三保浩一郎(日本ALS協会広島県支部) ・【人権インタビュー】"安楽死議論"の前に 多様な生き方を知ってほしい
今年7月京都で難病のALSを患う女性から依頼を受けた医師二人が、女性を殺害した疑いで逮捕されるという事件がありました。 全身の筋力が徐々に劣えるALS(筋萎縮性側索硬化症)この病気を患った女性の苦しみが明らかになりました。 広島市に住む歯科医師の三保さんは9年前ALSと診断されました。 歯科医院で診療することはできなくなりましたが、三保さんは病気が進行するなかでも目の動きで文字を入力する視線入力のパソコンを駆使して仕事をし、趣味を楽しんでいます。 10年近く夫の介護にあたってきた妻の文子さんと浩一郎さんにALS患者が多様な生き方のできる社会を作るためにはどうしたらよいのか伺いました。
視線入力のパソコンで話を伺っています。
浩一郎:歴史、特に古代史が好きです。 古地図も好きです。 人工呼吸器を装着して自宅で暮らしています。 食事は胃ろうから摂取しています。
文子:液体の注入食を入れることをしています。 味覚はちゃんとあります。 介護は発症して3年ぐらいは一人で介護していましたが手探り状態で、今はヘルパーさんと一緒に在宅をやっています。 主人の声を一番聞ける人が介護しないと問題点が判らないと思います。
海水浴に行ったときに体が思うように動かないという風に主人言っていて、歳だからではないかなどという事で気にはしていませんでしたが、そのうち自転車でこけて上腕骨骨折をして、整形外科を受診して、どうもおかしいという事で神経内科を紹介されてALSと診断されました。
浩一郎:(自覚症状としては)足がつって、よく躓いていました。 自己診断でALSかもしれないと思っていたので、やっぱりか、これからどうしよう、でした。 怖さもありました。 真っ先に浮かんだのは仕事のこと診療所のことでした。 死ぬことや人工呼吸器のことは頭に浮かびませんでした。
文子:主人なりに色々調べてALSになったら最悪だと言っていたので、そうじゃなければいいなあと思いながら大変なことになる、色々変わってゆくんだろうなあという覚悟はできていました。
浩一郎:どうやって家族を養おうか、収入手段を確保しなければという事で頭がいっぱいになりました。
文子:人によって進行も色々です。 症状が出るのに1年間で一気に出る方もいれば20年かけてゆっくり進む人がいるので幅が広いと思います。 呼吸筋が動かなくなるので人工呼吸器を装着するか、しないで死にますかという選択を自分でしなくてはいけないという事になります。 7~8割が装着しないほうを選択すると聞いています。 一番は家族の負担を皆さん考えられていると思います。 24時間介護が必要になるという事が大変ですし、家族が負担をするようになるわけです。 自宅で一人の人ではヘルパーが対応するわけですが、体調が悪くて替わりのヘルパーがいないと全く一人になってしまうので、24時間介護の負担が大変だと思います。
浩一郎:途中で外すことができないのも一因だと思います。
文子:法律上人工呼吸器を付けたら亡くなるまで外せないので恐怖はぬぐえないですね。
浩一郎:妻の「人工呼吸器を付ければALSが原因で死ぬことはないんだ」という一言が大きかったです。
文子:それしかない、付けないという事は死ぬという事なので。
浩一郎:(人工呼吸器を付ける迷いは)勿論ありました。 同期の内科医から人工呼吸器を装着すると地獄のような苦しみだと忠告されたのも一因です。 (介護が24時間必要になって家族に負担をかけてしまうという事に対しては)勿論ありました。 想像ついていなかったというのが本音です。
文子:私もどれだけの介護が必要なのかわかっていなかったから、反対によかったのかもしれません。
浩一郎:(人工呼吸器を付けて)想像以上に快適な暮らしでしたね。
文子:人工呼吸器を付ける前のほうが大変でした。 呼吸が不安定で、日によって全然違うので、街中で急に苦しむという事が多々ありました。 外出も控えるようになりました。
浩一郎:あの時期が一番つらかったね。
文子:飲み込めないものがどんどん喉にたまってゆくので、苦しいんです、もっと早く人工呼吸器をつけていればもっと楽だったのにと思います。 体調が安定するんです。
