梶本恵美(脚本家) ・【戦争・平和インタビュー】 「平和への祈り」を書き続ける
京都市出身の65歳、1991年NHKの土曜ドラマ「春むかし」で脚本家としてデビューし、テレビドラマを中心に活躍しています。 昨年放送されたNHKの土曜ドラマ「ひきこもり先生」を手掛けて、生きる事と少年から向き合ったこの作品が第38回ATP賞の奨励賞を受賞しました。 さらに1995年からは舞台にも活躍の場を広げて、アンネ・フランクなど戦争や平和を題材にした作品を数多く執筆しています。
初めて戦争について脚本を書いたのは1995年のテレビドラマ「風たちの遺言」という作品です。 主な舞台は戦中の東京の浅草の食堂「すみれ屋」で主人公は「すみれ屋」に下宿している平石という男です。 彼は戦争末期に海の特攻「回天」の部隊に配属され命を落とします。 「回天」は操縦席の人間ごと敵艦に体当たりする海軍の特攻兵器で「人間魚雷」とも言われていました。 「回天」の基地は今の山口県大津島にありました。
終戦記念番組をやる時に特攻隊のことをやりたかったので、知覧を調べている時に、書籍の中から「回天」を知りました。 海のなかを暗い中、目標とする敵艦を攻撃することは凄いことだと思いました。 空からの特攻とは違って、何も見えないところ行くというのは、どんな思いだったのだろうかと思いました。 特攻の数日前には家に帰れるけれども作戦のことは絶対に公言出来ないし、家族の元にももう帰れないなかで、母親の着物で座布団を作って欲しいと言って、その座布団で「回天」に乗って死んでゆく。 そういった資料から感じ取って、胸が詰まるようなものがいろいろ残っています。 神田の古本屋街を歩き回って、良いものが一杯見つかりました。 国会図書館に行っても調べました。 まず知りたいという思いがあり苦労とは思いませんでした。
同じ1995年に広島の原爆に関する朗読劇の脚本を書くことになる。 「ヒロシマ、時の音」というタイトルで台本を書きました。 佐々木貞子さんは原爆の像のモデルで折り鶴の話で知られていますが、2歳で爆心地からおよそ1.6kmの自宅で被爆、小学6年生で白血病の診断を受け、12歳で亡くなりました。 入院中回復を願って折り鶴を折り続けたことで世界中に知られています。 或る人が佐々木貞子さんに関する本を探してくれて、その読んだら涙が止まらなくなりました。 電話が掛かってきて、広島で10月25日(佐々木貞子さんの命日)に朗読劇をやるんですが、という事で檀ふみ(いとこ)も出演するという事で、朗読劇など何もわからなかったが引き受けました。 佐々木貞子さんに関する本を探してくれた人も2歳で被爆されました。 その人は成長して好きな人が出来たが、その母親から「ピカの子はもらえん」と言われたそうです。
締め切りまで1か月しかなくて、取材する時間がなかなかありませんでしたが、作品を作るにあたって偶然いろいろな話の機会も得られました。 広島市の方から普通は見せてもらえないような資料(手紙など1000通以上)も見せてもらえました。
2009年 劇の主催をしましたが、いろいろ大変でした、大赤字でもありました。 これでは毎年できないと思いましたが、その後も上演し続けています。 メッセージを送りたい、伝えたいという事は強い思いです。 本当の自分を生き生きと生きられるようになる、そうなれるようなものを伝えたいなあと思います。 ここ3年はアンネ・フランクの舞台です。 「アンネの日記」を読むと素晴らしいです。 アンネ・フランクの輝いていた時をやりたいと思いました。 アンネ・フランクの同級生だった人たちの手記を見つけて、80歳を過ぎていた13人と知り合いました。 そのうちの2人が語り合う舞台にしました。 アンネ・フランクとアンネ・フランクの密告者を一人二役にしました。 最後にアンネ・フランクが出てきて「私は貴方だったかもしれない、貴方は私だったかもしれない。」と言います。 生まれた環境によっては、アンネ・フランクも密告者になっていたかもしれない、という事を言いたかった。 密告した人はずーっと罪の意識を背負っていくが、アンネ・フランクは許したと思う。
復讐に復讐を重ねてはいつまで経っても平和にはならない、と思っています。 愛するというなかに許すという事、信じるという事が入っていると思います。 平和は愛の状態だから、許すという事は必須ですね。
今を生きている人たちに何を伝えたいかという事が一番大事で、平和への祈りを体現することがあり、平和への祈り自体は一番のベースではあります。 願いと祈りは違います。 願いは今ここにないものを願うという事だと思います。 祈りは平和を信じるというか、平和であるという風にそれを祈ることだと思います。 意乗る=祈るだと思います。 戦争は体験していませんが、感性と直感でやっています。 そうするためには自分を空っぽにすることも大事で、そうするように心がけています。 いまの若い世代がどういいう事に直面しているか、どういう苦しみがあったり、どういう状態にあるかという事を知ることが大事だと思います。 命を大事にして生きるという事をちゃんと伝えることが出来たら、戦争する方に行かないと思う。 自分を大切にして人のことも大切にすることが出来たら平和な世の中になると思います。 生きるという事が素晴らしいという事を伝えられるような作品を作りたいです。