2022年3月26日土曜日

寺島しのぶ(女優)           ・【私の人生手帖(てちょう)】

寺島しのぶ(女優)           ・【私の人生手帖(てちょう)】 

学生時代に文学座に入団、2003年公開の映画、「赤目四十八瀧心中未遂 」、「ヴァイブレータ」などが国際的にも高く評価されまして、 2010年の映画、「キャタピラー」では35年振りにベルリン国際映画祭の最優勝女優賞を受賞するなど、列情家?(聞き取れず)の女優として知られています。  寺島さんは父が7代目尾上菊五郎、母は女優富司純子、弟は尾上菊之助という芸能一家に生まれました。  女性が歌舞伎の舞台に出られないことを知った時からの 葛藤や苦悩はどのように乗り越えたのでしょうか。  これまでの役者人生と共に歌舞伎デビューしている長男への熱い思い、そして改めて魅了されているとしている歌舞伎の世界について、今年大きな節目を迎える心境と共に伺いました。

「芝濱革財布」と言う演目で父と一緒に息子が出演しています。  落語で有名は話です。 息子は丁稚役です。 初出演が2017年です。    日々あっという間に過ぎてゆきます。 学校がある時には朝は5時に起きます。  今年4年生になります。  フランスはテレビよりもラジオをよく聞き、ラジオ文化があります。   ラジオは声を聞いたり音を聞いてイマジネーションするので、そういう時間っていいなあと思います。  

小さいころは男みたいな子供でした。  母の教えは絶対嘘はつかないでと言うのを厳しく言われました。  嘘をついた時にはすごく怒られた記憶はあります。   父は歌舞伎が忙しくてゆっくり話をしたことはなかったです。   今年50歳になりますが、本当に嘘がつけなくなってしまいました。    息子にも嘘はつかないようにと言っています。  

弟が初舞台に立って、私が客席で見るというシチュエーションしか許されないんだという事が判った時に、それまでやっていた踊りのお稽古からいろんなこと全部やめました。   歌舞伎も見ないことが長く続いてしまいました。   弟は5つ下ですが、祖父母が生きていたし、我が家に男の子が生まれたという事の喜びが、私にとって凄くショッキングでした。拗ねた子供になって行きました。  性別が違うだけでこんなになっちゃうのかと思いました。    こういったことから逃げようと思って中学、高校はスポーツに専念しました。 ハンドボールとバレーボールをやりました。    大学ではいったい自分は何になるんだろうと思っていた時に、太地喜和子さんとお会いしました。   文学座で演技の勉強をしたらいいんじゃない、と言われて、文学座も杉村春子さんという偉大な女優さんも知りました。  私は芝居が好きなんだという事がどんどん芽生えてきました。   蜷川幸雄さんに19歳の時に抜擢されて、セゾン劇場で「血の婚礼」と言う作品の主演を抜擢されました。  蜷川さんとの出会いは大きかったです。    私の原点です。  

車谷長吉さんの赤目四十八瀧心中未遂』という本との出会いがありました。  私がやらなければと、とっさに思ってしまって、手紙を出しました。  何年もたってああいう作品は映画化されないよなとあきらめていた 時に、車谷さんが会いたいという事から回り出し始めました。  結局運命からは逆らえないという、自分の中で凄いリンクさせちゃったんです。    なんかアクション起こしたいが結局は出られないのが、家族の血だったり、自ら感じているからなんだと思います。  だから車谷長吉さんの本を読んだ時には絶対やらなくてはいけないと思いました。  ヴァイブレータ」もそうです。   拒食症に悩んでいる女の子ですが、偶然出会った長距離運転手のトラックに乗って短い旅をする。 恋が芽生えたりしてちょっとだけ成長するが、結局戻って来る。    そう簡単には外には出られないという部分が嫌な部分でもあるんだけれども、嫌いじゃない部分もある、というそういう作品に何故か惹かれるのは、自分の生い立ちにあるんじゃないのかなあと思います。

舞台は一番好きですが、母が映画の人なので映画に対するあこがれはずーっとありました。 フランシス・マクドーマンドと言う女優さんが「おばさんの役をやるのは私だけだから、貴方もできるはずだからがんばって。」と言われました。   最近はおばさんと言われても気にならなくなりました。  そういう年齢に差し掛かってきているので,あがらう事なくやって行きたいと思っています。    

父の芝居をずーっと見てきたので、原点はそこなんじゃないかと思います。    演技ではあるが、こういう時代にこういう人はいたよねと言うような信じさせかたを父はするので、そこはどの演技に対しても自分が求めていくところかなと思います。   役の核を掴んでいるといった感じですね。  セリフを忘れてもその人間に成りきっていたら、どんな言葉でも出るじゃないですけれども、毎日の父の「芝濱」を見ていると本当にそう思います。  歌舞伎って本当に凄いと思います。   本を貰って自分からその役に憑依してゆく、憑依した中で芝居をやった時に、自分のアンコントロールな部分で、何かが出た時に快感ですね。   本を読みこむ時間はないが作るしかないですね。  

一緒に舞台とかコンサートに行きますが、今の子供の吸収状態を見ていると楽しみではあります。   弟からは歌舞伎というレールに敷かれることなく自由でいいなと言われましたが、自由が嫌で嫌でしょうがなかった。   行く道が判らないなかで自由って、なんだと思いました。   レールが敷かれている方がよっぽどいいと思っていました。   やっと50歳ぐらいになって判るという感じです。   或る程度のレールを敷いてあげないとほったらかしという事になりますので、子供のことでは苦しくなる事が多々ありますね。  その役になっている時には自分を埋めていきたい。  見落としているところがあるのではないかと、台本を一から読み直すとかあります。   役になるうえで情報を一杯にしておきたいという感情は有ります。  海外の人と一緒に仕事をしたいですね、海外にも通用する作品を作りたいと思います。