鈴木まもる(絵本作家・鳥の巣研究家) ・〔人生のみちしるべ〕 鳥の巣がぼくに教えてくれること
昭和27年(1952年)生まれ、70歳。 20代で絵本の仕事を始め、絵本や童話のイラストの仕事はこれまでに200冊余り、2年前2020年には「あるヘラジカの物語」という絵本が「親子で読んで欲しい絵本大賞」を受賞するなど、活躍しています。 30代からは独学で鳥の巣の研究と集をはじめ、鳥の巣研究家として海外にまで活動の場を広げてきました。 これまでに集めた鳥の巣は100種類、1000個以上です。
今朝は4時に起きました。 朝は頭がすっきりするので朝から絵を描いています。 午後3,4時になると野良仕事的なことをやらなければいけないので、草刈りとかして夕方夕飯になります。 鳥の巣は繫殖期は怖がるので探さないようにしています。 9月に栃木県小山市の美術館で鈴木まもる絵本と世界鳥の巣展を開催。 鳥の巣は卵を産んで雛が育つともう使わないので、集めても鳥が困ることはないです。 どうやって作ったんだろうという興味で巣が段々集まってきました。 何の鳥の巣なのかはわからないので、図書館に行って調べてもありませんでした。 鳥類学者ではその研究対象の鳥の巣は判るが、それ以外は判らない。 外国などを含め形、材質とかいろんなものがあり、探しに行きたくなって、そうするといろんな巣があって、鳥の巣とはなにかみたいなことが出て来ました。 鳥類学者は巣の形とかどういう風に作るのかという事には興味はなかったんだと思います。
鳥の巣を見に来れない方は、絵本という形で描きました。 蜘蛛の糸を、くちばしで葉っぱに穴をあけて、そこを縫っている鳥がいて、巣にしている。 これには吃驚しました。ハタオリドリといって、猿が近づけないような細い枝先にヤシの葉とかで籠のように編んでぶら下げて作ります。 人間の妊婦さんのお腹の形と同じ形になっています。 外敵から雛の命を守る、厳しい外の環境から雛の命を守るために作るのが鳥の巣なんです。 外国の研究者の方から凄いというコメントを頂いています。
東京の新宿で生まれました。 遊ぶのが好きで絵を描くのが好きでした。 高校生では自分なりにストーリーを作って、講談社に持っていきました。 高校生の後半から絵本を描き始めました。 受験をする頃に世界を放浪するか、芸大で技術の基礎を学ぶか、考えて、世界の放浪は無理だろうという事で、東京芸術大学に入りました。 立体的なものをやりたかったので陶芸を専攻しましたが、どうも自分のやりたいこととは違うような気がして中退してしまいました。 絵本を描くようになって山の中で偶然鳥の巣を見つけました。 綺麗で見るとお茶椀型をしていました。 何故鳥の巣が好きなのか判らなかったが、鳥の巣は親からすれば小さい雛の命が元気に育つために作っているので、形は絵本とは違いますが、やっていることは同じだと思うんです。
200冊余りになります。 考えてやる事ではなくて、方法論じゃないので、自分の気持ちにあった色なり形なりが画面に定着されるまでやっているような感じです。 多様性が大事だと思います。
「あるヘラジカの物語」 写真家の星野道夫さんが残した一枚の写真から生まれた絵本。 裏表紙に二頭の大きなヘラジカの角が絡み合ったまま骨になっている写真があります。 以前からこの写真は知っていましたが、或る日の夜中にパッと目が覚めて、この写真の絵本を作ろうと全体像が出来ていて、どうやってそういう状態になったのか、繁殖期にある一頭のオスのところに別のオスが来て戦いが始まって、角が絡み合った取れなくなって両方が弱って行って、オオカミ、熊、その他小動物が来て、結果的に最後になったという風に絵本として膨らませました。 アラスカに取材に行って絵を描きました。
鳥の生態、どうして飛ぶようになったのか、どうして恐竜から鳥になったのか調べてゆくと、巨大隕石がぶつかって恐竜が絶滅して鳥だけ今の世の中に残ったという事が、今の恐竜学では理由が判っていない。 それは鳥の巣だという視点がないからだと思います。 大型恐竜の巣の化石はあるが、小型恐竜から鳥に至る間の巣の化石はないんです。 今生きている鳥はずーとつながってきているので、そこから逆に紐解いてみようという事で構想を考えてまとめていきました。
今年出版された「戦争をやめた人たち- 1914年のクリスマス休戦」 鉛筆画で絵描かれた絵本。 第一次世界大戦の本当にあった話からのものです。 イギリスとドイツが塹壕で撃ち合いをしている時に、クリスマスのイブの日にドイツ軍が歌を歌っているのが聞こえて、メロディーはわかるので、クリスマスなんだ、僕らも歌おうという事になって、イギリス軍も歌い始める。 翌日ドイツ軍の一人が何も持たずに塹壕から出てくる。 お前も来いとイギリス軍に合図する。 イギリス軍からも一人出てきて近づいてきて、鉄条網のところでメリークリスマスと言って握手する。 周りもワーッと出てきて家族の写真を見せたり、一緒にご飯を食べたりしだす。 若い兵士が着ている服を紐に丸く縛ってサッカーを始めてしまう。 それが戦場の一か所だけではなくて、いろんなところで起こったらしいです。 相手が敵ではなくて同じ人間なんだと判れば戦争は出来なくなると思うんです。 自分たちが何をすることが戦争をしないことに繋がるのか、という事がこの話には含まれていると思ったので、披露したいと思いました。
この時にはロシアのウクライナに対する軍事侵攻はなかった時でした。 戦争なんて起こる筈がないと思っていたので、あとがきの後の絵は別の絵を考えていましたが、戦争が始まってしまったので、「この星に戦争はいりません。」という風にしました。 世界中の子供たちが輪になって繋がっていて、動物たちも集まっている絵です。
自分が多様性なりに惹かれるのは、独裁的なものを抑制する、個人個人が自分らしく生きるということに繋がると思います。 領土を広げるためだとか、お金を儲けるためだとか、そういう風にしてゆくと、個人の命、子供の命とかがないがしろになって行ってしまうと思うので、一番大事なのは命なので、幼い命を守る、元気に育つ環境、鳥が巣をつくると同じように人間もいろんんな巣、職業といういろいろな巣を作っているんだと思います。 それぞれ、らしい鳥の巣をつくることが大事だと思います。