2022年9月17日土曜日

松島靖朗(安養寺住職)         ・コロナ禍で生かされたお寺の力 「おてらおやつクラブ」

 松島靖朗(おてらおやつクラブ代表理事・安養寺住職)   ・コロナ禍で生かされたお寺の力 「おてらおやつクラブ」

奈良県出身、47歳。  お寺のお供えを仏様のお下がりとして、経済的に厳しい状況にある家庭にお裾分けする活動をNPO法人おてらおやつクラブ代表理事を務めています。  おてらおやつクラブは2014年に発足し、現在この取り組みには宗派を超えて全国1800を超えるお寺が参加しています。   お寺の「有る」と社会の「無い」を無理なくつなげることが評価されて、2018年度のグットデザイン大賞を獲得するなど奈良発の取り組みとして注目されています。松島さんは母親の実家である安養寺で育ち、その後東京の大学に進み、一般企業に就職、ITベンチャー企業への転職などを経て、37歳の時に安養寺の住職になったという異色の経歴の持ち主でもあります。  おてらおやつクラブが社会に果たす役割や、コロナ禍で生じた活動の苦労とその中で見えてきたものを伺います。  

2013年大阪市で母親と小さな子供がマンションの一室で餓死したとみられる状態で発見されたというニュースがあり、それがきっかけになりました。   餓死という言葉がとてもショックでした。   住職になって2年目の時でした。   こういう悲劇が起こるまで私たちは気付けなかった、もっともっと社会に関心を持たなければいけない事件でした。

   お寺と言うところは、たくさんの食べ物が仏様、ご先祖さんへのお供えとして集まってくる場所で、お彼岸、お盆、年末年始などはたくさんいただくことが多く、お寺の中では食べきることが出来なくてお裾分けなどするんですが、お菓子などを届けることで大阪のような事件が少しでも起こらなようにできないかという事で動き始めました。    シングルマザーを支援する団体が立ち上がったという記事を新聞で見まして、その活動に段ボールにお菓子を持って行ったというのが最初です。  3か月ほど月に一回家庭に一箱お届けすることをして、子供たちも喜んでいるという事でした。   話を聞くと全然足らないという事でした。  

広く他のお寺に声を掛ける事にしました。    地域で活動している団体に届けるのが基本になっています。   色々ありますが、一番多いのが子供食堂をしている団体です。 そういった団体におすそわけをおくることで応援していこうという事です。    事前にお寺さんにどのぐらいの量をどのぐらいの頻度でお裾分けできる自己申告で登録してもらいます。     受け取る団体は必ずどこかから毎月一回お裾分けが届くような風にシステムを作っています。   インターネットにログインして双方に登録してもらいます。  2018年 グッドデザイン賞を受賞、お寺の「有る」と社会の「無い」を無理なくつなげることが評価されました。   菓子だけではなくて、お米、野菜、日常品のタオル、石鹸、シャンプーなどもあります。   手書きの手紙で励みになるようなメッセージを一緒に送っています。   貧困問題は実は孤立してしまうという事が大きな問題で繋がりが持てない、メッセージを送ることで誰かがいるという事が大きな希望、力になると思います。  

行政の窓口にもいろんな制度があるが、なかなかそれが必要な方に届かない。  届いても申請しないと利用できない、申請しても必ずしもすべての人が受けられるものではない、という事があります。  貧困問題って本当にあるの、というお寺さんもあります。  貧困問題はなかなか見えにくいという事もあります。   

東京の大学に合格したらお寺から離れることができると思って進学して、大学では経営を学びました。   インターネットで新しい事業を立ち上げて行こうと思って、IT企業でいろんな企画に関わりました。  或る時、人と違う生き方を、と思った時にどういう選択肢があるのかと思った時に、お坊さんになる道はなかなかないと思って、今まで避けていた生まれた環境を受け入れることができました。   IT企業にいた時には、インターネットを通じて人と人を繋げるという仕事をしていて、お寺の住職は苦しんでいる人と仏教の教えでつなぐ、繋ぐために自分は何が出来るかという事を考えている、繋げるという事は今の活動にも生きてきているかなあと思います。  

2020年3月ごろ全国の小中学校が一斉に休校になって、私たちの活動に対して全国から届くようになりました。  直接助けて欲しいという声がたくさん来ました。   直接必要なところへ届けようと切り替えて、緊急的支援という事で活動を続けています。  頼りになっていた給食がなくなってしまう。  非正規で働いている人は仕事がどんどん減らされてゆき、食べ物にも苦労することになり、また大阪の悲劇が起こってしまうのではないかという思いも浮かびました。   まずはお米を届けようと、無い場合は麺だったり、主食になるものを必ず届けるようにしています。  コロナ禍で助けて欲しいという声も増えましたが、援助をしたいという申し出も増えました。   助けて欲しいという声と助けたいという声を繋ぐという事で助け合う社会を作って行ける、そんな社会を目指すんだという風に目標を一段上げることが出来たのかなあと思います。  

奈良からの直接送付には限界が来て、匿名で荷物を送る仕組みに切り替えれば、奈良以外からも送れるかも知れないと言いう事で、全国のお寺さんから匿名で届けられるような仕組みを作っています。   地域のお寺さんと地域で活動している団体さん、地域のお住いの方がつながるという事が大事だと思います。  コロナ禍がどうなるのかわかりませんが、本来の支援の姿に戻してゆきたいと思っています。