穂村弘(歌人) ・〔ほむほむのふむふむ〕
「ほむほむと短歌を楽しもう その4」、応募いただいた作品のなかから、今年のほむほむ賞に選ばれたのはみそぴーさんの作品。 テーマ「動物」
「折り紙で動物園を作ってる涼しい午後の保健室にて」
動物園は命の激しさなどが集まっているが、涼しい午後の保健室って、その逆でとても命が静かな状態にある。 命を持たない紙で動物園を作る、ある欲望というのか、願いというのか、その在り方に魅力を感じます。
*「猿の目を見るなと町内放送が片目の猿を思い浮かべる」 こうきせい
猿の目を見ると襲ってくるんでしょうかね。 動物園と違って人とのすみわけが出来ていない不穏な感じがします。
*「燕たちお帰りなさいと会える日を願い旅路の無事を祈ります」 坂本文
凄く素直な歌です。 燕たちに心を込めて言っている、そこに胸を打たれました。
*「親子猫十三歳と十二歳時にじゃれ合い我に噛みつく」 浅野久基
高齢なんだけど「じゃれ合い」「我に噛みつく」というところが面白いですね。
*「コウモリの不意に飛びきて急転回首すくめ行く夕闇の道」 中村優子
コウモリの動きは鳥とは違う。 時間帯の違いもあります。 事実も無数にあり、その中のどこを書くかというのも一つのセンスだと思います。
*「認知症真夜中吼える愛犬を打ちし悲しみ今も残りぬ」 もくぼう
これは凄く悲しい歌で、犬も高齢化するとそうなるんですかね。 真夜中で吼えて何とかしないといけないと、ついぶってしまった。 誰も悪くないのにそんな悲しいことはない。 後悔している。
*「夏祭り誘う人なくただ歩きただ金魚の泡をみていた」 としちゃん
みんなが楽しそうにしているとよりさみしい。 「金魚の泡をみていた」とクローズアップすることでより虚しさが表現されている。
*「動物と言えば俺も動物だ植物に生まれたが方がよかったなあ」 西山洋一
しみじみした感じが面白いですね。 森では動物とは違った濃密なコミュニケーションがあるような気がします。
*「子守歌歌えば肩の愛鳥が頬にそうとくちばしで触れる」 まるこん
可愛いですね。 子守歌も鳥が判るんですかね。 優しさが惹かれます。
*「雷を怖がる犬は雷を何と思っているのだろうか」 白井義彦
犬は判らないからもっと怖い。
「ペッタンペッタン白鳥が来る」という絵本、15年前に動物をテーマにした短歌を集めた絵本があり、それを穂村さんが解説しています。
*「水を出で大きく黒きみずかきにペッタンペッタン白鳥が来る」 渡辺松雄
この短歌からタイトルをつけました。
「金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に」 与謝野晶子
なるほどな、と言う感じです。 凄くゴージャススな風景、与謝野晶子の内面のエネルギーのようなものを感じます。
「寂しさに海を覗けばあはれあはれ章魚(たこ)逃げてゆく真昼の光」 北原白秋
一瞬で蛸が搔き消えた感じ。 「寂しさに海を覗けば」というのが面白い、俺の友達は海にしかいないと思って、覗いた章魚(たこ)さえも逃げてしまった。
*印の短歌および人名は、漢字、かな等、違っている可能性があります。