2022年10月22日土曜日

中西真(東京大学医科学研究所教授)   ・"老化"のない社会をめざして

  中西真(東京大学医科学研究所教授)   ・"老化"のない社会をめざして 

1960年(昭和35年)生まれ、61歳。  人類がかつて経験したことのない超高齢化社会へ突入しようとしている日本、日本は世界で1,2位を争う長寿国ですが、平均寿命と健康寿命には10年近い差があります。  中西さんたちは老化細胞を取り除いて、人の健康寿命を大幅に伸ばそうという研究を進めています。  内外で大きな注目を集めています。  内閣府が進めるムーンショット型研究開発事業、高齢化社会や地球温暖化など重要な社会課題に対して挑戦的な開発を進める事業、これがムーンショット型研究開発事業の一つでもあります。

老化というと歳を取って身体が衰えたりいろいろな病気が出てくると言われています。   いろいろなところで慢性の炎症が起こっていて、炎症が身体の力を落としたり機能を低下させたり病気になるようなポッチを作ると言ったようなことが言われています。  炎症を引き起こす細胞が生まれるというか、そういうものが身体の中のあちらこちらに蓄積してくるというわけです。   その一つが老化細胞と言われています。  人の細胞は試験管で培養すると、無限に増殖するわけではなくて、あるきまった回数分裂すると、それ以上分裂できない。 増殖をした後に細胞は二度と増殖は出来ないが、細胞はずーと生き残っていて、その細胞を老化細胞と言います。  その細胞があちらこちらにいて、歳を取るにしたがって溜まってゆく。   老化細胞は周りの細胞に炎症を起こすようないろんな物質を出している。  そういったものが身体に溜まる事によって、臓器や組織などいろんなところに小さな小さな、でも有為な慢性の炎症が起こってきて、それによって臓器や組織などの機能が衰え、力が衰え病気の発祥が起こるという事になります。  

普通、人間の身体に備わっている免疫によって老化細胞が出来ると取り除かれるように出来ているが、一部の老化細胞はその免疫から逃れるようにして身体の中で生き続けて、それが蓄積されていくと言われています。  しわ,臓器の劣化などはそうですが白髪や薄毛はまだ完全には判っていません。    ストレスは物理的なストレス、精神的なストレスいろいろあると思いますが、明らかな物理的なストレス、紫外線に当たるとかで老化が進む、老化作用が生じるという事は判っています。   

本来は老化細胞は死んでゆく細胞ですが、細胞が老化するとたくさんのたんぱく質を作ってしまうので、その中の一部が非常にへんちくりんなタンパクが出来てしまって、そういうものが細胞のなかに蓄積をしてしまうと、細胞のいろいろなところに穴をあけてしまって、そうすると全体が酸性化してしまって、そうすると通常は死んでしまうが、老化細胞は何とか酸性を中和して生き残っていきます。  グルタミンというアミノ酸をグルタミン酸に変えることでアンモニアを生成させてアンモニアで中和させて老化細胞は生き残っているという風に考えられています。   老化細胞を取り除くことによって、慢性炎症が少しでも抑えられることによって、老化が改善されることは考えられます。

老化は身体が衰退するという事になるので、死亡率が上がるというのが一つの指標になります。  その観点で見ると人は歳を取るほど死亡率は上がってゆきます。  亀、サメ、ネズミの仲間も齢を取っても死亡率は全然変わらないという生物がいます。   老化の表現がみられないと捉える事が出来る。   深海のクジラは400年ぐらい生きていると言われています。  クラゲの仲間のヒドラという生物は最低でも1200~1500年は生きていると言われています。   人間の寿命には限界がるという事は最近分かりました。 平均寿命は延びてきているが最大寿命は120年という事が言われています。  

老化細胞を特殊な技術で除いてゆくと、老化の速度が急激に遅くなって病気も起こりにくいという事が判って来ました。  老化細胞を薬で除去すれば老化を遅くしたり、病気を防いだりすることが可能じゃないかという事で研究が進んでいきました。   我々は老化細胞を取り除くような薬を開発したいという事で、グルタミンというアミノ酸をグルタミン酸に変えることでアンモニアを生成させないための酵素を阻害させてやれば、老化細胞は酸性のままで死んでしまうだろうという事を考えて、そういった事を研究しています。  マウスにその薬を与えると老化細胞は除去されて、老化の現象が元に戻るという事が判りました。

人間に例えると70~80歳のマウスをアンモニアを酸性にさせる酵素を阻害するような薬を与えると、通常は加齢に伴って腎臓、肺、肝臓などにいろいろ変化がみられるが、そういったものが改善することが判りました。  その酵素はがんの治療薬としてアメリカで開発が進んでいます。  臨床治験に入っていて、実際に癌に利くかどうかは判っていないが、人に対しては強い副作用がある薬ではないという事までは判っています。   加齢に対する、老化に伴う病気への治療薬として使ってゆくことはできるのではないかと考えています。  

