町田 康(作家・ミュージシャン) ・古典を読む楽しみ
町田さんは56歳、19歳でパンクロックバンド 「INU」のボーカルとしてデビュー、解散後も音楽活動を続けるかたわら映画への出演、詩やエッセーを発表し、小説家としては1996年に処女作、「くっすん大黒」で野間文芸新人賞、2000年には「きれぎれ」で第123回芥川賞受賞。
以降も数多くの文学賞を受賞しています。
最近力を入れているのが古典の現代語訳です。
今は「ギケイキ」に取り組んでいます。
日常や小説を初めとする創作の流儀、古典の楽しみ方などについてお聞きします。
「ギケイキ」の冒頭部分を朗読。
歌も歌いますが、歌は伴奏があるが、朗読は他の音が全然なくて自分の声だけなので緊張します、厳粛な気持ちになります。
熱海には12年住んでいます。
東京に住んでいたが猫の数が増えてきて 手狭になり田舎にということで引っ越しました。
10匹以上いましたが今は7匹です。
熱海に来て犬も3匹飼っています。
朝6時位には起きます。
猫にご飯をあげたりすることから始めて朝食をとり、8時ぐらいから小説の原稿に取り掛かります。
11時ぐらいまでしてから、雑用をして、また猫の世話などをします。
夕方には犬の散歩などをして、夜は資料とか仕事で読みたい本とか、自分の読みたい本を読んだりしています。
夜は9時~11時頃には眠ります。
音楽活動はずーっと続けて来ましたが、小説を本格的にやるようになってからは余りやっていませんでした。
36歳まで音楽活動をして、56歳位までは小説のことをやって今は両方やっています。
執筆と音楽活動はお互いに刺激し合うような所があります。
ロックが好きでしたが漫才、落語、浪曲、など日本の古くからある演芸は好きで聞いていました。
本は子供のころは児童文学、10代のころは筒井康隆さん、野坂 昭如さん、大江健三郎さんとか読みました。
読んだものの影響は全て受けていると思いますが、筒井さんは判り易く影響を受けていると思います。
自分のこと、身の周りのことを書くのは苦手です。
エッセーも面白く読んでもらうための工夫を入れたくなる方なので、フィクションとの境界が割とあいまいな感じです。
1996年「くっすん大黒」を発表。
その本の前に書いた本を読んだ編集者が、小説を書いてみませんかというのがきっかけでしたが、小説を書こううという強い気持ちがあったということはあります。
誰も書いたことのない様な小説を書きたいとは思っていました。
文章自体が好きです。(音楽と音とに例えると音色が好きです)
自分が一番かっこいい、一番渋いというような、いいなというもの、そんな感じの言葉の選び方です。
子供のころから親しんだ演芸(漫才、落語、浪曲、など日本の古くからある演芸)が耳に残っていて昔と繋がっています。
古典文学のことをやっていると古典を勉強しているのかとか、思われるかもしれないが、学校では興味はなかった。
中学で平家物語を朗読させられる授業があり、いまだに耳に覚えているところはありますが、ロックの方がかっこいいというような気持ちはありました。
子供向け日本史の通史の本があり、物語風に書かれていた。
それが面白くて何度も読みました。
語り口による昔に興味を惹かれるようになりました。
19歳の時にデビューしたものに落語の一節も入っています。
古典は今の常識では考えられないよいなことが起こっていたりしますが、判らないところは流してしまって判る所だけ読んで、つじつまが合わないところが出て来る。
アレっと思って立ち止まって考えると、こういうことだったのかという驚きがある。
段々分って来るのは、昔の人がやっていることといまの人と余りベーシックのところでは変わらないんだなとわかった時には、時間的に通じる喜びがあります。
そうすると頭の中ではすでに翻訳している訳です。
「浄土」短編集 古事記を一部翻訳したような話を書いていたりしました。
古典の翻訳を本格的にやったのが「宇治拾遺物語」です。
置き換えること自体の面白さはあります。
古典は重々しいものの様に感じてしまうが、自分の本当の身の回りのものに置き換えると急に楽しくなります。
下人とか出てくるがスタッフと言って置き換えてしまっても成立する。
聖、私度僧(自分で勝手に僧になった人)はインディーズ系の僧というと非常に判りやすい。
そんなことをやってもいいのかといわれるが、仏教は難しいが、かなり面白くして判りやすくして一般の人に言っていた。
「ギケイキ」 室町時代に成立した話で、源義経の生涯を面白おかしく書いた話です。
原典を読んで直訳する
「常盤と申すは日本一の美人なり。 九条院はことこのませたまいければ洛中より
容顔美麗なる女を千人めされて、その中より百人、百人の中より十人、十人の中より一人得らりけるたる美女なり」
そしてこれは私の訳した訳し方です。
「母は極度に美しかった。 母は、藤原の呈子さん通称九条院さんの家に雇われて働いていた。 ・・・九条院さんは華美を好んで超美人しか雇わない。 そのためにオーディションをするわけね。・・・」
藤原の呈子に関する説明をさりげなく入れる。
装束なども現代風に大胆に翻訳する。
軽薄なファッション雑誌風の文体を取り入れたりする。
原文に付けくわえたらどうなるか、補って書くことによって面白おかしくして、つじつまが合う様に考えたりする。
①直訳をする、②少し異訳の部分を増やす、③足りないところを補うこの三つをやると翻訳が物凄く面白くなる。
「ギケイキ」は予定では4巻で収めたいと思っています。