島田敏(声優) ・【時代を創った声】
アニメ「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん、さくら友蔵役、映画「スター・ウォーズ」シリーズのルーク・スカイウォーカー役など の吹き替えなどやってきました。 「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん、さくら友蔵役は前任の青野武さんから引き継いで12年。 青野さんが病気になってオーディションが行われ合格しました。 それまで年配の役は多くななかったです。 コロナ禍で収録形態が大きく変わってしまいました。 今は2,3人ずつに分かれての収録になっています。 外国映画のスタッフさんに何が大変ですかと聞いたら、ガヤ(メインの出演者の周囲で声を出すなどして場を盛り上げる役割の人を指す語。)だというんです。 みんながいればガヤ取り出来たんですが、それが出来なくて仕事が増えてしまってとんでもないですと言っていました。 2,3人の場合にはどのぐらいの熱量で行けばいいのかわからないんです。 キャスティングも知らない方だとどう来るのか判らないので、そこがとても悩みます。
新潟県生まれですが、やんちゃな子供時代を送っていたと思います。 小学校3年生ごろに、「柔道一直線」と言う番組があり、柔道に憧れて妹を含めて段どりなどやっていましたが、妹の肩を脱臼させてしまって、親から大目玉を貰いました。 中学3年間は吹奏楽部に所属していました。 高校2年の夏の時に中学校時代の友人がいる札幌に一人で遊びに行って、帰りに青函連絡船に乗って百万ドルの夜景を見ながら自問しました。 ふと思い浮かんだのが演じる事、芝居をしてみたいなと思いました。 アマチュア劇団に入って、週に2回の稽古と年に2回の公演に参加しました。 奨学金を貰っていたので大学時代は真面目に過ごしていました。 劇団テアトル・エコーが一期生を募集しているというので、新潟の劇団の友人と一緒に受けたら、友人は落ちて、私が受かっちゃいました。 3年で劇団養成所生になって4年で研究生になり、その時にこの道で行こうかと思いました。 両親からは何を考えているんだと言われて、時間はかかりましたが何とか認めてもらいました。
劇団テアトル・エコーでは大道具、小道具の製作、稽古では代役をやったりプロンプ(居やテレビなどで台詞 (せりふ) を忘れた俳優に陰からそっと台詞を教えること。)などをやっていました。 先輩たちの演技に対する心構え、真摯に向き合う姿に憧れました。 外国映画の吹き替えに興味はないかと言われて、ありませんと言ったんですが、明日「バルジ大作戦」と言う戦争映画があるが、行く様に強くマネージャーさんから言われて、行く事になりました。 若い出演者が来ないという事で営業監督が急遽「君が替わりをやれ」と言われて、本当にびっくりしました。 ほかの人たちは前日にリハーサルが終わっているんです。 先輩が「背中を突っつくから、突いたらしゃべれ」と言われて、冷や汗の流れる中で何とかアテレコが終わりました。 悪夢のような一日でした。
その後、アニメーションのレギュラーの番組を頂いて、「宇宙魔神ダイケンゴー」と言います。(1978年) 主役の弟のユーガー役でした。 劇団の納谷悟朗さんは大先輩で演出家でもあります。 スタジオにたまたま二人きりとなり、無言の状態が続いて耐えられなくなり、「納谷さん」と言ってしまって、「今日はいい天気ですね」と言ったら、「無理やり話題を作らなくていいから」と言われてしまいました。 夕方から始まる番組があり終わると飲みに行っていました。 その時に納谷さんが「僕はスタジオでは何も言わない。 どういうことか判るか」と言うんで、「いいえ」といったら、「僕がスタジオ内でダメだししたら、次から僕を頼って来ると思う、自分で役つくりをしてよかったら次の仕事が来る、駄目なら潰れてゆく、それだけのことだ 。 だから心して仕事に向き合いなさい。」と言ってくださいました。 「判りました。」と言って席に戻ったら、「島田、台本を持ってこい」と言って「このセリフがどういう気持ちで言った。」と聞くんです。 説明していると、「あーしまった。」と思いました。スタジオで見ていて下さり、飲み屋で駄目だしを下さり、まさに納谷悟朗さんによる個人授業だったんです。
悪役、敵役は魅力のある役どころだと思います。 相手がいかにイライラするか、腹が立ってくるか、そういったことで楽しむことが面白いところだと思います。 、映画「スター・ウォーズ」は壮大なストーリーが織りなす映画なので、興奮したのを覚えています。 1977年から9作品。 若きルーク・スカイウォーカーから歳を重ねたルーク・スカイウォーカーまでを演じさせていただいて、とても光栄に感じています。
アニメ作品と吹き替え作品は全然別のものと思っています。 アニメ作品は与えられた役に想像力を膨らまして命を吹き込みます。 相手のセリフを聞きながらドラマが構築されてゆく。 替え作品は外国の役者さんに出来るだけ近づけた形で演技をしていきます。 吹き替えの方が同時にいろんなことを体感しながら進んでゆく現場になります。
「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん、さくら友蔵役を引き受ける事になり、最初の収録日の時にスタジオに向かう足取りが重いんですね。 スタジオに入った瞬間拍手で迎えていただいて、「おじいちゃんの席はここです」と言われたときには涙が出そうになりました。 ちびまる子ちゃんが大好きなおじいちゃんと言うイメージで演じています。 微妙な感情の表現、声で真逆の感情表現というのが難しいところであります。
表現者は自分力を磨くことだと思います。 その人ならではの実体験がその人の魅力になって行くんだと思います。 この業界は次の3つが必要だと思っています。 ①才能、②努力、③運。 若い人はこの3つを掴み取ってもらいたい。 運もアンテナを磨いていくと、何かが通った時にふっとキャッチできると思います。