2019年12月13日金曜日

中島かおり(NPO法人代表理事)      ・【人権インタビュー】 (5)孤立する妊婦と赤ちゃんを救いたい

中島かおり(NPO法人代表理事)・【人権インタビュー】 (5)孤立する妊婦と赤ちゃんを救いたい
虐待で亡くなった子どものうち、多くは実は生まれたその日に死亡しています。
その場合その加害者のほとんどが母親で、背景には複雑な事情を持つ妊婦が孤立している現状があります。
こうした中、東京を拠点に活動するNPO法人「ピッコラーレ」では電話、メールでの妊娠相談や妊婦の居場所探しをしています。
何故妊婦が孤立してしまい、今どんな問題を抱えているのかNPO法人の代表理事で助産師の中島さんに伺いました。

毎年何人が虐待死しているのか、2017年度では52人が亡くなっています。
そのうち0歳で亡くなった赤ちゃんが28人亡くなっています。
厚生労働省が15年前から発表しているが、それほどは変わっていないです。
減らすことができない数字です。
0歳児では0か月、0日死亡が最も多いといわれています。
妊娠という課題を抱えてながらほかの課題も抱えてきたといわています。
例えば今日寝る場所をどうしようとか、今日食べるものをどうしようとか、明日仕事がなくなるかもしれないとか、そういった課題を抱えて妊娠という課題が乗っかって来た場合、それと向き合う余裕がない。
経済的な問題だけではなくて暴力にさらされている場合もあります。
妊娠したことを誰にも言えない方もいます。
母子手帳をもらう事は妊娠したことをひとに言う事になるので、恐ろしくて言えないという事もあります。

0か月、0日虐待死が多いというのは、赤ちゃんに対する虐待というよりはネグレクトとしての虐待死が多いような気がします。
父親からのDVという事もあり、妊娠は10か月後には必ず生まれるが、お腹が大きくなって孤立している妊婦を見つけることができない、私たちの社会からのネグレクトともいえるかもしれません。
その時の女性の気持ちは終わったという気持ちなのかもしれません。
一人ぼっちで進んできているなかで妊娠出産というもの、赤ちゃんが亡くなるという事で終わるという事は10か月間赤ちゃんをお腹の中で育ててきた女性にとってみて、どんなものだろうという事は私には想像できないです。
虐待死の責任がその母親だけが責任だとは思わないです。
一人で抱えさせてしまって、その一つ手前での相談先になれなくて申し訳ないと思うし、頼り先になれなかったという事に対して情けない気持ちにもなります。
かける言葉がないです。

0か月、0日死亡の母親は母子手帳を9割は持っていない方です。
彼女らはスタートラインにさえ立てない方々で、もっと手前のところでどうやったら彼女たちと繋がるのかを考えたのがきっかけです。
NPO法人「ピッコラーレ」の前身の「妊娠SOS」を2015年に立ち上げました。
今年の10月までに相談してきた方が4700人以上になっています。
相談件数では1万8000件以上になります。
緊急性が高い、リスクが高い人は電話、メールではサポートしきれないので実際に面談をすることをやっています。
行政、病院の紹介などをしていて、延べで201件になっています。
たった一人で自室で生んでしまったというケースがありましたが、最初メールできました。
妊娠をしていることが判ってしまうと、職場の寮から出ていかなくては行けなくて言えなかった、という事でした。
経済的なことも抱えていました。

母子ともにサポートしなくては行けなくて、2週間の間、24時間、2時間おきにメールで伴奏したという事がありました。
電話でのやり取りが事情によりできない状況がありました。(電話料金が払えないとか)
匿名相談窓口なのでメールアドレスしか判りませんでした。
信頼関係が出来上がってくると住所、年齢、ニックネーム、そのうち本名を名乗るようになって、そのうちにつなぎ先を確保できるようになります。
相談はハードルが高いものだと思っています。
最初に「相談してくれてありがとう」と言って、話してゆく中で「ここからは一緒に考えさせてね」という様になって行きます。
SOSを言っているのにそれをキャッチしてもらえなかった、キャッチできない社会の仕組みだったり構造があるかもしれないという事もあります。

ネットカフェにいる方からの相談、ネットカフェで生活している妊婦からの相談が結構あります。
一晩3000円ぐらいで過ごせるが、日雇いのアルバイトをして、3日間ぐらい暮らして、又無くなったら日雇いのアルバイトをするという様なパターンです。
お腹が大きくなって、相談するという事もあります。
漂流する妊婦さん、居場所を転々として生き抜いてきてる。
VDなどに会ったりすると安心安全な居場所探しを一人でしますが、そういった場所をうまく見つけることができずに、転々と居場所を変えてゆく事になります。
妊娠してしまって、居場所がなくなってしまう事になります。
性搾取のために泊めてご飯を食べさせてくれるところがあり、そういったところに流れていってしまうという事もあります。
社会側の不備というか、裏の福祉の人たちに負けてしまっている表側の福祉という事は言えると思います。
ある程度判っていながら裏の福祉に行ってしまうという事があると思います。
差し出すものが自分自身しかないと思っているので、自分を大事にするという事を大切に扱われてきていないという生育歴のなかで自分を大事にするという事が難しいのかなあと思います。
性的なことを含めて傷つくことが敏感だと生きていけなかったという様に、感じないようにやり過ごす状況にある事もあるものと思っています。

子どもを保護する児童福祉法は18歳未満の子供が対象になっていて、18歳を超えてしまうと対象にはならない。
未成年だと契約ができないので、家を借りられないとか携帯電話も契約できない。
保護者の許可が必要だが保護者から虐待を受けていると、にっちもさっちもできなくなる。
未成年で未婚の場合は自分のおなかの赤ちゃんの親権は自分にはない、親にあるので親の許可が必要になってきてしまう。
特別養子縁組は契約になるので、契約ができるのは自分の親になってしまうので、親の許可が必要になるので、なかなかこうしたいという事の選択が難しくなってしまう。

「プロジェクトホーム」という新たな取り組みをしています。
居場所のない妊婦さんの居場所を作るプロジェクトという事でやっています。
貧困、虐待、家出、DVなどいろんな問題をかかえていて、妊娠してしまっている。
彼女たちがいつでも来ることができて休めるような場所を作るというのが中身です。
東京の豊島区に一戸建ての地域貢献型空き家利用の第一号として利用できるようになりました。
来年4月からスタートできます。
最終的には自分の居場所が見つかればいいなと思っています。
ホームを探すような、見つけるようなプロジェクトなんじゃないかという事で「プロジェクトホーム」と名付けました。
自分がやりたいことができて心地よい自分の場所に行ってほしいという願いがあります。
妊娠が困り事になってしまわない社会になってほしいと思います。
「ピッコラーレ」は大きな波が来ても避けてもらって、休んでもらって回復した後に新たなところに行ってもらうという事で、潮溜まりみたいな場所でありたいねと言っています。