大崎茂芳(奈良県立医科大学名誉教授) ・クモ糸に夢ふくらむ
大崎さんは1946年昭和21年兵庫県生まれ、大阪大学大学院理学研究科博士課程を終了後、企業の研究所で高分子化合物の商品開発にかかわりました。
その後島根大学や奈良県医科大学で生体高分子の研究を続け科学的な皮膚の移植法などに取り組んでこられました。
蜘蛛の糸は英語でスパイダーシルクと言いますが、人類は古くから蚕からできる糸をシルク、絹織物として活用してきました。
自然界には蚕のほかに糸を出す虫がいますが蜘蛛もその一つです。
大崎さんは蜘蛛の糸を研究しておよそ40年になります。
蜘蛛の糸は軽くて柔軟性に富み強度もあることが判ってきました、
蜘蛛の糸の強さを証明するために大崎さんは蜘蛛の糸で自分の体を吊り下げる試みを学会で発表したこともあります。
さらに蜘蛛の糸でヴァイオリンの弦を作り音楽家に音を聞いてもらい海外から注目されました。
蜘蛛の糸で出来たヴァイオリンの弦はどんな音色を響かせるのでしょうか。
生体高分子の研究が蜘蛛の糸とどんなつながりがあったのでしょうか。
*「家路」 作曲ドボルザーク を蜘蛛の糸で自らヴァイオリン演奏。
大阪大学大学院理学研究科博士課程を終了後、企業の研究所で高分子化合物の粘着の研究をしていた時に、世の中の新しい最先端の粘着のことについて調べていましたが、蜘蛛の糸も粘着なので調べてみたら、粘着よりも蜘蛛の糸自体の方が面白くなりました。
色々蜘蛛を探しまわって趣味としてやっていました。
高分子は長い分子です。
合成樹脂、ナイロンなどもそうです。
天然高分子は生き物からできているものを言います。
人間のコラーゲン、髪の毛、筋肉なども高分子です。
蜘蛛の糸は殆ど世界的に研究されていないことが判ってきました。
蜘蛛の糸は軽くて柔軟性があり強度もあります。
切れるまでに非常に力がかかる。
蜘蛛の糸はそう簡単には集められなかったが。蜘蛛から糸を取り出して、糸を集めました。
蜘蛛の糸は1~2ミクロン程度で19万本集めてやってみましたが、見事に切れました。
蜘蛛の糸は種類がいっぱいあるために、束に力を入れると弱い所から切れて駄目でした。
5mm程度の糸の束を作ってやったところうまくいきました。
蜘蛛の習性を観察して糸を取り出そうとするのですが、厳しくやるとへそを曲げて丸まって糸を出す気にもならない、優しくやりすぎると舐められて逃げてしまいます。
高知、鹿児島とか温かい海辺の方には黄金蜘蛛がいておおきいです、又沖縄などにはもっと大きな大女郎蜘蛛がいます。
大きいと糸は集めやすい。
蜘蛛相撲を見に行ったこともあります。
遠い所から蜘蛛をもらってきてもヒヨドリに食われてしまったりしてがっかりしたこともありました。
蜘蛛の糸の性質から言いますと、紫外線に強いという事も判りました。
殆どの素材は紫外線に弱い。
調べると紫外線で強度が上がることが判りました。
強度が上がって保持してその後劣化して強度が下がるときに巣を張替えをするわけです。
耐熱性も強い。
ゴミ袋などに使われるポリエチレンは110~120度に融点があり溶けて、ポリプロピレンは170度ぐらい、ナイロンは210~230度で溶けますが、蜘蛛の糸は250~300度でも大丈夫という耐熱性があることが判りました。
危機管理に重要なことが判ってきました。
蜘蛛は空中で生活しているので、糸の強度が蜘蛛の重さの2倍あることが判りました。
糸を電子顕微鏡で調べたら2本でした。
4億年の歴史から予備として2本になったということが判りました。
2の安全則という事でイギリスのネーチャーに発表しました。
医療ではダブルチェックなどもするようになりました。
蜘蛛は巣を張る種類と巣を張らない種類がいます。
蜘蛛の巣は縦糸は粘着がないが横糸は粘着があります。
横糸は均一に張るが、ちょっと時間が経つと表面張力でぽつっぽつっとなってくる。
蜘蛛の体から横糸の粘着だけを取り出そうとしたがなかなか取り出せなかった。
糸を出すときに上手に粘着材がくっつくようになっている。
蜘蛛の糸は面白い性質があるので遺伝子の組み換えで作れないかということが考えられるようになりました。
2002年にヤギのミルクに遺伝子組み換えで蜘蛛の糸を作ったというのがアメリカのサイエンスに掲載されました。
2003年にカナダのベンチャーとアメリカの陸軍が共同でやった研究所に見に来てくれといわれていきました。
蜘蛛の糸は分子量が60万ぐらいあるが、一桁少なかった。
分子量をいかに大きくするかが課題です。
水に浸けると半分ぐらい縮むという性質があり、そういった課題もあります。
分子量が6万ということは天然の性質が得られないが、あきらめずに頑張って行けば縫合糸(手術で使う糸)などにいいのではないかとか、様々な分野に使われる可能性がある。
天然に近いものを遺伝子組み換えで作ってもらえたら世の中が変化するのではないか。