河岡義裕(東京大学医科学研究所特任教授)・新型コロナウイルスの征圧を目指す
河岡さんはそれまで不可能だと考えられていたインフルエンザウイルスを人工的に作る技術を世界で初めて開発しました。 その技術は新型インフルエンザの新しいワクチン開発にも生かされています。 現在は新型コロナウイルスについて最前線で研究を行い、ウイルその特性を明らかにし、新たなワクチンの開発を行っています。 河岡さんは先日、医学、生命科学の分野で優れた業績を上げた研究者を表彰する第27回慶応医学賞の受賞者に選ばれました。 日本とアメリカのウィスコンシン大学で研究生活を送る河岡さんに伺いました。
シカゴから車で2時間ちょっと車で行ったところで、アメリカの真ん中あたりにいます。 1997年から ウィスコンシン大学マディソン校 の教授をしています。 1999年から 東京大学医科学研究所 細菌感染研究 教授としても務めています。 昨年から国立国際医療研究センター研究所 国際ウイルス感染症研究センター長も務めています。
子供のころは通信簿に落ち着きがないと書かれていました。 動物が好きでした。 中学のころ、ペットショップから鳩の卵なら安く仕入れられるので、それをふ化させて多い時には15羽ぐらいいました。 家に戻るためのトレーニングをして、自転車、電車に乗ってやっていました。 勉強は人並みにはやっていました。 最初大阪大学の工学部を目指しましたが、高校に行って数学が出来ないことに気づいて、生物系に行こうと思って北海道大学獣医学部に行きました。 高校時代は1年の最初の試験では450人いて、後ろから数えて25番目でした。 受験勉強で優秀でなくても、いろんな方法でいい仕事を残すことはいくらでもできます。 獣医学部に入ってよかったのは、人を特別に見るという事はなかったので、今の職業ではよかったのかなあと思います。 卒業して修士課程に行きました。 実験が凄くおもしろかったです。 その後鳥取大学農学部の助手になりました。 3年半いて、その後アメリカに行きました。
最初1年で帰る予定でしたが2年となり、研究室のグループのポジションが空いたので、残らないかと言われて、残ることにしました。 インフルエンザウイルスの研究者のロバート・ウェブスター教授と出会う事になりました。 彼はとっても良い先生でインフルエンザウイルスの事、日常生活でもいろいろ助けていただきました。
1999年に世界で初めてインフルエンザウイルの人工合成に成功。 当時とっても難しいと思われていました。 インフルエンザウイルスの流れで、一本だけ作る技術を持っている人がドイツから来て、別のプロジェクトでの仕事に2年ぐらいでめどが立って、彼女が昔やっていた一本だけ作る技術を実験室で始めて僕に見せてくれました。 その出来方がとっても効率よくて、工夫すればインフルエンザウイルスを人工合成ができると思いました。 ウイルスの粒子のなかに8本のRNAが入っています。 残りの7種類も作って、大事なのは同時に8種類の異なる遺伝子を,RNAを、ウイルスの粒子の中にいれるという作業です。 担当を決めて一挙に8種類作ることを行いました。 ウイルスの粒子はだいたい100ナノメートル(1/10000mm)。 エイヤとやったらウイルスが出て来ました。 確立してしまうと凄く簡単な技術なんです。 ですから世界中の研究室でどこでもできるんです。
鳥インフルエンザなどのウイルスの病原性をなくす作業をしないといけない。 そこだけを変えたウイルスを人工的に作るんです。 強い病原性のウイルスを、病原性をなくしてワクチン株にする。 それがいま世界中で高病原性のインフルエンザのワクチンとして備蓄されています。 アメリカではインフルエンザの生ワクチンが出来ていて、人には感染するけれども病気を起こさないが免疫をつけるというワクチンですが、これもリバースジェネティクス法によってつくられている。 こういう研究をしていると、FBIなどがチェックに来たりしますが、凄く協力的で情報共有します。
これが出来たのは運だと思っています。 あと熱中するかだと思います。 どんな組織もビジョン設定が重要です。 「SAVE the World 」もそれなんです。 概念があれば何をやるべきか、何をすべきじゃないかと言いう事がおのずと目に見えてくるわけです。 みんなが同じ方向を向くという事が重要です。 そのためのビジョンがとっても重要です。 我々がやっているいう様な事は実際手を動かしてやってみないと判らないことはいっぱいあるんです。 荒井?(新井)先生が「説明がつくからそれが正しいとは限らない」と言っておられました。 これまでの知識から説明がつくが、だからと言って正しいわけではない。 天動説と地動説のように根本がガラッと変わることもありうる。
2019年12月に新型コロナウイルスに関する情報が入って来ました。 1月中旬に論文が出て、「1月3日に中国の研究者が武漢に行って現地調査をした。」と書いてありました。 見た瞬間にこれは武漢で大流行していると思って、これはパンデミックだと思いました。 日本の薬品メーカーに電話して「ワクチンを作りましょう」、という事を始めました。 政府の予備会議で鎖国だと言ったんですが、当然できなくてその後とんでもない事になって行きました。 2013,4,5年の西アフリカのエボラの流行で現地に行っています。 握手もできず日常生活がガラッと変わりました。 SARS(重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome))とかで中国、韓国など経験した国は比較的早めに対応しています。 日本は対応に関していろいろ批判はありますが、対応策としては大成功しているんです。 100万人当たりの死亡者数を見るとアメリカの1/10以下なんです。 日本では感染者が20%程度ですが、海外では80%以上が感染してしまっています。 海外では感染してしまっていて免疫が出来ているからマスクなどもしていません。 日本はマスクをして流行の波ごとに、あと何回かやらないといけない。
新しい変異株が出てきた時には、それの性質を調べて今までの薬が効くのかどうか、どのようにウイルスは変わっているのか、というのが一つの作業で、後はワクチンを作っています。 日本で作っているとは別の生ワクチンです。 ウイルスの病原性をなくして、だけれども身体の中に入って免疫ができるというワクチンを開発中です。 生ワクチンは自然に感染した免疫と非常によく似ているので感染を防御する免疫ができやすい。 別のワクチンは免疫が出来ましが効果が減衰してゆく。 生ワクチンは本当に病気を起こさないか確認が必要で時間が掛かります。 まず動物に感染させてしっかりデータを取ってます、今その段階です。 1年以内にそれを終えて、人への第一ステージに入って行きます。 第一層、第二相、第三層迄あって、数年以上はかかると思います。 生ワクチンは安く作れるので世界中で使う事が可能です。 ウイルス学は27歳からたまたまやってきて、せっかくやってきたので我々の「SAVE the World 」、感染症の克服をやろうという事に行きつきました。