穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】歌人 枡野浩一
枡野浩一さんは1968年東京都生まれ、大学中退後広告会社のコピーライターやフリーの雑誌ライターを経て1997年短歌絵本「てのりくじら」「ドレミふぁんくしょんドロップ」で歌人デビューしました。 簡単な現代語だけで読者が感嘆、感心して褒めるような表現を目指す、感嘆、短歌を提唱されて、又短歌をちりばめた小説「ショートソング」はおよそ10万部のヒットとなり、短歌ブームを牽引しているおひとりです。 短歌以外にも絵本、童話、詩、評論を手掛け多方面で活躍されているところは穂村さんと一緒です。
「毎日のように手紙を送るけれどあなた以外の人からである」枡野浩一全短歌集 今日重版が決まりました。 名久井直子さんというデザイナーの装丁になっています。 帯は小沢健二さんの文章になっています。
穂村:今は短歌ブームになっているが、現代語の短歌は物凄くはやっています。
枡野:以前は現代語で作っているだけでこんなのは短歌じゃないというような方が多かったりしました。
穂村:こんなのは〇〇じゃないというような決まり文句のようなものがあって、〇〇に入りやすいジャンルとあまり入らないジャンルがあって、短歌は案外言われがちなジャンルかなと思います。
「あの夜も今夜もダンスフロアーに華やかな影踏み踏み笑う」
枡野さんが選んだ短歌
「幸せは前借でありその猫を看取ってやっと返済できる」 仁尾智 枡野:仁尾さんは猫の短歌ばかり書いている方ですが、この短歌は何か説得しよう見たいなベクトルの、本来短歌では嫌われそうな短歌だと思いますが、自分に言い聞かせてるような短歌で、猫を飼ったことのある人、看取ったことのある人には、物凄く救いになるというか、救いになるような短歌はスローガンみたいだと言われて嫌われたりするが、私はそういった短歌も好きなのであえて選びました。
穂村:突然猫が出てくるが、最後まで読むと、その猫が与えてくれる喜びが幸せなんだという事がわかるんですね。
*「あとは床にハイハイしてる赤ちゃんがいれば最悪だと思うほう」 伊舎堂仁 枡野:実際には赤ちゃんはいないが、前半を読んでいるだけで目に浮かんでしまう。 部屋に赤ちゃんがいればもっと最悪だという、ひねくれ具合そういったことを歌にしてしまう、そこに心打たれました。
穂村:誰も書きたがらない場所が短歌にはあると思います。
「コンビニを並べて行けばそれぞれにあかるい歌が聞こえる町だ」 吉田恭大 枡野:コンビニは煌煌としているがあまりいいイメージの明るさではないが、コンビニを並べて行けばそれぞれに明るい歌が聞こえる町だと、街という捉え方をすることで急に素敵な瞬間があるように思えて、取り上げました。
穂村さんが選んだ短歌
*「母の日にパパが作ったタコ焼きはたまにタコ二個たまにタコなし」 松田和子?(妹 10歳の時の作品) 穂村:早口言葉みたいですが、お父さんのタコ焼き技術がそんなに高くないのがよくわかります。 リズミカルに書かれている。
*(おまえゆで卵に似ている)「ゆでたまごゆでたまごってあのゆでたまごおまえゆでたまごに似ている」 松田理子?(姉 13歳の時の作品)
枡野さんが選んだ短歌
*「いつか目が覚める気がする晴れた日の渋谷誰ともぶつからなくて」 岡本真央? 枡野:ぶつからないという事を夢ではないかと、これは目が覚めてしまう気がするという凄い不安な感じで表現していて、凄く惹かれました。
穂村:昔一週間一度も信号に引っかからないという、短歌をみたことがあって、もしかして死んでいるんじゃないかというような感覚に、ちょっと似ていますね。
「洗濯機に絡まっているこれはシャツこれはふられた夏に着ていた」 山階基 枡野:時間の順番、読むたびにそうだと思ってしまいます。
「いいことはなんもないけど桃色の花を眺めてだましだましだ」 工藤吉生 枡野:ずっと日常に張り付いてきて、花を眺めてだましだましだ生きてきた感じにピンとくるんです。 桃色の花という具体的ではないのがいいです。 「だましだましだ」というのが面白い。
「どこにでも行ける気がした真夜中のサービスエリアで空気を吸えば」 木下侑介 枡野:自分でもそうなのかと、浸らせてくれる短歌です。
穂村:真夜中のサービスエリアという限定されてところの空気というのは特別製の空気なんでしょうね。
穂村さんが選んだ短歌
*「げらげらと笑い転げる真夜中も東京タワーは涼しく燃えて」 佐々木美智子? 穂村:ちょっとレトロな感じがしますね。 「涼しく燃えて」が都会の青春を感じる表現ですね。
「何時まで放課後だろう春の夜の水田に揺れるジャスコの灯り」 笹公人 穂村:これも今ではない、ちょっと前ですね。
枡野:固有名詞が出てくると急に時代が刻印されますね。
枡野さんが選んだ短歌
「生きていていいと未来が言っている予定があるってそういう事だ」 岡本雄矢 枡野:この短歌は認識の短歌、自分のためのスローガンみたいな短歌だと思います。
穂村:枡野さん的な短歌ですね。 生きるための必需品的な短歌。
*「新宿は息がしやすい真冬でもノースリーブの人が歩いて」 庄司咲? 枡野:真冬でノースリーブの人が歩いていたら寒そうと思ってしまうが、凄くホッとする短歌です。
穂村:これも生存のためにぎりぎりの必要性に支えられた歌という枡野さん好みの歌ですね。
2回に渡って枡野さんとの対談がありましたが。
穂村:どの瞬間も本当のことだけをを言おうという気配がして緊張するね。 緩い時間があまりないですね。 とても真剣でそれに胸を打たれます。
枡野:自分の短歌って説明すればするほど、ばかばかしくなる短歌にしたいと思っているんです。 人の短歌を語っていても、どんどん自分の何か、愚かになって行く感じがします。
*印は漢字、かななどおよび名前が違っている可能性があります。