵紀行」という本にまとめました。
「八丁味噌」は愛知県岡崎の城下町八丁地区で作られてきた味噌です。 一般的な味噌は穀物の醤油に大豆を混ぜて発酵させていきますが、大豆にこうじかびをつけて大豆だけで作ってゆく製法なんです。 どっしりとコクがあって苦みもあります。 基本的には日本人が好きな味ではないが、家康は食生活が独特だったらしくて、八丁味噌が大好きで、作り続けるように言って、守ってきた味噌です。 土地土地によってその土地になじんだ味があります。 九州の醤油は甘い醤油です。
伊豆諸島の「くさや」、くさや液という紫色に発酵したつけ汁にとびうおとかむろあじを漬けて干していきます。 保存食にして焼いて食べます。 新島には200年以上発酵し続けたくさや液があります。 そのなかに菌が生きています。 江戸幕府に献上するために塩で作っていたが、塩をけちらざるを得なくなって、繰り返し塩水につけていたら段々発酵していって、つけ汁が凄く臭うようになっていった。 最初はいやいや食べていたが、歌人が歌を詠んで食べたいという事でお土産品になって行った。 発酵文化はその土地にしかいない食材、微生物でかもしているので、可成りローカル文化が強い。
会社でデザインの仕事をしていましたが、忙しくてアトピーとか喘息で身体がボロボロになって、東京農業大学の名誉教授の小泉武夫さんを紹介されて会い行きました。 「お前は生まれつき免疫が弱い。」といきなり言われて、「発酵食品を食べなさい」と言われました。 毎朝、みそ汁と納豆を食べるようになりました。 段々元気になって行きました。 興味を持って調べるようになっていって、醸造元などから頼まれるようになりました。 気が付いたら発酵関係の仕事ばっかりになっていました。 発酵デザイナーへの道になって行きました。 現在は甲州市で発酵ラボを作って、菌と向き合っています。 海外でも発酵文化が高まって来て、先端を走っているのが日本酒と醤油です。