老化は徐々に進んできた変化なので、急激に治すのではなく徐々に治してゆくものです。 癌とは使い方も容量も全然違って少ない量、頻度で使ってゆくと思います。  がんはどんどん増殖してゆくのですが、細胞が増殖してゆくためにはDNAも増やさないといけない。   DNAの元になるのがグルタミン酸というアミノ酸で、そういうものをたくさん作ることで、がん細胞は増殖してゆく。  グルタミンからグルタミン酸へ変換する酵素を捜してやるとDNAの原料がうまく作れなくて細胞が死んでしまうというメカニズムと言われています。

慢性炎症というのが老化の大きな特徴ですが、慢性炎症はがんを引き起こす一つのトリガーになっているという事は判っています。  胃がんはヘリコバクターという胃の中に住む細菌が大きな原因になっています。  慢性胃炎になって胃がんの原因になっていることが判っています。  大腸がんの原因も腸の炎症が多いなトリガーになることが判っていて、炎症を抑えるような薬を服用すると大腸がんの発症を抑えられるという報告もあります。 

小さいころは活発な子で、林で昆虫を捕ったり草野球をやったりしていました。   祖父は金属の合金の研究をしていました。  自分も研究の道へという思いはありました。   本もよく読んでいました。   中学、高校はそちらに時間を費やしてしまい読書は少なくなりました。  名古屋市立大学医学部に進学しサッカー部に入りました。  大学6年間はサッカー漬けでした。   サッカーは今でもいい思い出になっています。   ゴールキーパーでした。  ディフェンスの動き、フォワードの動きは常に見ていてボール以外も気にしていなくてはいけなくて面白いポジションでした。  研究はチームワークが重要でスポーツに似ているところもあります。  大学院では朝の9時から夜中の3時ごろまでずーと研究するというのが或る意味当たり前なスタイルで土、日もやりました。   1993年にはアメリカの大学にも留学しました。  その時に老化細胞の研究を始めました。  

何故2度と増殖しなくなるのか、その仕組み解析をしました。  母校に戻って名古屋市立大学の教授になりました。(2000年)  2016年に東大医科学研究所に行きまして教授になり、2021年1月にアメリカの科学雑誌「サイエンス」に論文を発表、老化細胞を選択的に除去するGLS1阻害剤が加齢現象を老年病、生活習慣病を改善させることを証明する論文でした。  国内外から大きな反響がありました。   老化が実は防ぐことが出来るかもしれなという事が徐々に判って来て、そういう意味では反響がありました。  

内閣府が進めるムーンショット事業に組み込まれてプログラムマネージャーを務めています。  2040年までに主要な疾患予防を克服し、100歳まで健康不安なく人生を楽しむための持続可能な医療介護システムを実現すると言いうのが、ムーンショット事業です。   その中の一つが老化細胞をなくして健康寿命を延伸するという研究が含まれています。  10人のチームでやっています。  ほかに脳機能低下に関しては慶応大学の吉村先生を中心に、脳の老化に関しては九州大学の伊藤先生、老化細胞の除去についてにワクチンに関しては順天堂大学の南野先生、腎臓の老化に関しては京都大学の柳田先生、、幹細胞の減少に関しては東京大学の岩間先生など、役割分担をして、一つの大きな目標に向かって研究しています。

5年後ぐらいまでには、社会実証への目途をつけていきたい。  腎臓は透析という形での唯一の治療になっていますが、改善する薬、技術とか、他に脂肪性肝炎とかも標的になります。  高齢者への治験の難しいのは、厚生省は老化はまだ病気として認めていません。 老化に伴った病気に伴った治療を手掛かりに薬を作って行けば、老化が薬で改善することが判ってくれば、老化そのもの標的にした治療が出来るようになるのではないかと思います。  アルツハイマー型の認知症  脳の老化、特に神経の中にできそこないなタンパク質が蓄積してくることが脳の老化の病態なんですが、そういうものを標的にした治療と言ったものを今一生懸命やっています。    

老化の測定技術も開発しています。  老化を予測する、老化の速度をきちっと測定する技術も開発しています。  数値で出てくるようにしています。  トータルとして我々は人としてどの程度老化しているのか、きちっと測定するシステムが大事だと思っています。 

矢張り健康が代えがたい幸福だと思います。  病気になることは苦痛だと思いますので、如何に病気になることを防ぐかという事を目指したいと思います。  できれば健康寿命と人の最大寿命が限りなくゼロに近いのが世の中になればと思います。  健康寿命が延びないと物凄い医療費になるので、治療、薬、技術を開発して真剣に考えてゆく必要があります。  老化細胞を溜めない生活が大事だと思います。  運動は大事ですが、過度な運動は避けるべきだと思います。  毒になる酸素の代謝物が出来てしまう。 それが身体のなかのDNAを攻撃して細胞が老化してしまう。  カロリーの取り過ぎも良くないです。 ストレスのない生活が大事だと言いますが、全くストレスがないという事も身体によくないという事も判っています。  適切なストレス、適切なカロリー、適切な運動を自分で守ってやってゆくかどうか、という事が大事だと思います。  一日をリズム正しく過ごす事も大事です。