伊東ひとみ(文筆家) ・【人ありて、街は生き】キラキラネームの人気の秘密
最近今までにない音の響きをもった子供の名前が増えています。
俗にキラキラネームと呼ばれる名前です。
人気の名前は可愛くて音の響きはいいのですが、振り仮名が無いと読めないことがあります。
こうした名前は今主流になっています。
その人気の秘密は何なのか、日本人の名前の歴史を古代まで遡って調べ、「キラキラネームの大研究」という著書に纏め、NHK総合TVの「視点論点」でも命名と漢字文化のテーマで解説した文筆家の伊東ひとみさんに最近の子供の名付けの傾向とその背景を伺いました。
最近名簿を見ても読めないものがあります。
キラキラネームというのは従来の常識とは異なる漢字の読み方をしたり、これまでの日本にはない音の響きをもっていたりする難読の名前の事を言います。
1990年代半ば以降に増え始めて、ここ10年でさらに増え始めました。
2017年に生まれた赤ちゃんの人気ランキングが出ましたが、男の1位が「悠真」と書いて「ゆうま」「はるま」「ゆうしん」と読みます。
「悠人」で「ゆうと」、「はると」、「はるひと」
「陽飛」で「はると」、「ひなと」、「あきと」、「はるひ」、「ひなた」と色々な呼び名があります。
女の子の1位は、「結奈」で 「ゆうな」、「ゆいな」、「ゆな」とか色々です。
「咲良」で「さくら」、「さら」とも読みます。
最近は音の響きから名前を考えて、そこに親の思い、願いを託してイメージにいい漢字を当てはめる傾向があります。
7年前に古代漢字に関する本を執筆していました。
インターネットで「ぴかちゅう」(光宙)とか「ありえる」(泡姫)と言う名前に遭遇しました。
命名の現場で一体なにが起きているのだろうと思いました。
それでキラキラネームについて調べ始めました。
しゅがあ(紗冬) さ(紗)とう(冬)=砂糖=シュガア
凄い技だと思いました。
あげは→愛夜姫 イメージで作られた名前だと思います。
ぴかちゅう(光宙)は実在しているかどうかは確認できませんでした。
みつおきさん 光宙と書きますが、名家の方で江戸時代からの家で8代目の当主の名前。
実際に或る名前を探すために、地方の広報誌に慶弔欄がありここで調べました。
予想以上に男女ともに読めないような個性的な名前ばかりでした。
ふりがながあっても違和感が感じるようなものがありますが、一回知ってしまうと読めると言うこともあります。
「さくら」で「咲愛」というものがありましたが、ラブの「ら」だと思います。
先に音の響きを決めて表記を選ぶ傾向があります。
音に合う良い漢字を使う。
パソコン等が普及したので条件をクリアする名前は容易に調べられる。
それなりのパターンがあり、漢字の訓読み、音読みの一部を切り取る。
例えば「こはる」は「心春」と書くが、心の「こ」に春を足す。
「ここあ」は「心愛」 心の「ここ」と愛の「あ」です。
「大輝」は「だいや」 ダイヤモンドが輝くとか。
「そうた」は「颯太」、 「かなと」は「奏和」 大和(やまと)の和を取って「と」。
外国語読みする、「王冠」と書いて「てぃあら」、「海」と書いて「まりん」とかあります。
外国語の音に漢字を当てはめると言うのもあります。
世代、環境によって境界線がまちまちです。
漢字を繙いて行くと、中国の文字を導入したもので、大和言葉はそのまま書き表すことは出来なかった。
地名、人名はその音に合う漢字を借りてきて一字一音で表した。
例えば邪馬台国、卑弥呼など魏志倭人伝で書かれているが、日本の言葉を中国人が聞いて自分たちの言葉、音に表して、そして同じ様に日本人がやるようになる。
訓読をするようになって漢字を音と訓でやるようになる。
日本語は無理読みの宿命を持っている。
「生きる」 うまれる、なまにも使えると柔軟に解釈するようになる。
辞典によって収録が変わるので音と読みが本来揺れ動いていた。
藤原明子 (あきらけいこ) 徳川家茂(いえもち) 楠木正成(まさしげ)など
明治以来の国語 国字政策だったのではないかと思う。
漢字観の断層というか漢字観が変わったことが、キラキラネームになってしまうような日本語の社会の土壌を作ってきた、と考えられるのではないかと思っています。
明治4年に戸籍法が制定されたが、名乗り辞典に明治から昭和初期に珍しい名前が表されている。
その中に有るのが「元素」は「はじめ」と読みます。
「日露英仏」は「ひろえ」と読みます。
「阿幌」は「あぽろ」 「七分」は「すちーぶん」 真柄は「まーがれっと」
「六花」は「ゆき」(雪の結晶)
昔からあったが絶対量が全然違っていた。
終戦後当用漢字が採用されて漢字制限が実施されるようになる。
1850字に限って使う様にするということになる。
字の形も簡単にする、戀(糸が絡まったように言葉がでないせつない心)→恋(AにしようかBにしようかというような亦に心) 語源が全く違ってきてしまっている。
稽古→けい古、斡旋→あっ旋 などまぜ書きになってしまっている。
漢字の基本を弱めるようになってしまった。
漢字をイメージで捉えるようになって行ったんだと思います。
昭和56年常用漢字に切り替わったが、漢字観がすでに作られてしまっていて、1990年代半ばあたりから当て字が出てきた。
漢字のカジュアル化がキラキラネームの母体になったのではないかと思います。
「和子」「かずこ」が一般的になっているが、本居宣長は「かつこ」と読むべきだと言っているが。
日本語の漢字の体系が壊れかけているから、キラキラネームが増えているのではないかと思います。
地名は過去の歴史の事をすべて含み込んでいるが、人名は新陳代謝が激しい分、今の動きを凄く知らせてくれる。
若い世代を非難するだけではなくて、漢字の体系が壊れかけているのではないかという事実を、もう少し見つめて気が付いたほうがいいのではないかと思っています。