2020年12月19日土曜日

北條達人(大阪自殺防止センター 理事)  ・「心に傘を~孤独と絶望に寄り添って」

北條達人(NPO法人 国際ビフレンダーズ 大阪自殺防止センター 理事)  ・「心に傘を~孤独と絶望に寄り添って」 

全国で自殺をした数は今年7月以降5か月連続で前の年に比べて増加をしています。  国は新型コロナウイルスの影響などについて分析を始めています。   北条さんは自らも若いころ悩みを抱えて苦しんだ経験から自殺を考える人の電話相談を40年以上前から続ける「国際ビフレンダーズ 大阪自殺防止センター」 に所属して活動してきました。  電話相談でどんな切実な声が聴かれ、北条さんたちが自殺を思い悩む人たちの心にどのように寄り添おうとしているのか伺いました。

2020年10月に自殺した人は去年と比べて40%近く増えている。(厚生労働省調査)  20代、40代の女性が2倍以上増えている。   その人たちの相談の数も相談の内容もより深刻になってきていると実感しています。   仕事を失ったという事、コロナの影響で保育所が閉鎖されてしまって育児の負担が増える、夫も仕事を失う可能性があるなど生活の変化が影響を与えて、女性に、特に40代に集中してしまっているようです。  10代、20代の女性に関してはお父さんが仕事を失って、暴言がひどくなり、自分自身の仕事も心配で追い詰められている。   

著名人の自死の後は電話の件数も増えます。  自殺の報道に対して世間はどんな目を向けているのか凄く気にされています。  自分に置き換えて考えて苦しくなっている方は沢山います。  

報道に関しては、いろんな詮索、いろんな考え方を議論されることは凄くしんどいことで、純粋にその人の死を悲しんで痛む気持ちを持っていただく、その姿勢がしんどいことを抱える人に取っては大事なことで、寄り添う事になるのではないかなあと思います。

国際ビフレンダーズ 大阪自殺防止センターでは自殺に特化して相談窓口を受けています。

電話を取っているのは40数名で、会員自体は70名程度です。  金曜日の13時から日曜日の夜10時まで連続57時間相談を受け付けています。   着信件数はひと月で1万件を超える電話がかかってきます。   ひっきりなしに電話がかけ続けているような状況です。  そのうち相談員が電話を受けているのは500件弱です。  圧倒的に相手不足です。  かつては100人ぐらいの相談員がいましたが今は40人ぐらいです。    相談員も仮眠を取ったりしますが、苛酷です。

相談員になるきっかけは私の友人が19歳の時に自殺をしたのが、大きなきっかけだったと思います。   若いころはいろいろ悩みを持ち合わせていて、自殺をするほど深刻に悩んでいるとは感じ取れなかったです。  私も高校生の頃に家庭の問題があり悩んで、自分が確立できなくてどうやって生きていったらいいんだろうか、と耐えられなくなったんだろうと思って、勉強とか、部活などが出来なくなり、大学生活も最初の頃は乱れた生活でした。

友人が死んで、自分も自殺をしてもおかしくないというように、生きづらさを感じていました。   なぜ人は生きなければならないのか、なぜ人は自ら死を選ぶのか、その問いにちゃんと答えなければいけないという気持ちが強くありました。  答えが出せれば自分の生きづらさが解消できるのではないかと思いました。

非行少年自立支援という事業が大阪府にあり、大学生のボランティアとかかわりを持つという事業です。  自分と重なるものがあるだろうと思って、気持ちを通じあわせたいと思いました。  内面的に大きな問題を抱えている子が多かった。  ある子が2時間ずーっとしゃべらない期間が続いて、ソーシャルワーカーさんがプラモデルを買って来て黙々と組み立てていて、作りながら段々会話ができるようになりました。  自分が感動したことを一生懸命伝えるようになり、段々関係が深まってきました。   その子の中学卒業で関係が終了するわけですが、手紙のやり取りをしていきました。

教師になり、子供たちが感じるいろんな気持ちを一切否定したくないという思いがありました。  私が放課後掃除をしていたら、隣のクラスの子が掃除を手伝ってくれました。  私のクラスの掃除をするなら、自分のクラスの掃除をしたらいいのになあと疑問を感じました。   帰ろうとしたときにその子が教室から出ようとしませんでした。  その子がおもむろに話し始めて「先生は死にたいと思ったことがある?」と私に尋ねました。   リストカットの後を見せて、毎日死にたいと思っていると打ち明けてくれました。   家の問題が大変で、中学1年のある時から勉強に集中出来なくなって、取り返しがつかないぐらい勉強が遅れてしまっていた。  部活も出来ない、塾へも行けない。  何のために毎日毎日座って時間を過ごしているのだろう、生きている意味がわからないという状況に陥っていた。  私と話す機会をうかがっていたのだろうと思います。  ひたすらしっかり受け止めようとその子の話を聞いていました。   その夜にその家に手紙を書きました。  自分でも真剣に悩んだ事など、自分自身がなぜ生きるのかという事の考えを書きました。  これからも直接にあるいは手紙でもいいから話してほしいと書いて渡したら、翌日に「ありがとう」と直接言いに来て、手紙は今は書けないから待っていてくれと言って、一ケ月後に手紙を受け取りました。

泣きながら手紙を読んだこと、自分自身も今はわからないけれども、自分の気持ちを先生が判ってくれたのがうれしかったというような内容でした。

なぜ人は生きるのかという事に対しては私は多分何の答えを持っていないと思います。  若者もそうだと思うし、一人で模索しているとつらいけど、一緒に模索してくれる人間がそばにいると心強いです。

「ビフレンダーズ」はイギリスの牧師チャド・ヴァラーが始めました。 日本語では「友となる」とか「そばにいる」といふうに訳せると思います。   

教員を2年務めてから自殺防止の専門家になりました。   自分が思っていた以上にいろんな背景があり、様々な悩みを訴えています。   解決して欲しいとか、アドバイスが欲しいとか口にする人がいますが、求められているのは、自分がいかに苦しんでいるのかを理解して欲しいという、切実な思いで電話してく来る人が多いです。

真夜中の忘れられない電話で、第一声が「私は電話を置いたら死ぬので絶対止めないで欲しい」といわれました。   「最後の電話だと思っているので電話の充電が切れるまで最後まで聞いて欲しい」と言われました。   生い立ちからいろいろ5時間話しました。 最後のほうに「ここまで話せてよかったといって、もうちょっとだけ生きてみよう」と言ってくれました。  私もあなたのことをずーっと覚えているからお互い覚えているものがこの世界にいるんだという事を言って、電話が切れました。

先輩の指導員から「ここは死にたいという気持ちを否定するのではなくて、その気持ちをそのまま受け止める場所だ」と言われて、自分が肯定されるような気持ちになりました。  今思う事は死にたいという気持ちを受け止めてもらったら、肯定された気持ちになったという、これも自分の自然の感情だと思ったんです。

悩んでいる人は言葉を貰いたいよりも、自分の苦しさを理解して貰いたいという事を求めているんだと思います。  まずはかかわりを作ってみて、その後はどんなことでもいいから耳を傾けるという姿勢で十分だと思います。   人生物語の立て直しはとても一人でやっているだけでは苦しい事だと思うので、苦しんでいる人たちはまずはうちに電話をしてほしいと思います。  今は死にたいと思っていても、今は生きる意味がわからないと思っていたとしても気持ちは変わるので、5年後、10年後その気持ちがどう変化してゆくのか、誰もわからない。  答えが出せないというのが有る意味答えなのかなあという気がします。問い続けることこそが生きることなんだろうなと思います。