浩一郎:(仕事、講演活動で負担を感じることは)いまは体調が安定しているので負担には感じませんね。 広島市歯科医師会では広報部に配属されており、会報誌の構成、編集、日常診療に役立つ広島弁講座の執筆、広報用動画の編集、ユーチューブチャンネルの管理、臨床に入用な情報収集を担当しています。 全力で取り組んでいます。
文子:6年前にALS協会の広島県支部の部長になりました。 主に患者交流会がメインですが、介護、モチベーション、不安や悩みなどを打ち明けられる場所という事でALSの患者さんの生活全般を支えるという活動をしています。
浩一郎:ALSによって失ったものを10とすると、得たものは6ぐらいと感じます。 これからの生き方次第で6をもっと増やせるはずです。
文子:この10年一体何をしてきたのかなあと思った時に、介護しかなかったとは思いたくない。 介護して私も成長してきたし、知らない方とも会うことができましたし、講演にもついてゆくことができます。
浩一郎:(ALSの方と生活してゆくなかでどんなことが大事かという事に対しては)身体が動かないだけで中身は普通のおっさんですから、普通に接することが大切と思います。
文子:体が動かないだけでバリバリ働いていたころと何一つ変らないです。
浩一郎:(京都の事件については)残念なことですが、女性の気持ちは理解できます。 女性を責めないで欲しいです。 私も人工呼吸器を装着する前には不安でしたから。
文子:わかるけど、それでも生きていてほしかったという方もみんなそれは思う事だと思うんですよね。 人生を変わってしょってあげることはできないので。
浩一郎:閉じ込め症候群になることを想像すると怖いはずです。
文子:閉じ込め症候群は眼も動かせなくなり、進行すると何一つ動かせなくなる。 心臓、内臓、頭も動いていて、生き埋めにされてじっと過ごすような事になるわけです。
意志を伝える手段がなくなってしまう。
浩一郎:(閉じ込め症候群になる恐怖は)もちろんあります。 閉じ込め症候群になったら死にたいと思いながら日々生きています。
文子:脳波でハイ、イイエが判るようになるような事も研究されているみたいですが。
浩一郎:それはいろいろばれるので困る。(笑い) 安楽死を認めると人工呼吸器を装着する人が増えるのではないかな。
文子:病気の進行の中に閉じ込め症候群がどうしても最後に行きついてしまう場所なので、そうなったら楽にしてほしいと思うのを認めてもらえるならば、それまで一生懸命生きれると思うんです。
浩一郎:そう思う。
文子:意思疎通できないままずーっと寝かされて生きて行くことがどれほどしんどいのかという事を考えると、本人が選択できればそれが一番いいと思うんですが。 眼も閉じて意志相通できなくなってしまったら、人工呼吸器を止めてくれと言われたら止めるかもしれない。 安楽死が認められていなければ私は殺人者になってしまう、そこが難しい。
浩一郎:もっともっと仕事をして社会貢献したいです。 僕は現在公的介護支援の下で暮らしていますが、就労すると公的介護支援が受けられなくなります。 僕は介護支援さえあれば就労して納税することも可能です。 判りやすく言うとTVを見て過ごす分には介護が受けられるが、仕事をすると介護が受けられなくなるのです。 これでは労働意欲がわきませんよね。
文子:講演などの最中はヘルパーさんを自費で雇っています。 プラスナイナス、ゼロになるわけ。
浩一郎:国民だから納税したい。
文子:経済活動とみなされるからヘルパーは付けないといわれたときに、経済活動して何がいけないのと思います。
浩一郎:(現行制度に対して問題をどう思うかという事に対しては)介護が必要なほどの障害者が働けるわけがないじゃん、という固定概念が邪魔をしているような感じがします。 社会に出て行って皆さんに周知してもらうのが大切と考えます。
(ALSが生きたいと思える社会にするために大切なことは) 仕事があること、社会の中で自分のポジションがあること、生き甲斐あることが大切と考えます。
文子:ALSに限らず、今元気で生きている方がいつなんどき障害を負うようになるか判らないので、障害を負ってしまっても社会復帰できて自分らしく生きれるんだという社会があれば幸せなんじゃないかと思います。 社会復帰出来て社会が受け入れてくれる、それが理想です。
浩一郎:(ALSの患者へのメッセージとしては)身体は病に侵されても心まで病に侵されることのない様にしてほしいです。
文子:周りが兎に角普通に接してあげることが大事だと思います。 普通の会話が大事だと思います。