2018年10月31日水曜日

岩楯幸雄(ブックカフェ店主)       ・街の本屋の灯は消えず

岩楯幸雄(ブックカフェ店主)       ・街の本屋の灯は消えず
今年 2月20日小田急線代々木上原駅で、40年続いた小さな書店が大勢の人に惜しまれながら店を閉じました。
店の名前は「幸福書房」、岩楯幸雄さん夫妻と弟の敏夫さん夫妻の4人で朝8時から夜11時まで365日年中無休で切り盛りしてきました。
お客様の顔を思いうかべながら仕入れをし、書棚を通してお客様と会話をすると言う経営方針、こんなに小さな本屋さんなのにほしい本が揃っていると 、多くの読書ファンから熱烈に支持されました。
しかし出版業界の不況の波は容赦なく押し寄せて遂に閉店に追い込まれました。
地元はもちろん全国の幸福書房のファンからは、今なお閉店を惜しむ声が数多く寄せられています。
近くに住む作家の林真理子さんもそんな熱心なファンだった一人です。
閉店から8カ月後、今月22日、岩楯さんは豊島区南長崎の自宅に小さな手作りのブックカフェを開きました。

ブックカフェは手作りで始めて、知らないことばかりで、大変でした。
43,4年前に初めて店を出した土地でもあります。
電機メーカーの営業職をしていました。
通勤途中暇なので、雑誌などを毎日読んでいました。
結果的には本屋が好きで弟とやり始めました。
兄弟喧嘩になるので別の店を出した方がいいと周りから言われ、代々木上原の方に支店を出しました。(兄弟喧嘩はありませんでしたが)
「岩楯」では書店名が読めるかなと思って、名前が「幸雄」なのと、北海道の駅名にもあったし「幸福書房」としました。
代々木上原の店は駅前で広さは20坪の店舗でした。
8時から沢山の本を並べてやってきました。
夜11時までやりました。
八百屋さんのように本を積み上げて、当時50万円の売り上げがありました。
40年間程度本屋をやってきて、30年間は本が売れましたが、最後の10年間は売れなくなってきて、最後の5年間は売れずに辛かったです。
弟と月給10万円ずつになってしまいました。

南長崎を出るのが6時15分ごろで、7時に店に着いて梱包を開いて準備をします。
朝食は後から妻が持ってきて店で食べました。
昼食は弁当で、その後1時間位寝袋で昼寝をして、7時までレジにいて、交替で11時頃までやって自転車で帰ってきて12時半位になり、シャワーを浴びたり食事をして寝るのが2時頃になります。
翌朝6時には起きます。
妻は夜の食事を作ってから寝て、4時ごろ起きたので大変でした。
365日元日もやっていましたが、10数年前に元日ぐらい休もうと言うことで元日は休むようになりました。
学校では緊張してトイレを我慢して、うちの店に来てトイレを借りに来る子が10人ぐらいいました。
電車賃を貸してあげたりして、地域としての存在価値はあったと思います。

林真理子さんが引っ越してきて、サインをしていただくことがとっかかりになり、秘書の方が手提げ袋が一杯になるほど本持ち帰って、サインをして持ってくるとい言う事を続けていました。
TVでそのようなことが放映され、サインをしてくださいと凄い人が集まりました。
それこそ2万冊位になりました。
閉店してから真理子さんの家に伺いましたが、本屋さんに足が向かなくなってしまったと言っていました。
レジにいてお客さんの好みの本が判るので、仕入れを色々考えます。
ここの本屋さんは良い本屋さんだと言うふうにおほめをいただいたのは、自分で仕入れに行くという事が、お客さんの好みの本が手に入れられることからだと思います。
口には出さないが貴方の為にこの本を揃えましたよ、と言うようなことの積み重ねでやってきたので、品揃えのいい本屋だと思われるようになりました。

信頼できる著者の本ならば2冊置こうと思いました。
気付いてほしいと言う思いがあります。
2月に閉店しましたが、2年半前に更新の時期が来て、契約を2年半にしました。
お客さんには3か月前に連絡しましたが、辞めないでほしいと言う声が一杯ありました。
周りからのお金の支えがあったとしても、体力的に持たなくなってきていて、閉店を決意しました。
最後の5日間で出来上がった本「幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!」などを2000冊買っていただきました。
普段一日15から20万円の売り上げでしたが、最後の日は250万円の売り上げでした。
最後の数時間は真理子さんに『西郷どん!』を200から300冊サインしていただきました。
最後の最後に何百人と言うお客さんの前で真理子さんに挨拶をしていただきました。
「文化の灯が消える」とおっしゃって涙が出ました。

最終日は11時頃までかかりまして、「打ち上げ」どころではなくなりました。
閉店して2カ月位は何もする気がありませんでした。
ブックカフェをなんとか立ち上げました。
私のブックカフェは返品の出来なかった商品で、それなりに価値のある本があります。
2020年にときわ荘ミュージアムが出来るので、手塚治虫などそうそうたるメンバーの本が2年後に並び変えられればいいなあと思います。