藤依里子(植物文様研究家) ・【心に花を咲かせて】 願いを込めた植物文様
昔から日本人は花の絵など植物の図柄を着物に描いたり、漆器、食器、襖絵などに描いてきました。 着物を収集し、その文様を調べて30年という藤依里子さんは、その文様を調べてゆくと単に美しいから描いたというのではなくて、その文様に祈りや願いが込められているというのを感じていると言います。 願いを込めた植物文様の話を伺いました。
松竹梅がありますが、めでたいという感じがします。 お寿司屋さんなどでも松竹梅と値段が書かれていて値段が違います。 本当は文様では同列に扱っています。 冬頑張っているよね、という植物たちです。 「三寒の友」という言葉を使っていたと思いますが、人の生き方を表しているよ、という事につながったという風にされています。 中国の「歳寒三友」が日本に伝わったものなんです。 寒い中でも3人のお友達みたいな言い方ですが、冬の寒さに耐える三種の植物、緑を保つ松と竹、他の植物に先駆けて咲く梅、という事で冬の象徴になっています。 梅は香雪、貞節、清純という感じで匂いがいいです。 昔は花見は梅でした。 松はしっかりしていてドンとしていて冬でも元気でいる。 竹も元気で人間こうあるべきだ、寒さに負けては駄目なんだみたいな事です。
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」 皆さん美人の象徴だと言いますが、いらいら立っている、クラッとした時に座る、ふらふらと歩いている。 どちらかというと生薬として使われている。 「立てば芍薬」の”立てば”はイライラとし気のたっている女性を意味し、芍薬により改善されます。 芍薬の根を使うのですが、痛みを取ったり、筋肉のこわばりを取ったりします。 「座れば牡丹」の”座れば”はペタンと座ってばかりいるような女性を意味し、それは「お血(おけつ)」(お=やまいだれ+於)が原因となっていることもあります。 「お血」、腹部に血液が滞った状態を意味します。「お血」は牡丹の根の皮の部分(牡丹皮・ぼたんぴ)により改善されます。 「歩く姿は百合の花」は百合の花のようにナヨナヨとして歩いている様子を表現しており、心身症のような状態を意味します。 その場合には百合の球根を用います。 昔の人は字が読めなかった人が多かった。 薬になるのではないかというものを図案化した。 割と植物は薬になるものが多いです。 着物の文様にされています。
どんなに綺麗でもあんまり見ない植物があります。 トリカブト、着物の文様にはされていません。 スズラン、曼殊沙華、も同様に文様がない。 重陽の節句(9月9日)には菊水を飲んだりしていました。 菖蒲の節句(5月5日)では菖蒲湯(魔除け)、桃の節句(3月3日)桃の葉は肌荒れ、しもやけ。 薬効のあるものを柄、文様にして伝えてゆきました。 南天も喉の薬として使われていたので、図案は多いです。 南天と福寿草を一緒に描て、「難が転じて福になる」という祈りが込められています。 お子さんの着物に茄子が書いてありました。 理解できなかったが、お琴の音を調節するために琴柱というものが使われますが、茄子と一緒に描いたものが、「ことをなす」、子供が夢を達成する、という願いを込めています。 産着などでも使われている麻の葉の文様、麻の葉は物凄く早く大きくなる植物で、子供が早く成長するようにという事で祈りが出て来ます。 麻の葉の文様は星形にも見えなくもない、桔梗の花のようにも見えなくもない。 安倍晴明が魔除けに使っていた。 これが護符になる。 麻の葉も成長を願い守ってもらう。
トクサと流水を一緒に組み合わせたりした流水トクサ紋が羽織に描かれているものがあるが、トクサ(砥草)はものが磨けるらしい。 トクサでお金を磨くと光るらしい。 金運上昇。 お金の流れと水の流れが同じようだと捉えてトクサと流水の文様があります。
刀の鞘とかに「猿と栗」が描かれている。 搗栗(かちぐり)=勝ち栗、猿=去る、すなわち勝ち去る、堂々と去ってゆく。 これも祈っているわけです。 トンボも勝ち虫と言います。 前にしか飛ばない。 トンボは名前も変わるから出世の象徴にもしました。 ヤゴの時に鎧のように感じたので武士が好んだ。
椿は二つ説があって一つは武士が縁起の悪いのは頭が落ちるように花がポタっと落ちる、女性は出産がポタっと落ちた方がいいというところで安産に役立つ模様だとされた。 椿油にまつわる美しくなれる美の象徴という事です。
梅紋にもいろんな紋があります。 丸く描かれている花の紋が結構ありますが、円が縁という事で縁がありますようにという事です。 銀杏の紋は扇に似ていて末広がりという事で縁起の良いものとされる。 御神木でオスとメスの木があって実がなり、夫婦の象徴として縁起がいい。 秋には葉が黄金色となり、お金がざっくざっく入って来る文様なんです。
秋の七草は全部薬でした。 秋草紋で図案化されています。 春の七草は何故かないんです。 かぶら文様はあるが大根になると見ない。 かぶというとカブが上がるという言葉遊びです。 野菜で文様になっているのがお正月のクワイ、芽が出るという事で、意味があると野菜でも文様になります。 ウリ科の植物は結構図案化されています。 ウリ科は種が多いから子宝という事で図案化されている。 ひょうたんは文様としてよく見かけます。 ひょうたんが3つで三拍子、お祭りの時の三拍子となります。 ひょうたんが六つになると無病、病にならない。
唐草はエジプトからやってきた文様ともいわれています。 唐草は切れないようにずーっとつながっている。 永遠の命を求めてという事で、唐草紋がよく使われている。 バラと菊と松葉、常に元気でありたいとか、永遠に美しくありたいとか、松葉がずっとくっついているという事で愛されたい文様、という事です。 松葉茶があります。 文様になっている植物は結構お茶になります。 紫陽花は毒にもなり薬にもなります。 最近は品種改良などがあり昔のままというわけというわけにはいきません。 生薬辞典とかみて検証したうえでやってください。
私は日本の文様というところから入っています。 30年前ぐらいに京都の水野さんと知り合い、そのうち着物がなくなるというように言っていました。 着物の柄に開運とかがあり、何らかの形で意味があることが判りました。 日本の文化、伝承を残したい、文様について知って貰いたいという思いから始まりました。 神様とか願い、祈りが文様にも通じている。 いろんなことを笑いに変えてゆくユニークさ、宮本武蔵も好んだと言われるものがあり、葡萄とリスの組み合わせで、葡萄=武道、リス=律する、日本人らしいと思いました。 身の回りの文様を見直してください。 見えないものが見えてくるかもしれません。 亡くなった叔母が沢山の着物を持っていて、萩ばっかりが多いんです。 萩を調べたら「新しい芽を出すから萩だ」と読んだ時に、叔母は何は新しいものをたえず求めていく生き方をしたかったのかなあとか、本当の自分はここなのよというのを文様に中に託したのかなあとふっと思う事があります。 結婚式などではテッセンの文様が描かれているが、茎は物凄く硬いんです。 強い絆という意味があるんで、テッセンの文様は昔から婚礼の席には欠かせなかった。