穂村 弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】高校教諭・歌人 千葉 聡
短歌は大学を出た後にシンガポールの日本人学校で3年間働いて、その時に短歌を詠んでみてと生徒から言われて、自分の歌をと思って朝日新聞に応募したらそのうちの一首が佐佐木幸綱さんに選んでもらって、それから歌人としてやっていくんだと思いました。(24歳)
「われは教師われは教師と反芻し初担任の教室に行く」 ? 千葉 聡
1998年 『フライング』で第41回短歌研究新人賞受賞。
最初の歌集『微熱体』から穂村さんが紹介。
「明日消えてゆく詩のように抱き合った非常階段から夏になる」 千葉 聡
穂村:今しかないみたいな感じ。 10代のイメージ。 青春は非常事態の時というような特別な時間なので季節としては夏でしょうね。
「前沙羅と付き合っていた中村は水を飲み干し氷も食った」 ? 千葉 聡
千葉:中村は武骨な感じ。 沙羅という女の子のお祝いに集まったときにいろんなことをしでかしたというところを読みたかった。
「夕映えの砂場に埋めた最愛の僕のロボットの両手はドリル」 穂村 弘
千葉:両手はドリルというのが分かり合えない感じがして、でも最愛だと言っている、そこに惹かれました、届かない思いみたいな。
「終バスに二人は眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて」 穂村 弘
「夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと お会いしましょう」 穂村 弘
*上記二首に曲を付けて歌う。 歌:千葉 聡
『「おはよう」に応え て「おう」と言うようになった生徒を「おう君」と呼ぶ』千葉 聡
穂村:我々の学生時代は逆ですが、今は立場がこんなですかね。
千葉:ほとんどの生徒はちゃんと答えてくれるけど、反抗したりする子は黙って行き過ぎたりすることはありますね。
「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出て行った」 千葉 聡
穂村:生徒は卒業してゆき毎年押し出されて行って、もうここには来ないんだと思うとセンチメンタルな気持ちになって、最後に何かしたほうがいいのではないかと思うが実際には何していいかわからない。 この生徒の心にも何かそういうもやもやが残っていたのかもしれない。
「終バスに二人は眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて」 穂村 弘
千葉:名歌で紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて、というところがいいと思います。
「夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと お会いしましょう」 穂村 弘
千葉:夢の中は自分の自由にできるような気もするが不思議な制約があり、判らない感じがある。 自分が望んだことではないが、光ることと喋ることは何か光になるような不思議な感覚があって、そういう世界であなたと会いたいというような、二人にしかわからない暗号めいた出会いがあると思って選びました。
穂村:リアルには「止まりますボタン」というべきでそれをわざと「降りますランプ」に変形しています。 「止まりますボタン」では歌にならない。
「錆びてゆくく廃車の山のミラーたちいっせいに空映せ十月」 穂村 弘
千葉:穂村さんのデビュー当時の短歌。 ミラーが空のいろんな光を集めて最後の光を放つような感じがせつないと感じました。
穂村:十月を自然ではなく人工物 もので歌ってみようかなと思いました。
「約束はしたけどたぶん守れない ジャングルジムに降るはるのゆき」 穂村 弘
千葉:約束はしたけど守れない自信のなさ、人とつながりたい心と相反して、このままでいいのかなという自分に揺らぎがあり、その心を映し出す光景としてジャングルジムにすぐ消えてしまう春の雪が降りかかっている。 二人の関係も通じ合えなさを歌ったのかなと切なくなりました。
穂村:ジャングルジムの細いところにも雪が積もるんだなあと思いました。
千葉:30代になった時にもう自分は青春は詠めないと思って書くことが嫌になって、でも生徒たちのことを書くと救われました。 観察者として若い人たちを読むのもいいなあと思って段々楽しくなりはじめました。
注:短歌「・・・・・」?は漢字、かな文字など違っている可能性があります。