今関あきよし(映画監督) ・映画制作から考えた、震災後の釜石 ~映画したの裏側
映画『釜石ラーメン物語』が完成しました。 12月3日に地元の釜石で先行上映会が開かれ、来年の春に公開予定です。 メガホンをとったのは映六」で知られる今関あきよし監督です。 東日本大震災後の釜石の架空のラーメン店を舞台にした『釜石ラーメン物語』、どういう映画なのか、どんな思いが込められているのか伺いました。
最初に釜石に来たのは2014年です。 まだ震災の傷跡が沢山残っている頃から毎年1~4回以上来ています。 先行上映会にちらしがありますが、「麺は細いが絆は太い、湯気の向こうに笑顔咲く『釜石ラーメン物語』人情根性釜石ラーメン奮闘記」と書かれています。 夫婦、お姉さんと妹の4人家族で、ラーメン屋さんをやっています。 お母さんは震災で行方不明になってしまって、お父さんと娘二人で頑張っていましたが、姉が急にいなくなってしまう。 或る日姉が突然帰ってくるが、「こんな店辞めてしまえ。」と言って店を掻きまわし始める。 そこから物語が始まっていろいろあって、この家族が新しい人生、再生をしてゆく物語です。 最後は東北ラーメンの対決という事で、釜石ラーメンが何位にあるのか、家族は再生しるのかといった物語です。ロケは全編釜石です。 小佐野の町の雰囲気が気に入りました。 鉄鋼の街の雰囲気が残っています。 昭和的な感じがしました。
生まれは1959年 2020年に82歳で亡くなった映画監督大林信彦さんと親交が厚く、今関さん自身23歳で、富田靖子さんの主演映画『アイコ十六歳』でプロの監督としてデビューしました。 以来美少女をモチーフとした作品を映画やテレビで発表してきましたが、ここ数年はチェルノブイリ発電所の事故を題材にした映画『カリーナの林檎〜チェルノブイリの森〜』をはじめ、ウクライナの伝説の緑のトンネルを舞台にした映画『クレヴァニ、愛のトンネル』、モスクワで全面ロケをしたという『ライカ』に加えて、台湾のグルメや観光スポットを織り交ぜて進むヒューマン映画『恋恋豆花』などを監督しています。
今、ロシア、ウクライナという言葉が出ない日はないと思います。 どちらでも映画を撮っていて友人知人が多いです。 どちらの国も困っています。 若いころはアイドルを撮ってきましたが、ここ10年ぐらいは海外を中心とした国を撮っていて、僕にしかできない視点で、場所からイメージして作るドラマが最近は多いです。 2014年或るきっかけから釜石を見て、震災の傷跡は残っているけれど、街は悲惨な状況であるが、会う人が非常に明るくて、でも悲しい話をしてくれて、こういった方向で映画を撮りたいという思いがあり8年間通い続けてきました。 2年前に、そう言えば来るたびにラーメン食っているなと気づいて、それを映画に結びつけるのには時間が掛かりましたが、人情喜劇みたいなものが出来ないだろうかと思いました。
釜石ラーメンは琥珀色に透き通った醤油味のスープ、麺は極細のちぢれ麺、程よい腰が特徴。 釜石ラーメンが登場したのは高度経済成長期と言われていて、極細のラーメンは湯で時間が短いので、釜石製鉄所の人、漁師の人がすぐに食べられるようにと工夫した結果、釜石ラーメンになった。 市内には33店舗あります。 無意識に食べてしまうラーメンですね。 昭和テーストが残っています。 食べ物にはドラマがあります。 いしかわ彰脚本家はトータルなあらすじを作り、細かいやってみたいシーンを言って、パズルを組み立ててくれるのが、シナリオライターのいしかわ彰さんです。 生活している人たちのエネルギーみたいなもの、元気なもの、喧嘩したり仲直りしたり、愛情のある喧嘩、そういったものを作りたかった。
映画化するのに一番大変だったのはコロナですね。 町の協力は全面協力していただきました。古賀町の桜は是非映画に取り入れたいと思いました。(半年伸ばしました。) 釜石の人は火が点くまでには時間が掛かりますが、火が点くと凄い勢いになるということは、一番強く感じました。 方言の指導をしてもらいました。
釜石に通いながら復興してゆく風景などを見ながら、震災時のことを笑いながら話したりするんです。 そういったことを含めて凄いと思い、人間の強さを感じました。 震災をいい意味でオブラートにくるみながら、ドラマにして、他の震災の映画にない明るさを感じてもらえればいいなあと、前向きさを感じてもらえればいいなあと思います。 人間が人間らしく普通の生活とはどういうものか、再認識しなくてはいけないきっかけになった災害だと思って、家族同士、友達同士の繋がりを含めたことを、又ゼロからもう一回考え直すきっかけになった大変な災害だったと思います。 ”普通のこと”がいかに素晴らしい事なのかという事を再認識させられた大きな災害だったと思います。 90分ぐらいの映画なので始まったら、泣きながら笑いながら一気に観れると思います。 釜石からの映画の発信で、釜石をもっと知っていただきたい。