田中修(甲南大学特別客員教授) ・植物に命を学ぶ
昭和22年(1947年)京都生まれ、74歳。 両親が植物が好きで幼いころから植物を身近に感じていた田中さんは、小学生の頃、何故植物は春になると芽を出すのだろうかと、疑問を持ちます。 植物は不思議な仕組みを持っている、このことが田中さんが植物研究の道に歩ませたのです。 1971年京都大学農学部卒業、1977年同大学院博士課程修了。 米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、甲南大学理学部助教授。
専攻は植物生理学です。 植物生理学は植物の生き方なんですね。 コロナ禍で命を守るために3つのことを我々は心がけているんです。 ①外食を自粛する。 ②マスクを着用する。 ③密閉、密集、密接を避ける。 植物はこれらをずーっと守って生きてきているんです。 ①→うろうろしていない。 ②→植物はしゃべらない。 ③→植物は1回だけ移動できるチャンスがあり、種の時です。 一緒のところで発芽したら、密になりますから、出来るだけばらばらになるようにします。 山に行くと間隔をあけてソーシャルディスタンスを保ちながら生きています。 植物は生きる極意を身に付けて生きています。
植物の命と人間の命の違いは大きく3つあります。 ①生きてきた歴史が違います。 植物は地球上に約4億7000万年まえに陸上に上がって来ました。 ホモサピエンスは高々20万年前です。 ②植物は自分の進化を環境に合わせて世界中に進出してきます。最初は水辺でしか活動しません。 今は世界中に植物は有ります。 本数は3兆400億本あると言われています。 人口は78億人程度。 おおざっぱに一人約400本の木があるという事です。 高さが120cm(日本 130cm:世界)のところの太さが10cm越えると樹木として数えます。 空から地球上の航空写真を撮って、緑の濃い部分、薄い部分について実際に数えて(40万か所)、航空写真の色と合わせてコンピュータで計算します。 人間の寿命はせいぜい100年、縄文杉とか、樹齢2500年~3000年とかあります。 アメリカ西海岸では樹齢4700年、4800年と言われています。 ③植物は自給自足で生きて行きます。 光合成でブドウ糖、でんぷんを作ります。 材料は水と、二酸化炭素と太陽光でコストもかからない。 地球上のすべての動物の食料は植物が作ってくれているんです。 植物の根は長いものは8万年と言われています。 地上は枯れるが根は生きているんです。 根の広がりで見ます。 一本の木で東京ドーム9個分と言われます。 遺伝子が全く一緒かどうかで判定します。 根が1年間でどれだけ伸びるのかを見ます。 そこから年数を決めます。 長い歴史、自給自足、寿命が長い。
根と言う字は大事なところに全部使われます。 根幹、根拠、根本、根性。 同じ植物を乾燥したところと湿ったところで育てた木では、地上部は圧倒的に湿ったところが大きくなる。 乾燥地の根は水を求めて深く深く伸びて行ってます。 湿地の根はちょっとしかない。 根性と言う言葉が使われたんでしょうね。
稲は水田で育ちますが、夏になると水を除いて(中干し)、田んぼを乾かし、稲はこれではいけないと思って根を生やすんです。 秋には垂れ下がる穂を支えることが出来ます。
ユウカリの木が金鉱脈を掘り当てたという事で話題になったことがあります。 ユウカリの木に金が混じっているという事を見つけました。 木の高さは10m程度ですが、地下30~40mのところに金鉱脈が見つかったんです。
人間の健康を守ってくれるのは植物です。 野菜、果物が栄養になってくれている。 人間に紫外線が当たったら、活性酸素が生まれます。 活性酸素はシミ、皺、白内障、皮膚がんの原因になる。 植物に紫外線が当たっても活性酸素は生まれます。 植物は活性酸素を取り去る物質を作っています。 抗酸化物質は活性酸素を消去します、代表的なのがビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール(代表的なのがアントシアニン、カロテノイド)。 カロテノイドは黄、橙、赤色などを示す天然色素の一群です。 花のめしべの下の方には種が生まれてくるので、紫外線の害をうけると、大変なので種が出来るところを綺麗な花びら(抗酸化物質)で固めて、守っているんです。 交配のために蜂や蝶を集めるために花の色、香りがありますが、もう一つの理由は種を紫外線の害から守るという働きがあります。 人間も紫外線の害から守るために抗酸化物質を食べるんですね。 人参、イチゴ、スイカなど食べるわけです。 植物に健康も守ってもらっているという事です。
桜が咲いてきますが、1年間努力しているんです。 咲き終わって夏になると次の年の春の蕾を作るんです。 樹木は種を作るまでの時間が長いんです。 硬い芽は冬の寒さをしのぐための芽なんです。(越冬芽) どうして寒い冬が来るのがわかるのかと言うと、植物は夜の長さを測るんです。 葉がアブシシン酸という物質を作り、夜が長いほどたくさん作ります。 秋になると夜がどんどん長くなる。 芽にアブシシン酸をどんどん送ってゆくと越冬芽に変って行くんです。 冬至が最も長く、最も寒いのは2月で、夜の長さの変化は気温の変化を二か月余り先取りして動いているんです。 夜の長さを測ることで前もって知っていて、越冬芽を作るんです。 なんで桜は春に咲くのかと言うと暖かくなるから。 でも暖かくなるというだけでは咲かない。 桜は用心深くて冬の寒さを体感しないと、暖かくなっても春が来たなと信じない。 越冬芽の中のアブシシン酸が冬の寒さのなかで分解されてゆくんです。 アブシシン酸がなくなって暖かくなったら、ジベレリンという物質が増えてくるんです。 ジベレリンは蕾から花を開かせる物質で、春にはジベレリンが増えてきて花を咲かせます。 と言うわけで1年間物凄く努力してきているんです。
現象の裏にはそんな仕組みがあるのかとわかると、感動とか喜びを得ます。 ちょっとした疑問をなんでだろうと考えることで、仕組みに行きついたり、行きつかなかったりします。 不思議が一つ解けたら必ず次の不思議が生まれます。 中国の言葉に、一日楽しみたかったらおいしい料理を作ってお酒を飲んで居たらいい、1週間ぐらいだったら舞台を用意して友達と一緒にお酒を飲んで居たらいい、一生楽しみたければ、〇〇になりなさいと言うのがあります。 〇〇は人によっていろいろあると思いますが、ここでは庭師なんです。 庭師は植物の不思議な現象に出っくわして、いろいろ考えて喜び感動があり不思議を感じさせてくれ一生楽しめる。