2022年7月27日水曜日

宮崎良文(千葉大学名誉教授)      ・【心に花を咲かせて】木の価値を科学的に検証

 宮崎良文(千葉大学名誉教授)     ・【心に花を咲かせて】木の価値を科学的に検証

緑の中にいるとなぜ気持ちいいのか、そんな疑問からその理由を科学的に突き止めようと研究されているのが宮崎良文さんです。   森林セラピーと呼ばれる自然界の樹木が人に与える影響から始まり、木と言う素材はどうなのか、などなど研究範囲は広がっているといいます。  科学的に検証とはどいう事なのでしょうか、何故その研究を始めたのでしょうか、そしていまどこまで判ってきているのでしょうか、世界にこの研究は進んでいるのでしょうか、この研究の先にどんな未来が見えるのでしょうか、 宮崎良文さんにお話を伺いました。

身体の脳の活動とか、身体の活動とか、生理的変化があるので、それをもって評価しようという事なんです。  木がよさそうだという事はみんな経験的に知っているわけです。  或る程度の結果も沢山あります。  だけど身体でどうなったかというデータがなかったんです。   自然に触れると身体が沈静化するとかリラックスします。  脳の活動を取ったり、自律神経活動でも交感神経、副交感神経活動を分けて測るんです。  唾液のストレスホルモン、コルチゾールを測ったりします。   それらを組み合わせて身体がリラックスしていると解釈するんです。  この進歩は最近のことです。  30年前ぐらいから急速に進歩してここ15年ぐらいには非常に精度よくなりました。   

脳の活動も近赤外分光法という、頭の中に弱い光を当てて戻って来る光を取るんです。   脳に血液が流れていて、赤っぽい光を入れると、血液で吸収されて戻って来る光が弱くなります。  入れる光と出た光を取ることによって血液の濃度が測れます。  血液の濃度が高いという事はそこに酸素を供給しているので脳が活動しているという事です。     わくわくするときもストレス状態の時にも活性化します。    脳が沈静化するとき、前頭前野の活動を取っていますが、自然に触れるとずーっと沈静化していきます。   200~300年では人の遺伝子は変化できないんです。  ずーっと昔の身体をもって今の都市化された社会で生活しているので、そこで摩擦が生じて俗にストレス状態が生じる。  そうすると免疫機能も低下することが判っているので、自然に触れることで勝手にリラックスしてしまう。(身体が反応してしまう。)   前頭前野の活動が緩やかになり、リラックスした時に高まる副交感神経活動は上がります。  ストレス時に高まる交感神経は下がります。  一連の変化を取ってリラックスをしているという評価をするという解釈をします。

大きい自然=森林、小さい自然=公園、大型の木造家屋、もっと小さい自然=ガーデニング、生け花、花、もっと小さい自然=木の香り などがあり、両面からせめて自然セラピーを明らかにしたいとデータを溜めています。   この分野のデータとしては世界で我々の研究室が一番多くデータを出しています。   森は14年間、2005年から全国63か所768のデータを取るという大型研究をしました。   公園、木材、花、木の香りなども手掛けています。    効果の方向は一緒でレベルが違います。  森に行くと効果は大きいです。   森が嫌いな人(スギ花粉とかで)はリラックスせず緊張します。  薔薇の香りの実験ではほとんどの人が好きですが、嫌いな人もいます。  嫌いな人はリラックスしません。 

沈静化と言っていますが、本来の人の状態に戻るという考え方で、それが沈静化と言う形で表れてくる。  快適感は昔は暑いか寒いかでしたが、適正な温度にしてやることで快適になる、受動的快適性と呼んでいます。  五感に関わる快適性は個人差が凄く大きいです。個人差と言う実態を明らかにすることが今望まれています。   個人個人へのアプローチ法が今はないが、将来的には必要になって来る。   平均値から個人へと言うのが望まれています。   

8階建ての木材会館がありますが、木をふんだんに使っています。  その実験を去年から始めています。  木の壁と白い壁を見た時の差、木の机と白い事務机との触った時の差、木の大ホールなど4年計画で進めています。  見る、触るでは思うような結果が出始めています。  最近は外国も参入してきました。  日本の分析技術、システム、機器は世界一です。   近赤外分光法が一番進んでいるのも日本の機器メーカーです。   

車椅子を使っている人に協力してもらって、盆栽を作ってもらいました。  車椅子の方、リハビリ病院の方、は健常者よりも大きくリラックスします。   東京の鬱の専門病院での患者さんの変化も大きいです。  健常者が10数%の変化に対して50%とか、脊髄損傷の方は100%変化しました、リラックス度が上がります。  大阪に障害を持っている子供たちの施設があり、そこと4年間共同研究をすることになりました。   予防医学的効果、病気を治すことはできないが、病気になりにくい身体をつくることは出来るんで、今はそれを目指しています。   脳が沈静化して本来の状態に戻り、効果が上がってリラックスする、交感神経機能が下がって落ちた免疫機能が改善する、そうすると病気になりにくい。 今それを目指しています。   僕の持っている最終目的は医療費の削減なんです。   サイエンスに基づいた予防医学的効果が行けるのではないかと思っています。  

子供のころから自然が好きでした。  父親が植物が好きで、庭に植物を植えていて手伝ったりしていました。  高校の時に何となく研究者に成れたらいいなあと思っていましたが、そのようになれるレベルではなかった。  一浪して国立大学に入りましたが、マスターのコースに行く事になりました。  東京医科歯科大学の先生が来て助手を取るという事になり、医学部ではないのに助教になりました。  3年間頑張り医学博士となりました。 その後森林総合研究所が僕を採用してくれました。  森林と木材の研究をはじめました。それが緑と医学との合体の基本となったわけです。    緑と医学は分野が違って縦割りなんです、縦割りは学問の大きな問題点だと思います。   共同研究で一番大事なのは人なんです、普通人脈が取れない。  

障害を持っている子供たちとかに対して、自然を上手に使って生活の質を自然によってあげることが出来たらいいなと思います。  横浜にあるギャンブル依存症の病院とも付き合いがあり、ギャンブル依存症の人もストレス状態が高いんですね。  車椅子の方々など強いストレスの方々に自然セラピーを上手に使っていただきたいが、そのためにはデータで、エビデンス(証拠・根拠、証言、形跡などを意味する英単語)と実践なんです。  自然が持っている生理的調整効果というものがあり、森林に行って血圧が下がる人もいるが、上がる人もいる、良く調べてみると、もともと血圧が高い人は下がって、血圧の低い人が上がる、いいレベルに近づく、それを生体調整効果と名付けました。   都市と森林で歩いた結果では都市ではだめでした。  血圧を適正なところに持って行ってくれるのが自然セラピーの大きなメリットだと思っています。  花を見るだけでも同じような効果があります。  中国が今森林浴に力を入れています。  アメリカ、ヨーロッパでも森林セラピー実験のブームになっています。  「森林浴」と言う日本の言葉が公用語になってます。