角谷勇圭(金工作家) ・【人ありて、街は生き】 茶釜作りの伝統を引き継ぐ
1942年(昭和17年)生まれの角谷さんは鋳物の制作、とりわけ茶道で使う茶釜の制作に長年取り組み、高い技術を持っていることが評価されて、去年重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。 茶釜を作るうえで大事にしていることや、今も尊敬の念を抱く、同じく人間国宝だった父への思いを聞きました。
型が土で,粘土、砂などで作っているので、馴染むように土間になっています。 鉄を溶かすところもあり窓を開けてあってもは40℃ぐらいになります。 直径30cmぐらい、高さが20cmぐらいの茶釜があります。 草花の模様などが施されています。 思ったよりも軽いですが、使い勝手がいいように薄く作ります。 鐶付(かんつき)(釜の胴の両側に付けられた、釜を持ち上げるときに釜鐶(かまかん)を通す孔を開けた耳のこと)はどういうものにしようかと苦労するところですが、この釜は水鳥、カワセミをモデルにして型に付けました。 夏用なので涼しそうに作ります。 釜のデザインは以前は釜の肌が粗くてごつごつした感じが主流でしたが、父の時代からきめ細かい肌になり、絵もシャープな感じになりました。 昔は無地が多かったです。
弾力性のある鉄のへらで絵は作り上げます。 シャープな感じにはもってこいです。 ヘラ自体は自分で形作ります。 ヘラの種類は増えていきます。 40~50本あります。 平たいヘラは笹ヘラと言います。 細いものは線を表します。 ステンレスなので滑るから手に持つところは銅線で巻いて滑りにくくしています。 葦が斜めに下から1/3ぐらいのところから3本生えていて、釜の口のところまで来ています。 そよ風の雰囲気が出るように表現しています。 曲面なので考えながら作ります。 庭には葦等も植えて参考にしています。 木型に押し付けて滑らして細くして行く事で葦の先までの表現をしています。
鐶付(かんつき)は粘土に彫刻します。 70~80本ぐらい彫刻するものがあります。鐶付(かんつき)は鳥も、鷺、鶴、雁とかいろいろあり、動物も兎とか、バッタなどいろいろあります。 抜き種と言いますが、柔らかい粘土を被せて型取りして、粘土から抜くわけです。 焼いて釜型にしつらえます。 鐶付(かんつき)は苦労しますが、釜の一つのポイントになります。 車は茶釜の表面のデザインの参考になります。 古いものと新しいものとを行ったり来たりさせることによって、頭を柔らかくします。
父の仕事は小さいころから見ていました。 大きくなってくると父の手伝いに行きました。 ごく自然にこの道に入りました。 父はああしろこうしろとは厳しくは言いませんでした。 じーっと見ていると技はこちらまで伝わってきますね。 人間国宝を父に持つという事はどうしても比較されるので、非常に悩みました。 父は日展を目指していて、入選するためには昔通りのものを作っていては通りませんから、新しい昭和の時代の釜を作るために、本とか、美術館に行って勉強しました。 父は研究心が凄かったです。 新しいものを作って行こうと常に考えていました。
去年重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されましたが、責任を果たせるかどうか心配をしました。 まだとても父の力には及びません。 父は80代でも仕事をしていましたので、見習いたいとは思います。
鉄は使えば使う程味が出て来ます。 しょっちゅう使っていると艶が出て来ます。 愛着をもって使っていただけると釜も喜びます。 松籟(しょうらい 松風のそよぐ音)と言って、音響的な効果もあります。 沸いて来る音色がいろいろ変わってきますので、響きが出て来ます。 話題になるような釜も作っていきたい、線も繊細で大胆な釜を考えています。