堤治(産婦人科医) ・産みたいときに産める社会へ
現在72歳、今も都内にある病院の名誉病院長として、診察や手術を行うだけではなく分娩にも立ち会ています。 今年4月には不妊治療に対する保険適用が拡大がされるのに合わせて著書も出しました。 堤さんは愛子さんのお誕生に東宮御所御用係として、皇后さまの妊娠から出産までの主治医を務めたことでも知られています。 半世紀にわたって妊娠や出産、不妊治療に携わってきた堤さんに伺いました。
今まで体外受精を含めた不妊治療は保険適用ではなかった。 子供が欲しい方は自由診療で、自分のお金を払って診療を受けるというのが長年のスタイルでした。 今年4月には不妊治療に対する保険が使えるようになりました。 経済的負担は大きなハードルでした。 全国で体外受精が増えてきているというのが実感です。 難治性不妊というのがどうしても出て来て、年齢が高くなってくるとそういった頻度も増えてくる。 難治性不妊に対する診断や治療は今回の保険適用ではカバーされていない。 難治性のために特別な保険で適用されていない検査や治療を行うと、すべてが自費診療になってしまう。 カバーされていないことをやるとすべてが保険ではなくなるという事です。
体外受精、顕微授精などは治療を始める時点で、女性の年齢が43歳未満であることが条件になっています。
体外受精の成績?というのは年齢によるところがあります。 43歳以上の方に手厚くしてもらいたいというのは現場の感覚としてはあるわけですが、国、公的資金、保険機関などがあるが、どうしても費用対効果を考えないといけない。 私が診ている平均年齢が40歳ぐらいです。 保険適用が制限されているかたの方が大半を占めているし、43歳以上で不妊治療をする方もいます。 43歳以上では不妊治療に向いていないと判断されては大きな誤解になるので、43歳で子供を作りたいと思った方は、むしろ早く産婦人科等に行って相談をしていただきたい。 48歳で体外受精を受けて49歳で出産された方もいます。
「妊娠の新しい教科書」を発行、日本は妊娠に関して疎い国で、欧米では小学校のこのころから精子、卵子とかを教えている。 日本は性や生殖に対する教育が遅れている。 卵子は赤ちゃんの卵巣の中で作られて、500万~700万個作られてその後新しく作られることはない。 だんだん減って行って閉経の時にはゼロになる。 20歳の時には卵子も20歳、40歳の時には卵子も40歳、こういった知識があまり知られていない。 不妊治療が保険適用になるという機会にも合わせて、一般の方にも妊娠の仕組みとか、よく知っていただきたいと思って出版しました。 日本の不妊治療の特色は、女性が社会進出をすると、妊娠出産育児が後回しになって、結婚年齢が40歳ぐらいになり、不妊治療を受ける頻度が高くなり、体外受精の治療が必要になる。 社会の体制として働きながらでも妊娠出産育児が安心してできる体制が整っていれば、20代で簡単に妊娠出産もできる。 そういう社会を目指すべきだと思います。
天皇陛下、皇后陛下の長女の愛子様の出産に立ち会わせていただきまして、去年20歳の誕生日を迎えられました。 御退院の時には雅子様は「お産は楽しかった。」とおっしゃいました。 陛下は検診の度に雅子様のところに来ました。 いろいろなお話、画像などもご夫婦で一緒に見ていただきました。 妊娠出産育児は夫婦共同で行うものであるという事を陛下が自分の行動で示されて感動しました。 雅子様には妊娠などに関する勉強をいろいろしてもらいました。 今は皆さんに楽しいお産をしましょうと、雅子様にあやかってお話をしています。
埼玉県の秩父市に長男として生まれました。 4000ℊで生まれました。 産婆さんが頑張ったが駄目で産婦人科の先生を呼んできて鉗子分娩(赤ちゃんを引っ張り出すような処置)で生まれました。 小学生のころから読書好きでした。 小学校の図書館の本は全部読みました。 多い時には20羽の伝書鳩を飼っていました。 1978年に世界で初めて体外受精に成功、ルイーズちゃんというイギリスの子です。 1976年には医者になっていましたので、1979年から不妊治療という事で卵子の研究に没頭しました。 家は代々織物業をやっていて、斜陽産業なので医学の道に進ませてもらいました。
1985年からアメリカのワシントンに2年間留学しました。 卵子の研究で東京大学から博士号を貰って、第二ステップとして留学することになりました。 卵子、精子がどうやって受精して、着床して妊娠して育つメカニズムがわかってくれば、受精しない、着床しない、流産することに対する対応が出来るという考えで、研究していくつか実現できました。
患者さんの声をよく聞くという事は今もよく行っています。 仕事をすることは祈りかなあと思っています。 一生懸命にやればやるほど人の役に立っているという実感があるので、多少疲れるという事はあっても擦り減らない仕事かなあと思っています。 息子は二人とも40代ですが、二人とも医師になっています。 妻も研修医の時に子供が生まれましたが、下の子は28週、1242ℊという早産でした。 今では大きく育ちました。 長男には2人、次男には5人の子がいます。 5人は今勤めている病院で取り上げました。 屋上にはバラを植えて水をやったりするのが日課になっています。
生命の起源を辿れば同じところから出てきているので、命を大事にするというのが自分の心の中の底辺にあるのかなと思います。 生命の誕生に携われるという事は本当に幸せなことだと思います。 生殖医療をどこまで広げて言ったらいいのか、子宮が生まれつきない方は卵子をとってご主人と受精させて、代理の方に移植、妊娠出産していただく、代理懐胎、生まれつき卵子のない方が卵子を提供してもらえれば、自分のお腹を痛めて子供を作ることができる。 卵子提供の基盤は出来ているけれども、実際的には国内でできにくいので、しかしこれからは考えていかなくてはならない。 卵子凍結し、子供を作りたいときに作る、そういう選択肢があってもいいのかなあと思います。